2017年05月11日
FinTechピッチイベント『Finovate Spring 2017』
2017年4月26・27日、シリコンバレーの中心サンノゼにて世界最大級のFinTechピッチイベントFinovateSpring 2017が開催されました。今回のFinovateでは、米国企業を中心に世界11ヶ国から集まった59社のFinTechスタートアップ、IT企業らが自社サービスの紹介を行いました。今年で10回目を迎えたFinovate Springで、特に印象的だった企業をご紹介します。

Finovateとは
FinTech企業(スタートアップ・大手IT企業)らが、1社当たり7分間という枠の中でビジネスアイデア・プロダクト紹介を行うピッチイベントで、FinTech関連ピッチイベントの中では世界でも最大級です。2007年秋にニューヨークでの第一回開催を皮切りに2008年からはシリコンバレー、2011年からはロンドンも定期開催地に加わり、またアジアでは2012年にシンガポール、昨年2016年は香港でも開催されるなど、FinTechに対する世界的な注目度の高まりとともにその規模を拡大しています。来場者は金融機関やIT企業のほか投資家やアナリスト・メディア関係者など幅広く、またそのポジションもC-レベル、SVP / VPが多くを占めていました。

CB Insightsの「The Global FinTech Report: 2016 in Review」というレポートによると、2016年一年間でFinTechベンチャーは836件、合計で127億ドルの資金を調達しました。2015年の848件・146億ドルよりは若干減少はしているものの、依然FinTechへの注目は高い水準であるといえます。
資金調達を受けた企業のステージは様々ですが、取引件数はSeed(1)やSeries A(2)の企業が半数以上を占めており、これから顧客をつかんでサービスを拡大していこうとする企業が多いといえます。それを象徴するかのように、Finovate Springに登壇した企業はFinovate全体(シリコンバレー以外での開催も含む)を通して初出場の企業が半数以上(3)、2013以降に創業した企業も約半数(4)など、Finovateは依然としてFinTech分野の起業家たちにとって自社のプロダクト・サービスをお披露目する場として捉えられていることが伺えます。
(1) ベンチャー企業の事業規模、成長段階を示す際に用いられる用語。一般的に、創業前後の企業を指す。
(2) ベンチャー企業の事業規模、成長段階を示す際に用いられる用語。一般的に、1回目の外部からの大規模な資金調達を行った企業を指す。
(3) (4) 主催者からの情報を元に調査
今年の傾向
FinovateSpring 2017では決済・融資・投資領域のソリューションや、KYC(5)やCRMなどの効率化を提案する59社のFinTech企業がピッチを行いました。

特に住宅ローン関連に焦点を当てた企業が多く登壇していたのが印象的で、住宅ローン申し込みの迅速化・簡素化を狙ったEllie MaeやCapsilon、住宅購入手続きのコンシェルジュサービスを提供するHome Captain、住宅ローンのマーケットプレイスを提供するBeSmarteeなどです(いずれも米国企業)。2017年は金融機関によるMortgage-Techへの取組みが加速するかもしれません。
また、意外にもブロックチェーン技術を用いたサービスは自社ブランドで仮想通貨を発行するサービスを提供するLeondrino Exchangeの1社のみでした。ブロックチェーン領域はプラットフォームや個別サービスを提供するプレイヤーと、大手企業・政府らとの実証実験がすでに多数進行中であり、新たなプレイヤーが多く参入するフェーズではなくなってきているのかもしれません。
(5) 一般的には銀行における新規口座開設の際に求められる本人確認プロセスを指すが、最近ではサービスの利用に際しての「本人確認プロセス全般」を指すことも多い。
登壇企業の紹介
印象に残った企業を紹介します。
割賦払いアプリ insto(本社:米国 カリフォルニア州)
insto社は誰でも簡単に分割払いが設定できるアプリを提供しています。
例えば、Aさんが所有する$2,000の絵を購入したいBさんがいます。Bさんは一括で支払える手持ち金がなく、購入代金を貯めている間にその絵が他の人に売れてしまわないか心配です。そんな時instoのアプリを利用していれば、Aさんに頭金や月々の支払金額など、分割払いの交渉ができるというものです。


instoのサービス画面
米政府認可のデジタル認証 ID.me(本社:米国 バージニア州)
ID.me社は個人が自分の身元をオンラインで証明できるDigital Identityのプラットフォームを提供しており、その認証技術はオンライン上での法的な身分証明においても米連邦政府から認定を受けています。公的な手続きの時の本人確認や銀行での口座開設などだけでなく、医療機関や小売業者などにも有効なソリューションで、すでにスポーツ用品メーカーUnder Armour社や自動車メーカーのFordなど、米国大手企業での採用が進んでいます。
(Digital Identityについては、「Digital Identity. デジタル世界の本人確認」も参照下さい。)


ID.meのサービス画面
ソーシャルグラフで重要顧客を特定 Alpharank(本社:米国 カリフォルニア州)
Finovate Springでは、参加者の投票により8社のBest of Showが選ばれました。その中の1社であるAlpharankは、企業が持つ取引データから、その企業(ある商品)にとって影響力の高い人(インフルエンサー)を特定する、マーケティング戦略支援ソリューションをしています。


Alpharankのプレゼン
CEOのBrian Ley氏に伺ったところ、「インターネットの普及で情報過多ともいわれる現代、消費者にとって知人からのお勧めやクチコミは非常に重要。それは金融機関にとっても同じであり、金融取引データからインフルエンサーを特定し、マーケティング戦略を立てることが求められてくる。」と説明してくれました。
上記で紹介したのはほんの一部ですが、登壇企業のサービス・ソリューションはここ数年の傾向にみられるように、金融機関向けの“Bank Friendly”なものが大半を占めていました。一時は金融業界を根幹から変える、Disruptive(破壊的)な存在ともいわれたFinTech企業ですが、金融機関自らが新サービス開発・業務効率化へのテクノロジー活用に積極的になってきたことで、金融機関とFinTech企業、その周辺を取り巻くエコシステムが確立されてきていることの表れかもしません。
※写真:筆者が会場にて撮影

NEC Corporation of America
Business Development Manager
システムエンジニアとして金融機関向け業務アプリケーション開発・システム企画を経て、2016年6月よりシリコンバレーにて米国発の新技術・サービスの調査、活用の企画・推進に従事。