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「規模・業種を問わず活用してほしい」
ローカル5Gの可能性を広げた挑戦

 企業が自社の敷地や建物の中に独自の5Gネットワークを構築し、事業に活用するローカル5G。高速で安定性も高いネットワークを独占できるとあって、さまざまな期待が高まっているが、広く普及するには解決しなければならない大きな課題がある。設備を構成する機器の複雑さ、そして、高額な費用である。実際、これらが課題となり、ローカル5Gの実証実験は、特定の分野に止まっている印象が強い。しかし、課題解決に大きな兆しが見えている。解決したのはNECのローカル5G小型一体型基地局である。キーパーソンに開発秘話とローカル5Gの可能性を聞いた。

月面を歩き、クジラに触れる。ローカル5Gが可能にする体験型授業

 ──国を挙げて取り組みが進んでいるローカル5Gの活用ですが、どのような分野で活用が進んでいるのでしょうか。

:まず活用が先行しているのが製造業や建設業、公共などの分野です。たとえば、製造業では5Gネットワークを活かして、これまで有線ネットワークで構築してきた工場ネットワークを無線化。ネットワークの柔軟性を高めたり、高精細な画像・映像を活用して生産工程で行う検査を自動化したり、さまざまなチャレンジが行われています。

 ローカル5Gが有効なのは、これらの分野だけではありません。安定性や通信速度に優れた5Gネットワークを自社だけで独占できる。このメリットを活かせば、幅広い分野の課題を解決する可能性を持っています。

NEC
デジタルネットワーク事業部門
ローカルネットワーク統括部
上席プロフェッショナル
上席モバイルネットワークアーキテクト
山 哲夫

 ──たとえば、どのような課題解決につながるのでしょうか。

:私は3つの分野に注目しています。

 まず1つはオフィスです。みなさんも利用する機会が多い会議室予約ですが、予約時には空きがなく、利用をあきらめたのに、いざ当日になると使われていない会議室が意外に多いという状況はないでしょうか。オフィスの利用効率、会議の調整にかかる担当者の手間などを考えると、無視できないムダを生んでいる可能性があります。

 ローカル5Gを使って各会議室に設置したセンサの入退室情報、Web会議サービスから得られる利用情報など、さまざまなデータを収集して、会議室の利用状況を総合的に判断。「予約時間から5分過ぎても会議がはじまる気配がない場合は自動的に会議室予約をキャンセル扱いにする」といった運用を実現できます。

 また、同時接続しても安定するローカル5Gは、たくさんの働くロボットを同時に制御することにも向いています。これまでは、ロボット同士の接触事故などが心配で同時に稼働させる台数や各ロボットの活動エリアを制限するのが一般的でしたが、ローカル5Gなら、そうした心配は不要。思う存分ロボットに働いてもらうことができます。清掃や紙文書のオフィス内配達など、さまざまな業務をロボットに任せ、少子高齢化による人手不足に備えることができます。

 ──オフィスの利用効率はエネルギー問題やカーボンニュートラルにもつながります。また少子高齢化は、日本にとって避けて通れない課題です。ローカル5Gは、大きな社会課題の解決に貢献するのですね。

図1 ローカル5Gによるオフィスの変革

:はい。人々の暮らしや産業構造の変化がDXの背景にありますが、ローカル5Gはあらゆる人に「快適」「効率」「セキュア」なワークライフ空間を提供し、DXに貢献。さまざまな課題を解決します。

 ──次に注目しているのは、どの分野でしょうか。

:リテールの分野です。リテールは、いち早くDXが進んだ分野の1つですが、ローカル5Gによって、さらに加速させることができます。

 たとえば、最近は無人レジが増えていますが、商品バーコードの読み取りは、まだマニュアル操作に頼っています。ローカル5Gを駆使すれば、カートに取り付けたデバイスを通じて商品を自動認識したり、より多くの決済プロセスを自動化したりすることができます。カートも店内を回遊するお客様を自動追尾するようにして、手ぶらで買い物を楽しめるようにすることもできるでしょう。ファッションリテールならVR/AR(仮想現実/拡張現実)によるバーチャル試着を実現し、お客様に新しい体験を提供することもできます。

図2 ローカル5Gによるリテールの変革

 最後の注目分野は教育です。GIGAスクール構想によって教育現場はデジタル活用が大きく前進しましたが、ローカル5Gなら「教科書やノートがタブレットに置き換わった」という以上の価値を提供できると考えています。たとえば、何かを触ったときの触覚を再現する技術と組み合わせれば、教室にいながら月の表面を歩いてみたり、クジラの皮膚に触れてみたり、これまでは想像もできなかった体験が可能になるはずです。

 業務面でも、生徒用のネットワークはWi-Fi、教師用はローカル5Gにして、ネットワーク分離すればセキュリティの強化につながります。デジタル活用によってさまざまな効率化が進めば、教師の長時間労働の是正なども期待できます。

図3 ローカル5Gによる教育の変革

大型で複雑で高い。既存の5G機器を根本的に見直す

 ──DXをけん引する技術としてローカル5Gが期待を集める理由がよくわかりました。では、ローカル5Gを、いち早く社会の課題解決に役立てるには何が必要でしょうか。

:クリアしなければならないのが設備の課題です。ローカル5Gを活用するには、敷地内に電波を飛ばすための基地局を設置しなければなりませんが、これまでは携帯電話サービスを提供する通信事業者が活用するような機器しかなく、高性能・高機能ではありますが、とにかく複雑で高価。一般の企業が使いこなすのは簡単ではありません。「実際、もっと簡単ならローカル5Gに挑戦するのに」というお客様は少なくありませんでした。

 せっかく多くの課題を解決する力を持っているのに、機器の使いこなしが難しく、値段も高い。結果、導入が進まない。ローカル5Gには、そのようなジレンマがあったのです。

 ──とても残念ですね。

:はい。NECもそう考えていました。そこでNECは、状況を打破するためのプロジェクトを立ち上げました。NECは、長年、通信事業者向けの基地局を開発してきた経験があり、豊富なノウハウを持っています。それを活かし、ローカル5Gの活用促進に貢献する新しい基地局を開発したいと考えたのです。

 プロジェクトには、通信事業者向けの機器を開発するエンジニアから、一般企業や官公庁を担当している営業担当者まで、幅広いメンバーが参加しました。どんな機器なら、多くのお客様に使っていただけるか。多様な視点で客観的に評価するためです。実は私は長く通信事業者向けの基地局を開発してきたのですが、最初のミーティングで一般企業のお客様を担当しているメンバーから「もっと小さくて軽く。もっと簡単に。そして、もっと安くないと一般企業のお客様には絶対に受け入れられない」とはっきりと指摘され、ハードルの高さを改めて認識しました。

 その後も議論と試行錯誤を重ね、最終的に完成したのがローカル5Gの小型一体型基地局「UNIVERGE RV1200」です。

 ──CEATEC AWARD 2022にて「総務大臣賞」を受賞した機器ですね。どのような機器なのでしょうか。

:通信事業者向けの基地局は3つの機器で構成され、全体では小さな冷蔵庫くらいの大きさになります。それに対しUNIVERGE RV1200は、CPUの数を減らすといった工夫を重ねて1台の機器にすべての機能を集約。重さは約3キロと、ちょっと大きめのA4型ノートPCくらいにまで小型化することに成功しました。運用管理についてもわかりやすいGUIを用意し、もちろん価格面も大幅に抑えた設定となっており、基地局設置コストを50%以下に低減します。

図4 ローカル5Gの小型一体型基地局「UNIVERGE RV1200」
大幅な小型化に成功した「UNIVERGE RV1200」

 ──性能や機能は、どのように変わったのでしょうか。

:通信事業者向けの機器は、ほとんどの企業にとってはオーバースペック気味です。UNIVERGE RV1200は、今後、想定されるユースケースや、そこで求められる性能や機能を見極めて、必要十分なミニマムな設定にしています。仮に通信事業者並の性能が必要になった場合でも3台のUNIVERGE RV1200を組み合わせる「3セクタ化」の構成にすれば、UNIVERGE RV1200を1台設置した場合に比べて20倍の出力を実現可能。十分に対応できます。

 ──ほかにはどのような特長がありますか。

:防塵・防水仕様にしていますから屋外に設置でき、工場や商業施設など、さまざまな用途に対応できます。まずは1台設置して成果を検証し、段階的に拡張していくことも容易です。

用途に応じて適材適所な無線ソリューションを提案していく

 ──無線ネットワークとして、既にWi-Fiを使っている企業もあります。Wi-Fiではダメなのでしょうか。

:そんなことはありません。Wi-Fiには、Wi-Fiのよさがあります。また、無線ソリューションとしては、病院などでPHSのリプレースに利用されているプライベートLTEという選択肢もあります。どれを選択するかは用途次第です。

 分かりやすく整理すると、ローカル5Gは高速な上、電波を独り占めできるわけですから安定性も極めて高い。でも、免許を取得しなければならないなど手間もかかります。

 一方、Wi-Fiは高速なネットワークを免許取得といった手間をかけずとも気軽に利用できます。ただ安定性についてはローカル5Gには劣ります。

 そして、プライベートLTEは、速度は劣りますが、安定しているし、Wi-Fi同様に免許取得の手間もかかりません。

 NECは、UNIVERGE RV1200を開発したことで、プライベートLTE、Wi-Fi、そしてローカル5Gという3つの無線ソリューションをお客様に提案できる体制が整いました。接続するデバイスの種類や数、扱うデータ量、処理の複雑さ、ミッションクリティカル性などに応じて、適材適所な無線ソリューションを提供していきます。安心してローカル5Gを活用するためにはセキュリティの視点も欠かせませんが、NECはセキュリティ面でも豊富な知見を持っています。異常検知など、適切な技術を組み合わせて、トータルなシステムを提案していきます。

 ──今後の展望をお聞かせください。

:さらに小型化したもの、あるいは性能を向上させたものなど、UNIVERGE RVシリーズの拡張もまだまだ追求していきます。UNIVERGE RV1200によって、ローカル5Gは規模や業種に関係なく利用できるデジタル技術になったと確信しています。多くのお客様と共にさまざまな課題の解決に取り組んでいきたいですね。なお、UNIVERGE RV1200については、資料にまとめてWebでも公開しています。ぜひアクセスしてみてください。

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