育成したデジタル人材が活躍し始めたダイキン工業
~アセスメントでデジタル人材のさらなる活躍を支援~
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データを活用してDXを進めたいが、それを担う人材がいない──。多くの企業がデジタル人材の不足を訴えています。即戦力の人材ともなれば、もはや争奪戦。採用活動も簡単ではありません。そこで、一部の企業ではデジタル人材の社内育成に舵を切っており、その一社がダイキン工業です。ダイキン情報技術大学(DICT)という名前を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。同社は、DICTという社内大学を立ち上げ、一からデジタル人材の育成に取り組んでいるのです。初期の学生は、既に社内大学を修了し、現場で活躍を始めています。それを受け、ダイキン工業は、次の施策を打ちました。デジタル人材の活躍を支えるためのデジタル人材アセスメント(以下、アセスメント)の整備です。その取り組みをキーパーソンに聞きました。
SUMMARY サマリー
SPEAKER 話し手
ダイキン工業株式会社
下津 直武氏
淀川製作所
テクノロジー・イノベーションセンター
データ活用推進グループ
主任技師
後藤 葵氏
テクノロジー・イノベーションセンター
ZEB・エネマネグループ
NEC
廣野 勝利
デジタルプラットフォームビジネスユニット
アナリティクスコンサルティング統括部
社内大学の修了生たちが現場で活躍
──DICTは、企業がデジタル人材の社内育成に取り組んでいる代表的な事例として大きく注目されています。改めて、どのような大学なのかお聞かせください。
下津氏:DICTを立ち上げたのは2017年です。開発、生産、保守、マーケティング、営業、あらゆる領域でデータ活用の必要性が指摘されていましたが、社内には、それを担う人材がいない。これはまずい。強い危機感を抱いたトップの意向で設立されました。
在学期間は2年。毎年、技術系の新入社員から80~100人が入学しています。1年目は内外の講師による座学が中心。システム開発、開発言語、AI、データサイエンスなど、IT技術を幅広く学びます。2年目は学んだ知識を携えて、さまざまな現場に行き、「課題解決型学習(PBL:Project based Learning)」に取り組みます。そうした学びを経て修了。3年目以降は、実際に各部署に配属され、現場の一員となります。もちろん期待するのは、習得したスキルを活かしてデータ活用に取り組み、業務やビジネスに貢献することです。
後藤氏:私は一期生としてDICTに入学しました。2年の学びを経て、現在はZEB(Net Zero Energy Building/ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の部門で研究・開発を行っています。
ZEBとは、省エネや再生可能エネルギーを利用し、一次エネルギー消費量を限りなくゼロにするという考え方。カーボンニュートラルを目指す取り組みです。ダイキン工業は、お客様の状況に応じて適切な機器やエネルギーマネジメントの仕組みなどを組み合わせ、最小のエネルギーで快適な空間を実現するためのソリューションを開発し、提供しています。その中で、私は主に保守分野を担当しており、適切な保守計画を立てるために、多様な空調機の運転データを分析したりしています。現場に配属になって5年目になりますが、昨年、リーダーに任命され、当初は私を含む5人、今では私を含む9人のチームを任されました。
──DICTでの学びは、どのように活きていますか。
後藤氏:さまざまな専門性やスキルを持つ先輩に囲まれていますが、例えば、ビッグデータ解析に関するスキルを学んでいるのは、配属時は私だけ。今ではDICTの修了生が7人となりました。DICTでの学びは、現在の私たちの仕事に確実に活きています。
また、DICTの修了生の存在が既存社員である先輩たちの刺激になっていると感じています。実際、私の仕事を見て興味を持ち、プログラミング言語であるPythonを習得したベテラン世代の先輩もいます。
現場の管理職がデジタル人材の評価に悩む
──新たにデジタル人材のためのアセスメントを始めたそうですね。
下津氏:後藤のような修了生が現場で活躍し始めると、新しい課題に直面しました。これまでとは異なるスキルや強みを持つデジタル人材を、どのように評価し、どのように指導すればよいかわからないという声が現場の管理職層からあがってきたのです。
確かにデジタル人材を社内育成したのが初めてなわけですから、受け入れた現場にとっても初めての経験。専門性も違いますから、デジタル人材のスキルを測ったり、キャリアパスを示してあげたりすることは難しい。考えてみれば当然ですね。
適切な評価ができなければ、デジタル人材の力を見極め、最適な役割を任せることは難しい。現場の管理職が直面した評価にまつわる課題は、せっかく育成したデジタル人材の活躍を阻む障壁になりかねない。そう考えて、アセスメントを整備することにしました。
──どのように整備に取り組んだのでしょうか。
下津氏:デジタル人材の評価は、それ以上のスキルや経験を持つデジタルの専門家にしかできない──。そう考えてNECに相談しました。もともとNECには、さまざまな場面で相談に乗ってもらってきました。デジタル人材のスキルの考え方や育成方法のベースは、NECの人材育成プログラムである「BluStellar Academy for DX」や、BluStellar Academy for AI 学長 孝忠大輔氏 著書「AI人材の育て方」などを参考にしていますし、立ち上げ初期には座学のための講座を提供してもらったり、NECが主催しているデータ分析コンテストである「NEC Analytics Challenge Cup」に毎年社員を参加させてもらったりもしています。非常に頼りにしており、今回も力になってほしいと白羽の矢を立てたのです。
廣野:NECは、AIの社会実装をリードする人材を育成するために「BluStellar Academy for AI」を開講。その後、学びの範囲をセキュリティなどに拡大してBluStellar Academy for DXに発展させながら、デジタル人材の育成に積極的に取り組んでいます。さらに、その経験とノウハウを活かし、人材戦略の策定や実際の育成、DX文化の浸透などに課題を抱えているお客様の支援も行ってきました。今回は、ダイキン工業様からデジタル人材の評価に関する相談を受け、解決をお手伝いしました。
具体的に行ったのは、NECが現在のジョブ型人材マネジメントの前身として運用していた「NECプロフェッショナル認定制度」をベースにした、ダイキン工業様独自の「デジタル人材アセスメント」の開発です。NECプロフェッショナル認定制度は、高い技術力を持ち、お客様のビジネスに大きく貢献しているプロフェッショナルを認定する制度です。そこに到達するためのキャリアパスや必要な経験とスキルが定義されており、単に人事評価の基準としてだけでなく、社員がキャリアを構築していく道標としても活用できます。この点に注目したのです。
開発においては、特にNECとダイキン工業様のビジネスの違いを意識しました。デジタルスキルでビジネスに貢献するというデジタル人材の根幹は、どの企業においても変わりませんが、力を発揮する課程にはさまざまな違いがあります。例えば、NECはIT企業ですから、デジタル人材は習得したデジタルスキルをすぐに発揮しやすい。一方、ダイキン工業様は空調機メーカーですから、NECのようにはいきません。
下津氏:どんなに高度なデジタルスキルもダイキン工業のビジネスにつながらなければ、価値が高いとは言えません。ですから、デジタル人材の育成においては、デジタルスキルだけでなく、空調機に関する技術や営業方法など、ダイキン工業のビジネスに関する知見やスキル、ドメイン知識、ビジネスにつながる人脈を重視しています。DICTでの学びが、1年目は座学、2年目は現場でのPBLとなっているのもそのためです。
後藤氏:ドメイン知識とデジタルスキルを学び「π型人材(異なる2つ以上の専門性を極めた人材)」を目指す。DICTでは、何度も指導されました。現在もそのことを強く意識しています。
下津氏:ですからNECと相談し、アセスメントにも、その考え方を反映しました。
デジタルの専門家であるNECが客観的な評価を行う
──デジタル人材アセスメントの具体的な評価方法を教えてください。
下津氏:随所に私たちのノウハウが凝縮されているため、すべてを明かすことはできませんが、まず、駆け出しの見習いでも、道を極めた棟梁でもなく、デジタル人材として一人前かどうかを基準に置いています。その上で「業務遂行能力」と「デジタルスキル」を評価の柱に据え、前者でドメイン知識を評価する内容にしています。
廣野:デジタルスキルをどのような項目で評価すれば、適切な評価を行うことができ、アセスメントを受けたデジタル人材に対して有益なフィードバックを提供することができるのか。また、デジタル人材の上司には、本人の成長のために、どのようにかかわってほしいのか。目的は評価することではなく、本人の成長のためのフィードバックであることを意識してダイキン工業様とNECで話し合いを重ね、6つの項目で評価することにしました。自身でビジネスの課題を見つけデジタル活用のテーマを設定できるかなど、ダイキン工業様の事業戦略、自身が持つスキルの活かし方、そして人脈などを絡めた項目です。
下津氏:実際の評価、レポート作成もNECと共同で行い、本人と上司に評価内容を説明するフィードバックの場にもNECに参加してもらっています。先に述べたとおり、デジタル人材の評価は、それ以上のスキルレベルや経験を持つデジタルの専門家が必須と考えているからです。
廣野:デジタル人材の育成と活躍を支援することがアセスメントの大きな目的ですから、NECからは「このスキルを伸ばすために、ぜひこのようなサポートをしてください」といったアドバイスを上司の方に伝えるようにしています。
後藤氏:私も先日、アセスメントを受けました。レポートを通じて、自身のデジタルスキルや経験の現在地を客観的に見ることができました。外部かつ専門家による客観的な評価を聞くことができ、とても貴重な機会だと感じました。
アセスメント後、上司からは「データ分析は、さまざまな分野で活かせるスキル。現在の所属にとらわれず、どんどん外に出て、仕事も人脈の幅も広げてほしい」と言われています。一人前として認められたのだとうれしく思うと同時に、私のキャリアを応援する言葉が励みになっています。
下津氏:新しい仕事を任せたいが一人前と判断して大丈夫か──。伸び悩んでいるように見えるが、実際はどうなのか──。今後、どんな仕事を任せていくべきか──。デジタル人材の仕事やキャリアについて、さまざまな悩みを抱える現場の管理職から、アセスメントについて多くの問い合わせを受けています。
廣野:多くの企業が育成にどのように取り組むかを思案している中、育成した人材の活躍、そのためのアセスメントの整備にまで取り組みを進めたダイキン工業様は、先駆的な存在ですね。
下津氏:ありがとうございます。とはいえ、取り組みはまだ道半ば。次のテーマは、より大きなビジネス成果につなげるための、ドメイン知識へのさらなる回帰だと考えています。そのためには、デジタルスキルとドメイン知識を同時に学べる独自の教材が必要になる。非常に難しいチャレンジになりますが、なんとかクリアしなければなりません。
廣野:デジタル人材を育成するためにNECもさまざまな試行錯誤を繰り返してきました。あるお客様では、実際のデータを使い、お客様の社内プロジェクトを追体験しながらデータ活用スキルを学ぶ、まさにデジタルスキルとドメイン知識を融合させた教育コンテンツを開発した事例もあります。その経験とノウハウを活用し、今後もデジタル人材育成の共創パートナーとして、ダイキン工業様の取り組みに伴走していきたいと思っております。