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日本生協連が挑むデータ活用
~ベテラン職員の知見データ化と属人化の解消~

 少子高齢化と労働人口減少により、国内の流通・小売業はかつてない構造変化に直面している。持続的な供給体制を守るには、需要予測などの分析結果をもとに発注数量を決定する計画業務の高度化と、属人化からの脱却が大きな課題だ。日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)の通販本部は人力で担ってきた計画数予測業務にAIを組み込む活動をNECと共に進めている。既に衣料品は本番稼働に移行し、1〜2カ月要していた業務時間は約2~3週間に短縮された。成功のポイント、難局、新しく得た発見について両社のキーパーソンに話を聞いた。

SPEAKER 話し手

日本生活協同組合連合会

猪熊 晋三氏

通販本部
本部長

川口 剛史氏

通販本部
カタログ供給企画部
部長

熊谷 悠氏

通販本部
カタログ商品部
計数グループ
グループマネージャー

山田 純加氏

通販本部
コンタクトセンター
組合員サービスグループ

平山 優希氏

通販本部
コンタクトセンター
お問い合わせ管理1グループ

NEC

佐藤 宏昭

コマースソリューション統括部
第一CO-OPグループ
主任

御供 頌弘

データ&アナリティクスオファリング統括部
データ&アナリティクスアカデミーグループ
主任/データサイエンティスト

どれくらい売れるか。計画数予測業務の属人化と精度向上が課題

──日本生協連とは、どのような組織でしょうか。

猪熊氏:日本生協連は、全国約300の生協が加入する全国連合会です。各生協はすべて別法人として事業や活動を行っていますが、業務やシステムの中には共通するものがあり、結集することでメリットを出せる領域について日本生協連で取り組みを進めています。事業では、プライベートブランドであるコープ商品の開発と供給を担うコープ商品事業、生活雑貨を取り扱うキャロット事業、衣料品・家庭用品を中心とするカタログ事業やお中元などの贈り物を扱うギフト事業からなる通販事業を手掛けています。そのうち、通販事業を担っているのが通販本部です。

──通販本部は、データ活用に積極的に取り組んでいるそうですね。

川口氏:通販事業が抱えるさまざまな課題をデータで解決したいと考えています。例えば、カタログ事業は「くらしと生協」という紙のカタログとECサイトを運営していますが、カタログは配布前に各商品がどれくらい売れるか、つまり商品をどれくらい仕入れておくかを判断する「計画数」の予測業務があります。

 カタログは年間約160本あり、生協ごとに配布時期や配布対象もさまざまです。さらに、複数のカタログに同じ商品を重複して掲載する場合もあるなど条件は複雑な上、予測に必要な参照データを手作業で集める必要があります。この計画数予測業務の課題解決も取り組みの1つです。

──計画数予測には、どのような課題があったのでしょうか。

熊谷氏:私は20年にわたり計画数予測業務を担当しています。計画数予測は非常に複雑ですから経験やノウハウが必要です。商品ジャンルごとに担当者がおり、基本的に経験のある職員が行いますが、人による精度のブレが課題の1つでした。

川口氏:その業務の属人性に加えて、人で行う予測の限界も感じていました。計画した数量に対して実際の注文が70〜130%の範囲に収まれば「的中」とみなしますが、この的中率の目標数値を維持し続けることが困難な状況でした。

ベテランの高度な知見を組み込んだ複数の予測モデルを作成

──計画数予測の課題解決は、どのように進めているのでしょうか。

猪熊氏:NECと共に取り組んでいます。NECは、私たちの業務を理解し、共に悩み、考えながら課題解決に取り組んでくれます。技術や製品自体を売るのではなく、業務変革の伴走者として臨む姿勢に信頼感があります。

 また、NEC本社にある「NEC Future Creation Hub」で見たAIデータ分析プラットフォーム「dotData」も評価しました。dotDataは、データを投入すると特徴量を自動設計し、目的の分析モデルを作成してくれますが、そのモデルの中身がきちんとわかるよう「ホワイトボックス」になっています。ビジネスにおける意思決定では、なぜその結論に至ったかの理由を理解することが重要です。ホワイトボックスであることで、AIの回答の背景を理解した上で、熊谷たちが積み上げてきた経験やノウハウをさらにAIに落とし込み、精度を高めていくことができます。中身がわからないブラックボックスでは、それは困難です。

──NECは、どのような提案を行ったのでしょうか。

佐藤:dotDataを評価してくださった猪熊様が掲げるのは「ドメイン知識とデータサイエンスの融合」ととらえ、それを軸に提案を行いました。NECが計画数予測の概要やポイント、データ、そして熊谷様たちが頭の中で判断していることを理解してdotDataで予測モデルを作成。さらに、それを使いこなすためのスキルトランスファーを行い、最終的には皆様でAIを運用して成果を出していくことをゴールに掲げ、ご支援してきました。

──dotDataの予測モデルの精度を高めるために、どのような工夫を行いましたか。

御供:NECは自社やお客様とのプロジェクトの中で、さまざまな予測に取り組んできました。しかし、今回の計画数予測はそれらとは異なる部分が多く、さまざまな試行錯誤を重ねました。

──どのような点がほかとは違ったのでしょうか。

御供:例えば、担当者様が実施している処理の複雑性です。需要予測には統計的な手法も存在しますが、計画数予測では、それらではとらえきれない多様な要素が影響します。そのため、実務では担当者様が経験や知識をもとに複雑な判断を頭の中で行っています。特に日本生協連様の場合、購買行動がデータ化しづらい紙の媒体がメインであることも起因し、予測の難易度がより増していました。

──複雑な判断とは、どのような判断でしょうか。

熊谷氏:計画数予測のベースは対象商品や類似商品の過去実績ですが、それ以外にもさまざまなデータを参照します。例えば「効率」という指標は、カタログの掲載面積に対してどれくらいの注文数が見込めるかを示すものです。また「モデル着用カラー」も参照します。複数のカラーバリエーションがある衣料品は、カタログのモデルが着用しているカラーが人気になることが多いのですが、過去実績の数字だけではモデルがどのカラーを着用していたかまではわかりません。当時のカタログの写真も合わせて確認する必要があります。これらの判断のために複数のシステムにアクセスし、過去のカタログも見ながら、頭の中で情報をつなぎ合わせ、計画数を予測します。

──そのような複雑な処理を予測モデルにどのように組み込んだのでしょうか。

御供:熊谷様が参照している情報を洗い出し、データに落とし込むことから始めました。掲載面積、配布時期、配布対象者、モデル着用カラー、競合商品の有無など、販売実績には含まれていなかった要因もマスターデータと組み合わせてdotDataで扱える形に整えました。そのデータを使って複数の予測モデルを作成し、使い分ける設計にしました。

──熊谷様は、できあがった予測モデルをどのように感じましたか。

熊谷氏:当たり前と思っていた“常識”が覆ったことが驚きでした。最新のデータがより重要だと思っていたのですが、そうではありませんでした。直近の実績で予測するより、過去2〜3年の平均値で予測した方が精度向上につながるケースが複数あったのです。2つの予測モデルを簡単に作成して比較し、精度の差を確認できたのもdotDataならではですね。

衣料品はAI主導の業務にシフト。属人化解消に向かう

──課題解決は、どれくらい進んでいますか。

川口氏:衣料品については、人とほぼ同等の的中率の予測モデルができ、誰でも再現できる仕組みを整備できたことで属人化解消の道筋が見えました。既にdotDataでの本番稼働に移行しており、以前は1シーズン分の計画数を出すのに1〜2カ月かかっていましたが、現在は約2~3週間で終えられています。もちろん、これから運用の中で改善を行い、さらなる精度の向上も目指します。

熊谷氏:私たちの知見がシステム化されたことによって、業務が効率化できたことは大きな成果ですが、計画数予測チームのデータ活用に対する意識が変わったことも重要な成果です。これから精度を高めたり、データでほかの業務の課題解決に取り組むには、自らデータを活用できた方がよい。職員自らがそう考えて自発的に勉強会を開催するなど、成長が促されていると感じています。

川口氏:チームのデータに対する感度は確実に上がっています。カーテンのサイズ体系を統一しよう、カラー表記を揃えようといった議論が活発になったり、分析プロセスに自然と関心が芽生えて自発的なデータ加工への取り組みにもつながるなど、データドリブンな発想が組織に根付き始めています。

「天気」という変数を見つけたコンタクトセンターチーム

──業務課題の解決だけでなくデータ活用人材の育成にも取り組んでいるそうですね。

猪熊氏:熊谷たちのチームに起こった意識の変化を、さらに広い範囲で促したい。そう考えてNECと共に「市民データサイエンティスト育成研修」を開催しています。重視しているのは実践的であることです。座学研修やツールを提供するだけで、「あとは自分で取り組んでほしい」というやり方では絶対に定着しない。実際の業務データを持ち込み、自分たちの業務課題をユースケースに据えて課題解決の経験を積むOJTの提案をNECから受け、これなら実践的な学びが得られると考えて共に取り組むことにしました。

御供:NECはAI、セキュリティ、クラウド、デザイン思考で培った育成ノウハウを集結し、デジタル時代に必要となるDX人材育成をワンストップで提供する「BluStellar Academy for DX」を開講しています。今回は、その中の1つであるdotDataを活用した「NEC DX人材育成サービス」を活用し、日本生協連様の意向を反映して、より実践性を重視した育成を実現しました。NECとのコミュニケーションを密にする工夫も行っています。具体的には、通常はワークショップ後から参画するデータサイエンティストがワークショップの段階から参画し、サポート面を強化しながら伴走の範囲と深さを拡大しました。

──研修では、どのような課題解決に取り組みましたか。

山田氏:私たちのチームは、普段コンタクトセンター業務を担当しています。オペレーターの人員配置を計画するために、日々の入電数を予測しています。ただ、入電増減の要因をほぼ把握できず、過去の実績を頼りに予測していたことから、この業務をユースケースに据えました。

──どのような発見がありましたか。

山田氏:カタログの配布量、在庫切れ、お届け遅れのお知らせハガキ数などのデータで入電数の予測モデルを構築したのですが、「天気」によって精度が上がることを発見し、非常に驚きました。

平山氏:「天気」が要因になっていることは、最初はまったく発想にありませんでした。雨の日は外出が減り、在宅時間が長くなる。結果、電話をかけることが増えるかもしれない。そう仮説を立てて、試しに変数としてモデルに入れてみたら精度が上がった。そのような小さなひらめきを、すぐに試すことができたのはdotDataのおかげです。

御供:正直に言うと、天気に対しては疑心暗鬼でした。根拠が薄い変数をモデルに入れることには、データサイエンティストとして抵抗もありました。ところがdotDataの分析結果を確認してみると、雨天時に入電数が増えるという傾向がはっきりと出た。かなり驚きました。ドメイン知識を持つ現場の方だからこそ出てくる仮説だと思います。

──この経験は、業務にどのように活きそうですか。

山田氏:業務データを使って課題を解決するプロセスを一通り経験できました。しかもdotDataなら、私たちのような専門家でなくてもデータ分析を行える。これからの業務に直結すると考えています。

平山氏:「こういう視点で見てみては」など、NECのデータサイエンティストとの会話を通じて得たノウハウは、独学や座学研修では得られない貴重な財産です。普段の業務の中でも、気づいていない要因があるのではないかと考えたり、新しい仮説を立ててみたり、意識して取り組んでみようと思います。

──今後の展望をお聞かせください。

猪熊氏:発注業務や在庫管理など、まだ人の経験や勘に頼っている業務はたくさんあります。データ活用による課題解決の範囲を広げていき、データドリブンな発想が根付いた組織を目指します。

佐藤:購買履歴、配布実績など、日本生協連様の持つデータをどのような価値につなげるか──。NECは、技術だけでなく業務にも目を向け、日本生協連様の業務変革の伴走者として、共にデータドリブンな価値創出を考え、そして提案し続けていきます。