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ECでも店舗でも同じ体験を提供したい
構想策定を機に確実に前進をはじめたダイアナのOMO
自社のビジネスの発展だけでなく、社会課題にどのように貢献するか。DXに取り組む企業の多くが、そのことを意識している。小売業やサービス業などが取り組むOMO(Online Merges with Offline)も、新しい消費者の購買行動への対応に加えて、地域間格差やデジタル格差の解消、環境問題への対応などにつながる取り組みとして注目されている。しかし、ほかのDXテーマに比べて、OMOはまだ成功事例が少なく、取り組みも手探りの部分が多い。そうした中、婦人靴・ハンドバッグの企画・販売を手掛けるダイアナは、同社ならではの構想を固め実現に向けた一歩を踏み出した。
購買行動の変化を受けて取り組みが進むOMO
あらゆる業界でDXが進んでいる。Smart Factory、FinTechなど、業界ごとに変革を象徴するさまざまなキーワードがあるが、小売業においては「OMO」が注目を集めている。
OMOとは、ECやSNSなどのオンラインのチャネルと、店舗を中心とするオフラインのチャネルを融合し、現在の消費者に合ったCX(顧客体験)を提供したり、CXを向上させたりする考え方や取り組みを指す。「スマートフォンの普及、コロナ禍などをきっかけにお客様の購買行動は大きく変わりました。ECの利用が増え、ショッピングは場所や時間を問わず行えるのが当たり前になっています。小売業は、それに対応しなければなりません。そのカギを握っているのがOMOです。ECと店舗の役割を整理し、モノを販売する場所だった店舗の役割を再定義したり、ECと店舗をシームレスに連携させたりすることが求められています」とダイアナの谷口 正氏は話す。
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取締役
経営戦略統括部 管掌
兼 OMO推進室 室長
谷口 正氏
ダイアナは、婦人靴・ハンドバッグを中心にオリジナルブランドの商品を企画、販売する企業である。東京銀座の本店をはじめ、全国の百貨店などに83の店舗を展開すると同時に、「dianashoes.com」という公式オンライン通販サイトを運営している。
OMOと一口にいっても、商品の種類、ECの位置付け、店舗や接客に対する考え方などによって企業ごとに目指す姿は異なる。ダイアナは、デザインや素材、高い製靴・製鞄技術に加えて、足の形や好みに合わせて靴の履き心地を調整するなど、お客様一人ひとりと向き合う店舗での接客に愛着を持っているファンが多く、同社自身もその価値を大切にしたいと考えている。したがって、たとえECの利用が増えたといっても、軸足を極端にECにシフトするようなことは考えていない。
「ダイアナの目指すOMOは、店舗でもECでも同じ体験ができること。時間や場所を選ばず、お客様が望んだタイミングで適切な方法でダイアナと接点を持つことができ、オンライン/オフラインに関係なく、求める商品やサービス、情報を得られることを目指しています」と谷口氏は言う。
CX向上とOPEX施策を2つの柱とするOMO構想
具体的にダイアナのOMO構想は、CXを向上するための施策と、業務改善などを通じて企業価値を高めるOPEX(オペレーショナルエクセレンス)のための施策で構成されている。
CX向上施策の中心にあるのはデータ活用だ。「店舗の従業員は『この新作は、あのお客様が必ずお買い求めになる』と断言するほど、お客様のことを理解して接客しています」と谷口氏。この高度な接客を店舗/ECを問わず、かつ組織的に実践するのがデータ活用の大きな狙いだ。「店舗の従業員が持つ暗黙知を形式知にし、店舗/ECを問わずお客様の購買行動を可視化。今日、店舗で働き始めた従業員でもお客様のことがわかるようにしたい」と谷口氏は強調する。またECで買った商品を店舗で従業員から受け取れるようにするなど、ECにも接客の考え方を取り入れることを目指している。
一方、OPEX施策では、店舗業務の中で最も負担の大きな在庫管理業務の効率化と高度化を図る。「0.5cm刻みでサイズ展開がある靴は、在庫の数が多くなる上、極端に大きなサイズや小さなサイズの需要は限られていますから、まんべんなく在庫をそろえるのが最適ともいえず、非常に難しい在庫管理が求められます。現在は人手で行っている在庫管理業務の効率化と高度化を図り、店舗従業員はできるだけ接客に専念してほしいと考えています」と谷口氏は言う。
このように同社はCXを軸にOMO構想を描いているが、CXだけでなく「EX」と「SX」の視点を持つことも強く意識している。EX(Employee Experience)は従業員体験。そして、SXは同社独自の言葉でSupply chain Experienceの略語。原材料の調達、製造、流通を経て商品がお客様の手に渡るまで、さらにはいずれお客様の手元を離れるまでの体験だ。
店舗で接客を受けながら商品を選ぶ。でも、その日は商品を購入せず、後日、ECで注文した──。現在ではよくある購買行動だが、従業員体験を考えると、売上は接客を頑張った従業員や店舗とひも付け、評価にも反映させたいと同社は考えている。「OMOを支える仕組みには、その機能が必要になります」と谷口氏は話す。
取引先の体験に対する考え方も同様だ。靴を製造する職人をはじめ、同社のビジネスは多くの取引先によって支えられている。OMO推進の一環として、紙による発注や指示など、まだアナログな業務が残っている取引先とのやり取りをデジタル化したり、配送業務の最適化を図ったりしながら、サプライチェーン全体でOPEXを実現し、取引先を含めた収益性を高め、温室効果ガスの削減をはじめとするSDGs対応にもつなげたいと考えている。
最も信頼できたNECをOMO推進のパートナーに迎える
谷口氏はダイアナが目指す姿を以上のように語るが、当初からはっきりと将来像が見えていたわけではないという。「ダイアナが大切にしたい価値、お客様の購買行動が変わっていることもわかってはいる。しかし、どうすればダイアナならではのOMOを実現できるのかがなかなか見えてきませんでした。特に問題だったのがデジタル技術です。簡単に考えてしまっていたシステムへの機能追加やシステム同士の連携が実はハードルが高かったり、課題を解決するためにどのような技術を、どのように使うべきかがわからなかったり、困る場面が多くありました」。
そこで、同社がパートナーに迎えたのがNECである。最も重視したのが信頼だという。「信頼できなければ、提案の信憑性を評価するために自身で調査を行ったりすることになり、工数がかさみ、プロジェクトのスピードが低下することになります。信頼できるかどうかは、何より重要。100社近い企業の話を聞きましたが、最もダイアナのことを理解し、信頼できたのがNECでした」と谷口氏は言う。
依頼を受けたNECは同社が実現したいことを理解し、アセスメントを通じて目指す姿と現状のギャップと課題を抽出。特にOPEXに向けた課題抽出のためには、複数のNECのメンバーが業務研修を受け、店舗で働き、店舗業務を実際に体感するという取り組みも行った。その経験を通じて、経営層と現場では、認識している課題に少し違いがあることに気付いたという。
そうして抽出した課題を解決するための各施策を体系化。OMOの全体構想を策定し、各施策の費用感や難易度から優先順位を整理してロードマップに落とし込んだ。「私たちコンサルタントは、ダイアナ様のビジネスとNECの持つ技術をつなぐ役割を果たします。店舗での接客がダイアナ様の価値の1つ。CXだけでなくEXやSXを大切にしたい。在庫管理が非常に大変など、お客様のビジネスや課題を理解し、デジタル技術による解決策を1つずつ整理しながら、OMOの全体構想を策定しました」とNECの鴇澤 雅之は話す。
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戦略・デザインコンサルティング統括部
シニアコンサルタント
鴇澤 雅之
例えば、データを活用してCX向上を図るには、取得するデータの拡大、セグメンテーションなどを行えるマーケティングプラットフォームの整備、顧客カルテの構築、ECと店舗の在庫の共有化など、複数の試作に取り組んでいく必要がある。また、店舗の在庫管理についても、棚卸、納品、商品間の店舗移動など、複数の業務をどのようにデジタル化し、どのように連動させるかを考える必要があるが、当然、一気には進められない。そこで現在、ダイアナとNECは、優先順位を見極め、それらの土台となる「社内システムの最適化」、データ取得のための「会員ランク制度」と、システムを横断してデータを可視化するための「BIツール」の導入から取り組みを開始している。
谷口氏はNECが策定した構想を次のように評価する。「このように進めていけば、目指す姿に近づいていける。NECが策定した構想によって確信を持ってOMOに取り組むことができるようになりました。課題についてはNECが解決できることだけでなく、人事制度の改定のようにダイアナが社内で取り組むべきことも同時に指摘してくれました。店舗での業務体験は、そこまでやるのかと驚きましたが、その体当たりの姿勢によって提案の説得力は大幅に増し、当初の信頼はさらに強いものになりました」。
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プロジェクトに異なる視点をもたらしてくれる
このようにダイアナは、NECの支援を受けてOMO実現に向けた取り組みを確実に進めている。計画は長期に及ぶが、その間、環境に変化などがあれば構想を見直しながら対応していく構えだ。
「私たちだけで考えると、どうしても小売業の常識にとらわれる部分が出てくる。IT企業であるNECなら、私たちとは全く違う視点をプロジェクトにもたらしてくれると期待しています。例えば新しい技術の紹介は、その1つ。現在の構想をアップグレードできる可能性があれば、その技術を最終的に導入するか、導入しないかにかかわらず、ぜひ紹介してほしいとお願いしています」と谷口氏は言う。「ダイアナ様が目指すOMOを実現するために、コンサルティングチーム、SIチームが一丸となって、今後もサポートを継続していきます」と鴇澤も続ける。
今後、NECとの伴走によって、ダイアナがどのようなOMOを実現するのか。その進捗に注目し続けたい。
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