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未来の仕掛け人200名が集った『NEC Open Innovation 2025』

 2025年12月4日、東京ポートシティ竹芝・ポートホールにて『NEC Open Innovation 2025-仕掛けよう、未来。』が開催された。協業や共創の重要性を掲げた本イベントには、事業会社、ベンチャーキャピタル、スタートアップなど約200名が集まった。

 この日、シリコンバレーにあるスタートアップスタジオ「NEC X」の日本国内向けとなる「NEC X - JAPAN Edition - 」の始動も発表され、事業会社やスタートアップなどの多彩なゲストによるトークセッションを展開。「未来を創る、当事者になれ。」というメッセージとともに、オープンイノベーションの「リアル」と「次のステージ」が見えた。

AIが「仕掛ける」出会い、その結果は?

 オープンから会場は珍しい光景が広がっていた。大規模カンファレンスは自由席が一般的だが、参加者は指定された座席に通された。実は、この「座席割り振り」は事前アンケートで収集した「未来を仕掛けたい領域」や所属会社情報をもとに、NECのAIネイティブ化に取り組むチームがAIを活用して共創の可能性が高い参加者が同じテーブルになるよう配置したのだ。

 司会を務めるNECの松田尚久は「名刺交換で話が合うと思ったら、それはAIのお膳立てなのです」と種明かし。会場は笑いに包まれたが、実際に各テーブルでは初対面とは思えない活発な議論が自然に交わされていた。

NEC ビジネスイノベーション統括部長 松田 尚久

 松田はオープニングでNEC Open Innovationの体系を紹介し、2025年12月までの主要実績を挙げた。スタートアップとの事業連携、資源循環プロジェクトの進展やマーケティング施策立案ソリューション「BestMove」のローンチ、住友ゴムとのR&D協業発表。さらに、2026年度グッドデザイン賞受賞、経団連主催の「スタートアップフレンドリースコアランキング」でトップ10入りなど、外部評価も得ている。

 この日のセッションでは、これら主要実績から4つのトピックを掘り下げていく。

NECとNECネッツエスアイが導くオープンイノベーションの新フェーズ

(左)Translink Capital Partner 菊地 一秀氏
(中)NEC Corporate SVP みらい価値共創部門長 和田 茂己
(右)NECネッツエスアイ株式会社 取締役執行役員専務 兼 CDO 兼 CIO 兼 DXソリューション事業本部長 菊池 惣

 一つ目のセッションのテーマは「NECグループの目指すオープンイノベーション」。2025年7月にNECと経営統合したNECネッツエスアイ(以下NESIC)の菊池惣、NECの和田茂己に続き、モデレーターとして先端スタートアップ企業への投資を行うTranslink Capitalの菊地一秀氏が登壇。

 NESICはネットワークやセキュリティなどのシステムインテグレータであり、2017年にZoomを日本で初めて日本市場に導入するなど、社内のカニバリゼーションを恐れず外部の優れた技術を積極的に取り入れる「インバウンド型」のオープンイノベーションを得意としている会社だ。現在はスタートアップ技術の実装やAIエージェントを安全・効率的に動かすインフラに注力している。

 両社の経営的なつながりが強化されたことで、研究所技術、グローバルな顧客基盤、スタートアップスタジオなどのNECのアセットを掛け合わせ、共に事業を大きくしていけるのではないかと菊池は期待を寄せる。また和田も、NESICが構築するAI Readyの環境に、NECがAIエージェントを展開する構想もすでに動き始めていると話し、より効率的にオープンイノベーションの成果を創出していくことに対して意気込んだ。

 さらにAIエージェントを日本企業に広める一環として、NESICによる様々なベンダーのAIエージェントをまるで試飲するように試せる「AIエージェントバー」も日本橋でオープン予定だ。統合という転換期を迎え、二社の異なる強みを生かすことでNECのオープンイノベーションは新たなフェーズへと進んでいくだろう。

当事者が語るスタートアップ連携の「リアル」―本田技研工業・MOTER Technologies・NEC

(左)NEC ビジネスイノベーション統括部 シニアファンドマネージャー 木下 智
(中)MOTER Technologies, Inc. EVP,Corp Strategy&Shareholder Engagement/ Head of Japan Business/Assistant to CEO 佐藤 周亮氏
(右)本田技研工業 四輪事業本部 SDV事業開発統括部 デジタルプラットフォーム開発部 戦略企画課 課長・チーフエンジニア 竹村 紀章氏

 次のセッションでは、NECの木下智がモデレーターとなり、米国カリフォルニア州のスタートアップMOTER Technologiesの佐藤周亮氏、本田技研工業の竹村紀章氏が登壇。NECと本田技研工業がそれぞれMOTER Technologiesと実践している事例をもとに、協業における「リアル」を語った。

 MOTER Technologiesはデータサイエンスとソフトウェアエンジニアリングに軸を置いたスタートアップだ。オープンイノベーションを通じて自動車産業と保険業界をつなぐプラットフォームの開発を行う。

 現在、NECの映像認識AIとMOTER Technologiesのプラットフォームを融合した「次世代事故対応サービス」の共同開発に取り組んでいる。車両データから交通事故の瞬間を自動可視化して円滑な解決を促進するソリューションで、Japan Mobility Show 2025では大きな反響を得た。

 また、NECはMOTER Technologiesに対しBS投資も実施。技術シナジーを重視した資本提携により、プラットフォームの高度化やネットワーク外部性の強化が加速している。

 一方、本田技研工業の竹村氏は、新価値を創出する組織を立ち上げた時期に「自社ではやりきれない」課題を抱えていた。そこで、本田技研工業の四輪データや技術と、MOTER Technologiesの保険ノウハウ・データサイエンス技術を重ね合わせると製品に近づく将来が見えたため、今まさに共同でPoCをまわしていこうと取り組んでいる。

 セッションでは「スタートアップ連携に大事な4つのこと」も共有された。

 1つ目は「Give & Take」。関係はフェアであることが大前提で、特に大企業から先にGiveする姿勢が不可欠である。例えば、NECは海外スタートアップに対し日本市場の顧客や市場情報を提供するなど、機会創出で信頼関係を構築している。2つ目は規模や年齢に関わらず対等に接する「Respect」。「スタートアップは大企業が持てない知見や技術を持つ、世界の課題解決に挑む人たちだ」と木下。佐藤氏も「同じ目線でディスカッションできた」と振り返る。

 3つ目は「Visionへの共感」。竹村氏は自身のスタートアップ経験を踏まえ「一緒にやりたいか、ビジョンに共感できるかが大前提」と語る。そして最後は「Win-Winの関係性」。共感しても、接点が見出せない場合もある。お互いのアセットを重ね合わせ、Win-Winの関係を早期に見極めることが重要だ。

 「スタートアップと大企業は価値観の軸が違うということを理解した上で、彼らの価値を社内にどう伝えるかが事業連携担当者の大変で重要な役割です」と木下は語る。最後は「3社でもモビリティの未来に向けて取り組んでいきたい」という言葉で締めくくられた。

変化を仕掛ける―3社が変える資源循環の未来

(左)NEC ビジネスイノベーション統括部 ディレクター 江藤 めぐみ
(中)丸喜産業株式会社 代表取締役社長 小薗 雄治氏
(右)NewNorm Design CEO Matinno サーキュラーエコノミーSaaS ファウンダー Fara Taraie氏

 ここからはプラスチックリサイクラーである丸喜産業の小薗雄治氏、サステナブルなデザインを手掛けるNewNorm DesignのFara Taraie氏を迎え、NECの江藤めぐみと資源循環についてのトークへ。「サステナビリティで儲ける」という複雑性を伴うが挑戦しがいのある課題に対し、江藤が掲げる「お金が儲かるところが変わる、変える」という言葉を皮切りに、正面から議論が交わされた。

 まずは各社の取り組みが紹介された。丸喜産業はメーカー工場の端材・ロス品を回収し、プラスチックとして再生するマテリアルリサイクルを手がける。多数の設備によって蓄積された膨大なデータが強みで、この実績がNECとの協業につながった。リサイクル工程で属人化していた「配合」は、これまで経験と勘に頼ってきた領域だ。現在は過去の配合データをNECに提供し、マテリアルズ・インフォマティクスを活用したAIによる配合最適化を目指している。

 NewNorm DesignのFara氏は日本の都市鉱山に対して課題意識を持ち、建築資材の持続可能性を高めるためのSaaSプラットフォーム「Matinno(マティーノ)」を開発。様々な業界の資源情報をハブとして集約し、マッチング、リユース、再利用までをつないでいく。「サーキュラーエコノミーはつながらなければ成立しません。今は情報がバラバラで、収集・ネットワークもされていない。私たちがハブになって、全体を結びたい」とFara氏は力を込めて語る。

 NECの江藤は「資源が入手しにくくなることに多くの人が気づき始め、既存資源をリユース・リサイクルする価値が高まっている」と指摘する。その価値転換を見据え「先回りしてビジネスをつくっていきたい」と明確なビジョンを示した。

 その上で、サステナビリティをコストではなくビジネスとして成立させるには「一社では不可能」だと強調。「丸喜産業さんのようなリアルプレーヤー、NewNorm Designさんのようなプラットフォーマー、そしてNECのような技術開発者。この3社が組むことで、資源循環は加速します」と続けた。

 これに対しFara氏は、「コンセプトで終わらせず、データを使える形にして次のアクションへとつなげることが重要であり、関わる全員にメリットがある」と応じる。小薗氏は「一社ではリサイクルに限界があるからこそ、つながりを築いていきたい」と語った。

 最後に江藤は、「皆さんも資源の再生に関わる当事者です。この取り組みを一緒に広げましょう」と会場に呼びかけ、セッションを締めくくった。

NEC X - JAPAN Edition - が遂に始動

(左)NEC X , Inc. President and CEO 松本 眞太郎
(中)株式会社デジタルガレージ 執行役員 佐々木 智也氏
(右)NEC ビジネスイノベーション統括部 ディレクター / NEC X - JAPAN Edition - 代表 藤村 広祐

 最終セッションは、シリコンバレーで実績を積んできたスタートアップスタジオ「NEC X」の日本国内向けスタジオ「NEC X - JAPAN Edition - 」立ち上げ発表の場となった。国内におけるスタートアップのシードアクセラレーター先駆者であるデジタルガレージの佐々木智也氏と、「NEC X - JAPAN Edition -」の代表を務める藤村広祐が登壇し、NEC Xの松本眞太郎がモデレーターを務めた。

 デジタルガレージは決済代行事業、ネット広告、投資・インキュベーションの3本柱で成長してきた。「Open Network Lab」というシードアクセラレーター事業を15年以上運営する佐々木氏は、創業者コミュニティの重要性を強調する。

 NEC Xは、2018年に設立されたスタートアップスタジオだ。シリコンバレーの起業家を見つけ、現地でスタートアップをつくり、NECの技術を組み込んでいく。「アウトバウンド型」オープンイノベーションを志向し、シリコンバレーを拠点に起業家を伴走支援するアクセラレーションプログラム「Elev X!(エレヴェックス)」を展開してきた。

 そしてこの日、「NEC X」の日本国内向けスタジオとなる「NEC X - JAPAN Edition - 」が遂に始動したことを発表。代表の藤村は、「NEC X - JAPAN Edition - 」が提供する起業家・スタートアップ向けプログラム「Elev X!」のBatch 1募集開始についても明らかにした。キャッチフレーズとして掲げられたのは、「創業1日目から、10万人のNEC社員があなたの仲間です」。NECにとって、オープンイノベーションの新たな柱になる取り組みだ。

 提供価値は大きく3つ。

  1. ビジネス面:NECの顧客チャネル活用と社員10万人の自社利用でシードスタートアップの仮説検証を支援。
  2. テクノロジー面:NECの研究所技術を提供するだけでなく、NECのエンジニアが伴走。
  3. グローバル面:NEC Xと連動した海外進出を支援する。NEC Xのノウハウも活用。

 注力テーマとしては、アセットを使用してもらうためにもNECが取り組む領域との親和性を重視する。「NECはAIエージェントを幅広く事業につなげていきたい。その上で、インフラのプラットフォームはNECが行うので、業務アプリケーションをスタートアップにどんどんつくってもらいたい」と藤村は声を弾ませる。

Batch1では、Agentic AIのプラットフォームを活用した業種・業務特化のアプリケーションビジネスに注力するスタートアップを特に募集

 佐々木氏によると、現在Open Network Labではエンジェル投資を得たプレシード段階のチームや地方からの応募、ディープテック案件も増加し、裾野が広がっているという。しかし、未だ課題もある。IPOを目指しながらも、スケールで苦戦するスタートアップが増加しているのだ。そこで「早いうちから大企業と組んでビジネスを大きくする経営者が出てきている」と佐々木氏。大企業のネットワークや営業力を使いスケールさせる事例が生まれ始めた。「NEC X - JAPAN Edition - 」も同様の価値を発揮したいと藤村は言う。

 「ここにいる事業会社やVCの皆さんと協業することで、より価値があり、スケールする活動になっていく。ぜひ連携させてほしい」と藤村は参加者へ呼びかけ、この日のセッションを終えた。

「仕掛けよう、未来。」その先へ

 全セッション終了後はネットワーキング懇親会が開催。すでにテーブルでの交流で盛り上がっていた会場は、さらに熱気を増した。

 事業会社、VC、スタートアップ――業種も立場も異なる約200名がオープンに交流し、新たな協創の種を蒔いた『NEC Open Innovation 2025』。

 NECのオープンイノベーションが次のフェーズへ進み、未来への新しい仕掛けが始まった一日として記憶されていくはずだ。