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自治体DXの未来とは?
~近未来の自治体の役割と行政システム~

 近い将来、自治体の情報システムはどのような姿になっているのだろうか。現在、政府は「自治体情報システム標準化・共通化」などを推進しているが、これらの取り組みが一段落したあとには、どのような自治体情報システムが求められるのか。近未来の日本における行政システムの在り方について、NECでデジタル・ガバメント推進部門長を務める小松 正人に話を聞いた。

自治体の課題解決に向けデジタルの活用が必須に

 現在の自治体を取り巻く環境には、数々の課題が山積している。その中でも自治体運営に最も大きな影響を与えるのは、人口減少に伴う税収減だ。税収が大きく減れば、公務員の定数が減らされることは避けられない。さらに、職員自体の高齢化も進んでいる。

 自治体の職員数が減少しても、カバーすべき事務量は変わらない。人口減で住民の数が減っても全体の事務量は大きくは減らないからだ。「こうした状況を乗り越えていくためには、デジタルを活用した新たな取り組みが必要になります」とNECの小松 正人は指摘する。

NEC
デジタル・ガバメント推進部門長
小松 正人

 さらに、自治体に期待する役割も変化しつつある。自治体は、これまで利便性や効率化、生産性の向上を目指して、住民サービスの向上や行政事務の効率化に取り組んできた。しかし、これからはすべての人々が生き生きと暮らせる社会を目指して、住民や職員のwell-beingに取り組むことも求められる。「これからの自治体は『少子高齢化社会への対応』と『住民と職員のwell-beingの実現』という二兎を追うための自治体DXが求められます」と小松は強調する。

4つの社会変化が自治体に大きな影響を与える

 それではどのような形で自治体DXは進めていくべきなのか。それを読み解く上で、注目しておく必要があるのが近未来に予測される4つの社会変化だ。

 1つ目が「欧州を起点として脱炭素・循環型社会」を目指す動き、すなわちグリーントランスフォーメーション(GX)だ。グリーン先進国として知られるデンマークの工業都市カルンボー市では、市内に隣接する13社が相互に水・エネルギー・産業廃棄物をリサイクルし、隣の企業の原材料・資源にする仕組みを築いているという。最近では、牛を使わないで乳タンパク質をつくるような工場も建設されている。これらの取り組みでは、自治体がインフラ先行投資や長期的な地域産業戦略立案、企業誘致などを担当しているという。「脱炭素・循環型社会を目指す動きが日本でも加速化してくると想像しています」と小松は語る。

 こうした動きに対応するために、NECのグループ企業であるデンマークKMD社はGX推進のためのソリューションEnergyKeyを提供。EnergyKeyはスマートメーター(電力メーター)を通じてデータの収集と検証を行い、電力消費量などを見える化、エネルギーの管理や制御を行うプラットフォーム。CO2の削減や、コスト低減につながることから、自治体を中心にコペンハーゲン空港などでも活用されているという。

 2つ目の社会変化が「事業承継による『第二創業』の活性化」だ。日本では2020年ごろから団塊世代の経営者の大量引退期が到来。政府はスタートアップ企業を支援する施策を打ち出しているが、小松は「独自の技術を有している中小企業に対して事業承継による第二創業を支援することも日本再生の要諦となる可能性があります」と指摘する。

 3つ目が「リアル空間とサイバー空間の融合」だ。

 近未来では、リアル空間とサイバー空間が融合した形で行政サービスが提供される可能性が高い。行政手続きなど、既にサイバー空間を活用している行政サービスに加えて、ゴミ収集や道路整備など物理的に存在するモノを自治体が扱うサービスも、デジタルツインとしてサイバー空間上にさまざまな情報が複製され、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)によって政策に反映されるようになるだろう。

 最後に4つ目が「web3(3.0)の進展」である。web3(3.0)は、データの管理主体が非中央集権型(分散型)であることが大きな特徴だ。プラットフォーマーに情報が集約されてしまう現在のインターネットと異なり、ブロックチェーンを利用して透明性が確保された状態でデータの分散管理が可能となる。「web3(3.0)のムーブメントにより、非中央集権(分散)で、自立的かつ参加型の社会が実現する可能性があります。主権(ソブリン)の確保、例えば『他者の干渉を受けずに自らの意思決定を行う権利』を守れるか、が注目されるでしょう」と小松は述べる。(図1)。

図1 「Web1.0→Web2.0→web3(3.0)」の変化
web3(3.0)は、「非中央集権(分散)でデータが個人に戻る、自立的かつ参加型社会」を実現する

 日本でも、web3(3.0)の特徴を活かした先進的な地方創生が始動している。例えば新潟県長岡市の限界集落(人口比率の50%以上が65歳以上を占める集落)である山古志地域(旧山古志村)では、デジタルを活用した関係人口(移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様にかかわる人々)の増加政策「仮想山古志プロジェクト」が進んでいる。

 このプロジェクトでは、2021年12月から錦鯉(にしきごい)をシンボルにしたデジタルアート「Colored Carp」を発売。このデジタルアートには「山古志DAO」の電子住民票の意味合いをもつNFT(Non-Fungible Token)が含まれており、保有者を「デジタル村民」と呼んでいる。デジタル村民は、山古志DAOの政策に関与できる。

近未来の「デジタル田園都市」を描く

 それでは、この4つの社会変化によって近未来の自治体(デジタル田園都市)や自治体DXはどう変化していくのだろうか。これについて「1つ目の『欧州起点の循環型・脱炭素社会』と2つ目の『事業承継による第二創業活性化』によって、都市と地方の相互連携が進むと考えています」と小松は話す。

 「例えば、ゴミ処理や水道などの行政サービスでは、地方だけでは維持が難しくなる可能性があり都市を含めた広域行政圏で機能をシェアすることになるでしょう。逆に、再生可能エネルギーでは、電力を大量消費する都市に対して、消費量よりも多く発電できる地方が供給を行うような需給関係が成立すると見込まれます。相互連携は、自治体間だけではありません。サーキュラエコノミー(循環型経済)やカーボンニュートラル(CO2削減)の領域では、自治体が企業間を仲介することで、大手企業工場と地場企業の間のサプライチェーンが変化すると考えています。ほかにも、地域課題解決に向けた取り組みでは、自治体が課題解決提案を募集。これに対して、地場企業が保有技術や事例を公開するような取り組みが進んでいく可能性があるでしょう」

 これを実現するためには、官民での「共創の場」やデータ連携・流通の仕組みとして「分散型DFFTツール」を整備することが不可欠だ(図2)。

図2 データ戦略のアーキテクチャと自治体像
近未来の自治体は、分散型DFFTツールを利用して、地場企業と共創するエコシステム形成を主導することになっていくと予想される

 DFFTとは「Data Free Flow with Trust」の略で「信頼性のある自由なデータ流通」を意味するキーワード。web3(3.0)のムーブメントから考えると、その基盤はデータを一箇所のプラットフォーマーに集める「集中型」ではなく、「分散型」になるわけだ。

 多くの自治体・企業が重要なデータをやり取りすることになるだけに、分散型DFFTツールには「オープン」(データ連携規約の標準化・インターオペラビリティ確保、オープンソースなど)と「トラスト」(透明性確保、経済安全保障、改ざん防止・発信者証明、サイバーセキュリティ対策など)の2つの機能が求められるという。

 3つ目の「リアル空間とサイバー空間の融合」という社会変化に対しては、官民データ連携でワンストップサービスを目指す「官民連携2.0」から、「デジタルを活用した地域共創や住民の政策関与を目指す『官民連携3.0』へと進化する」と小松は予測する(図3)。

図3 「官民データ連携」から「地域共創・政策関与」へ
「やって当たり前」の行政手続きから、今後は「みんなで我がまちをつくり上げる」社会へと進化していく

 既に地域共創で先進的な取り組みを行っている自治体もある。この好例が兵庫県加古川市だ。住民が主体となって行政・企業が連携し、地域課題を解決する持続可能なまちづくりを目指して、同市は2021年11月にNECと協定を締結。デジタルを活用した地域共創によるまちづくりを推進している。

 4つ目の社会変化である「web3(3.0)の進展」に対しては、自治体の情報システムも、パブリッククラウド等を活用した標準準拠システム整備を目指す「自治体2.0」から、web3(3.0)ネイティブの基盤の上でDFFTの実現を目指す「自治体3.0」へ進化する可能性があるという。

 小松は「web3(3.0)のムーブメントから考えると、自治体3.0では、データやサービス、ソフトウェアの主権が、クラウドサービス事業者から、日本の住民や自治体になることも想像できます」と語る。例えば、国内法が及ばないクラウドサービス事業者の判断で行政サービスを停止させるなど、自治体で意思決定ができない恐れがあるからだ。

 こうした自治体情報システムを築くためには、人材面の変革も必要だという。「自治体2.0」ではデジタル人材やDX人材の採用・育成が課題となっているが、「自治体3.0」では新たに「エコシステム創造人材」が必要になる。さらに、リーダーシップの在り方が変わるという。小松は「リーダーがオーケストレーター(オーケストラの指揮者)となり、関係者のメリットを考えた上で皆を主役にするようなリーダーシップが重要になると考えています」と述べる。

 今後、「誰一人取り残されない」「必要な人に行政が必要なサービスを届ける」ためには、自治体主導で「みんなのまち」をつくり上げることが必要だ。これを実現するのが、デジタルを活用して多くの住民が自治体政策へ関与し、少数意見も尊重できる仕組みと、デジタルを活用して地場企業が地方創生に貢献できる仕組みの2つである。これらを実装した「エコシステム創造人材が分散型DFFTツールを利活用する共創社会」こそが今後の自治体情報システムの重要なポイントとなるだろう。

サステナブルな社会の実現へ

 今後もNECは、デジタル技術が日常に溶け込み、人々の生活を支えるサステナブルな社会の実現に向けて、取り組みを進めて行く。

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