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レジレス型店舗の新たな可能性
~商品以外に触れずにお買い物~

 NECは40年以上にわたって、店舗システムを始めとするさまざまなソリューションを小売業に提供してきた。しかし、人手不足をはじめ小売業を取り巻く環境が大きく変わるなか、NECは“社会課題を解決する企業”として、前例のない取り組みにチャレンジしているという。それが、デジタルテクノロジーを駆使した“レジレス型店舗の運営”だ。レジレス型店舗の特長は、お店への入退店から決済まで、商品以外には触れることなくスムーズに完了できる点にある。この特長は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で人やモノとの接触が懸念されるなか、“非接触”という切り口での期待も高まっているという。NECはどのような想いでこの取り組みを推進しているのか、その全貌に迫る。

「生活者から選ばれる小売業」の実現をサポートする

 労働人口減少による人手不足が深刻化している。店舗運営を効率化して人手不足に対応する一方、いかにオペレーションや顧客対応の水準を保っていくか──。それが現在の小売業界全体、とりわけコンビニエンスストア業界が抱える課題である。

 その課題解決を目指す取り組みが、NECが2019年度から本格的にスタートさせた「Smart Retail CX」だ。NEC 第一リテールソリューション事業部 事業部長代理の納富功充は説明する。

 「NECでは社会課題の解決にむけ、人やモノ、プロセスを産業の枠を超えてつなぎ、新たな価値を創出させる“NEC Value Chain Innovation”を展開しています。その中で、小売業界に特化した取り組みがSmart Retail CXです」

NEC 第一リテールソリューション事業部
事業部長代理  納富 功充

 「生活者から“選ばれる”小売業へ。Consumer-Centric Retailing」──。それがSmart Retail CXにおけるコンセプトの柱の一つだ。納富は続ける。

 「働いているとき、オフのとき、急いでいるとき、リラックスしているとき、独りのとき、家族と一緒のときなど、状況によって買い物のスタイルやニーズは変わります。そのそれぞれのシーンにおいて楽しく、快適な購買ができること。それが“選ばれる”店舗の条件であり、その実現をお手伝いするのがSmart Retail CXの一つの目標です。さらには、店舗における仕事を省力化し、質の高いサービスを提供できるような「従業員の環境」を、さまざまなデジタルテクノロジーを組み合わせて実現することも同様です。」

「レジレス型店舗運営」というチャレンジ

 このようなコンセプトのもと、NECは早くから社会課題の解決にむけた取り組みを進めてきた。

 「小売業各社と共創し、さまざまな形で店舗の省人化を実現し、運用ノウハウも蓄積してきました」と語るのは同事業部 スマートリテール推進部マネージャーの山崎晋哉である。

NEC 第一リテールソリューション事業部 スマートリテール推進部 マネージャー 山崎 晋哉

 こうした経験を経て、NECにとって前例のないチャレンジが行われた。NEC本社ビル内に「レジレス型店舗」をつくり、運営まで行っているという。これまで顧客企業向けに開発してきた生体認証、売上管理、顧客管理をベースに、センシング技術を組み合わせた社員向け店舗を2020年2月にオープンした。

 「将来を見据えた省人化店舗像の一つが“レジレス型店舗”でした。レジレス型店舗は名前の通りレジがない店舗です。欲しい商品を取り、そのまま店を出るだけで、自動的に決済が完了します」(山崎)

 『レジに並び』、『商品をスキャン』し、『支払う』という一連の手間と時間がゼロになるため、通勤時や仕事の合間といった忙しいときでもすぐに買い物を終えることができる。購買者と商品の紐づけは店内のセンサーによって行われ、決済額は給与から自動的に引き落とされる仕組みだ。売り場で選んだ商品をそのままカバンに入れても問題ない。

 一方、店舗側もレジ人員を削減でき、深刻な問題である人手不足を解消できる。顧客にとっても店舗にとっても「Win-Winの仕組み」だと山崎は語る。

スムーズな入店

利用者は立ち止まることなく入店。
NECの世界No.1の顔認証技術が活用され、入店する一人一人を識別している
(※)米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストでこれまでにNo.1を複数回獲得
https://jpn.nec.com/biometrics/face/history.html
NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません。

普段と変わらない快適な買い物

店舗内では複数人が同時に買い物でき、また、選んでいる中で商品を棚から取ったり戻したりしても問題ない。買い物している様子は普通の店舗そのものだ

退店すると決済完了

退店してすぐに端末で購入履歴を確認することもできる。利用者からは「ロス時間なくお買い物ができて便利」「レジレスに慣れるとレジに並ぶことが無駄に感じてしまう」と大好評だ。当たり前だった“レジ”が“ない”ことのインパクトは大きい

「お客さまと同じ視点に立つ」ことの重要さ

 「レジレス型店舗は、私たちにとって最大のチャレンジでした」と納富は話す。「お客さまにシステムを提供するだけでなく、自ら店舗をつくり、販売し、実際に運営してみる。つまり、お客さまと同じ視点に立ってみる。そして、そこから小売店舗に本当に必要なものは何かを見つけ出していく──。そんな取り組みが、このレジレス型店舗です」と納富は説明する。

 もう一つ、エコシステム、つまりさまざまなプレーヤーとの共創によって実現している店舗であることも重要なポイントであると言う。

 「店舗の商品の取り揃えは、社員向け売店や社員食堂などを手掛けるグループ企業のNECライベックスにお願いしています。パートナーと力を合わせ、価値を最大化していくことが必要であると考えています」(納富)

 この社内店舗で得られた知見や経験を、今後広範な小売企業に提供していく予定だ。

「便利な仕組み」を「必要な仕組み」に

 スマート店舗の試みは海外でも進んでいるが、NECのソリューションの大きな特徴は、日本の実店舗にあわせた店舗空間、設備、オペレーションの仕組みなどを理解し、最大限に利用しながらスマート化していくことが可能な点にある。

 「スマート化の方向性は、各店舗様の課題によってさまざまであると考えています。顔認証技術を使ったレジレス化だけではなく、スマートフォンと連携させる仕組みなど、お客さまの要望に応じたスマート化支援を行っていきたいと考えています」そう山崎は話す。

 また、さまざまなデジタルテクノロジーが活用されているが、顔認証がキーテクノロジーであることは間違いないだろう。

 「顔認証による決済の仕組みを活用するには、顔写真の登録が必要になります。特定の会社の社員が利用するオフィスビル内の店舗、あるいは病院、工場といった職域内の店舗では、社員証などに登録されている顔写真データが活用できるケースが多く、顔認証の技術のスムーズな導入が可能です」

 不特定多数ではなく「特定多数」の顧客が利用するマイクロマーケットで省人化店舗を実現し、それを徐々に他のエリアに広げていく。それがSmart Retail CXの取り組みの一つであると山崎は話す。

 今後はデータ分析にもさらに力を入れていくという。 「顧客が“何を買ったか”はPOSシステムによって把握することが可能です。しかし、マーケティングではむしろ“何を買わなかったか”が重要な情報です。一度は手に取ったけれど棚に戻した商品など購買に至らなかった商品、それらをセンシング技術で把握し、かつ買わなかった理由を分析する。そんなサービスも提供していきたいですね」(山崎)

非接触による感染拡大抑制への可能性

 また、新型コロナウイルス感染症の拡大は小売業にも大きな影響をもたらした。「企画当初はこのようなケースは全く想定していませんでした。」と山崎が語るように、人やモノとの接触が懸念される中、レジ接客時の負担増加や店舗内混雑による感染リスクの高さを懸念した報道が相次ぎ、店舗はその対応に追われている。

 こうしたなか、入退店はもちろん、決済も何も触らずに完結できるレジレス型店舗は非接触という観点でも注目が集まっている。レジ待ちによる混雑もないため、密接した環境も回避でき、感染拡大の抑制に期待が高まっているのだ。「このような状況を受けて、レジレス型店舗の新たな必然性を発見できた。社会貢献に向けた新たな可能性も見極めていく予定です。」と山崎は続けた。

社会課題を解決する企業として

 納富と山崎は「NECはICTベンダーではなく、社会課題を解決する企業」と口を揃えて強調する。社会における不便や非効率を改善し、さらに「便利な仕組み」を「必要な仕組み」として社会に定着させていく。それを実現するためのデジタルテクノロジーなのだと。

 「人々が日常的に利用する小売店舗は、私たちのそのビジョンを広く示すことができる格好のフィールドです。小売店舗において労働力不足の課題を解決し、新しい顧客体験を生み出すこと。その実践が、社会価値の創出につながると考えています。正解があるわけではないので、一つ一つ仮説を立てながら、検証を重ね確かな実績をつくっていく。今回のような環境変化を踏まえながら、社会に貢献できる取り組みに繋げていきます」と納富は力強く語った。NECはこれからも自らの活動で得たノウハウを活かしながら、小売業様、パートナー様と共に、新しい価値創造、そして社会課題の解決に貢献していく。