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2021年10月19日

衛星はもっと手軽に活用できる
衛星 x AIによる宇宙利用ビジネス最前線

 人工衛星というと、国や防衛、地図などの限られたシーンで利用されるものだと思うかもしれない。しかし、AIを活用した画像認識技術の進展により、人工衛星には新たな利用価値が生まれ始めている。「NEC Visionary Week 2021」で開催されたセッション「答えは宇宙からやってくる! 衛星画像の活用法」では、インフラ保全や防災、農業など幅広い分野で活用される新しい「宇宙利用」の最新事例が多数紹介された。

雲があっても暗くてもOK 「SAR」 による地表観測

NEC 宇宙・防衛営業本部
池田 学史

 NECと宇宙の関わりは深く、長い。「はやぶさ」のシステムを開発した企業として知る方も多いだろう。さらに、NECは2018年に自身が開発・運用までを一貫して担う人工衛星「ASNARO-2」を打ち上げている。ASNARO-2は北極と南極を通過しながら約90分かけて地球を周回する衛星で、地球のあらゆる場所を観測することができる。海外や火山の火口などの現地観測が難しい場所も観測可能だ。さらに、ドローンや航空機などの手段と比べてもはるかに広域の情報を取得できる。地球を周回しているため、定期的な観測にも向いている。

 NEC 宇宙・防衛営業本部の池田によると、この人工衛星には他の衛星とは異なる特徴があるという。

 「この衛星にはSARと呼ばれる合成開口レーダーが取り付けられています。このレーダーでは、電波を地表に向けて放射して、その反射波を画像化することによってさまざまなデータを取得することができます。」

 可視光カメラを搭載した人工衛星は多く、画像も各所で利用が進められているが、SAR画像の利用はまだまだ進んでいない。NECでASNARO-2の画像の利用サービス提案や販売を行う桑原は、SARのメリットについてこう語る。

 「SARには、三つの大きなメリットがあります。まず一つ目は、全天候性です。レーダーは雲や霧を透過するので、天候に関わらず観測が可能です。二つ目として、SARの観測には太陽光を必要としません。そのため、昼夜を問わず観測することができます。さらに三つ目として、SARにはレーダーの位置と対象物との距離を測定できるという特長があります。衛星から観測対象までの距離の変化をミリ単位で計測することができるので、地盤沈下や構造物変位の検知などさまざまな用途への応用が可能です。」

NEC 宇宙・防衛営業本部
桑原 翔

 NECではASNARO-2から送られる膨大なデータを自社で設立したセキュアな専用施設内でのみ運用し、AI技術と組み合わせながらさまざまな価値を引き出している。現在もすでに、SARを利用した実証がさまざまなシーンで進められているという。

地盤沈下や被災状況などの地表変化をミリ単位で解析

 既に建設会社やインフラ事業者に利用されているものとして紹介された事例が、インフラモニタリングサービスだ。SARで取得したデータから地盤沈下やインフラの傾きをミリ単位で検知することができる。2014年に内閣府のプログラムで開発された本技術は、対象となるエリアの画像を時系列で20枚以上収集して解析することで、変位計測精度やノイズの除去性能が大きく向上し、現在では極めて高精度なモニタリングが可能となった。広範囲を一度に観測できることから、自治体からもインフラ点検に利用できないかと多くの引き合いがあるという。

 「たとえば、こちらは2014年の7月から2018年の4月にかけて羽田空港における地盤の経年変位を解析した結果です(図1)。緑色のエリアはほとんど変位がなかったエリアを示しています。一方、青色のエリアは沈下傾向が見られたことを示しています。この図のA、B、C、Dに当たる部分については沈下傾向がある一方、Eの桟橋部については、経年変位はほとんど見られず、地盤の沈下が起きていないということが推定できます。」

図1:SARにより羽田空港の沈下傾向解析
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図1:SARにより羽田空港の沈下傾向解析

 桑原の説明が示しているように、SARでは複数のエリアを一度に解析し、解析結果を可視化してわかりやすく提示することができる。本技術によって定期的なモニタリングを実施することで、現地に赴く必要のある点検作業は大幅な効率化を実現できるだろう。

 また、本技術は災害発生時にも活躍する。桑原は2020年7月に発生した九州での豪雨災害での活用実績を紹介した。

 「これは当時の筑後川を解析した画像です(図2)。発災時と発災14日後のSAR画像を重ね合わせて差分を抽出し、浸水域を青色で示した図が左下の画像になります。このデータを衛星写真と重ね合わせてわかりやすくしたものが右側です。このような浸水エリアの解析図は、ハザードマップの精度向上や水害対策の立案にも貢献できると考えています。また、もし被災前から観測を行っていた場合には、発災直後の画像と比較して画像解析を行うことで、被災後最短1~2日で解析結果をご提供することも可能です。被災地へ向かう経路の把握や、救助活動を行うエリアの優先順位付けの材料にするなど、差し迫った状況でも活用することができるでしょう。」

図2:2020年7月の九州における豪雨災害の解析
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図2:2020年7月の九州における豪雨災害の解析

 さらに、SARは電波の特性を活かすことで意外なシーンでも活用できる。

 「油は水よりも波が立ちにくいので、電波が反射しにくいという特性を持っています。これを利用すれば、座礁したタンカーから流れた油膜エリアを特定することが可能です。この画像は昨年モーリシャス沖で起きた事故の解析結果を示したものです(図3)。黄色で示されたエリアは密度の低い油膜が漂流していると推定されるエリアで、オレンジ色のエリアは密度の高い油膜が漂流していると推定されるエリアです。広域を一度にとらえられるので、今後油膜が主にどの方向へ向かっていくのかという予測も立てられるようになります。油膜の回収計画の立案支援に役立てられるうえに、衛星画像という第三者的な情報をもとにして公平に被害者の方々へ補償対応を行うといったこともできるようになると考えています。」

図3:モーリシャス沖での座礁船石油流出事故の解析
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図3:モーリシャス沖での座礁船石油流出事故の解析

農業への活用や経済活動把握にも応用可能

 SAR衛星を利用できるのは、点検作業や災害・事故対策といった内容だけではない。ビジネスに生かすことのできるような積極的な運用も可能だ。その一つが、農業への応用だ。セッションでは二つの事例が紹介された。

 まず紹介された事例が、地域全域における収穫の効率化だ。この例では一島全体のサトウキビ畑の推移を観測したという。図4で示すように、SAR衛星画像の差分を重ねていくことで、収穫した畑を検知することができる。これを積み重ねていけば、地域全域の収穫時期を把握することが可能になる。さらに各年度の日照時間、降水量などのデータを加えていけば、どの畑をいつ収穫すればjust in timeで出荷できるのかというインサイトを得られるようになる。最終的に、収穫の最大効率化を図る施策が打てるという仕組みだ。

図4:サトウキビ畑の収穫状況把握
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図4:サトウキビ畑の収穫状況把握

 「農作物のもモニタリングというと、これまでドローンや航空機、光学衛星が中心だったと思います。しかし、SAR衛星を使えば、島全体のサトウキビ畑を天候に左右されずに観測し、AIで収穫時期の最大効率化を図ることができます。」

 池田がそう語る通り、農業は衛星の広域性との相性が良いようだ。二つ目の事例でも、多くのエリアを同時に観測することができる。桑原はその仕組みについて説明した。

 「このグラフは、四つのエリアにある稲の育成状況を示したものです(図5 右上)。グラフの縦軸は稲の葉にあたるレーダーの反射を表しています。上を示せば示すほど稲の葉の反射が大きくなっているので、より成長した状態であることを示しています。一方、横軸は下部の画像と対応した時系列を表しています。画像は、クロップ1のエリアを時系列ごとに観測した結果です。

 農作物の育成状況を衛星でモニタリングするという技術は、光学衛星では既に実用化されていますが、雨の多い地域での利用は難しいといった側面があるのも事実でした。SAR衛星を使うことができれば、東南アジアなどの雨の多い地域での活用が期待されます。」

図5:ベトナムにおける稲作のモニタリング
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図5:ベトナムにおける稲作のモニタリング

 農業の他にも利用例はたくさんある。セッションでは、画像認識によって車両を認識しカウントする事例や、港湾での船舶をモニタリングする事例が紹介された。「SAR衛星は光学衛星に比べて、人工構造物の検出が得意」と桑原は強調する。車両や船舶の他にも、コンテナなどの検出も可能だと説明された。

 また、最後に研究中の技術として紹介されたのが洋上風力発電への応用だ。池田によると、有力な再生可能エネルギーとして注目される洋上風力発電ではいま、十分な風力を得られる海域をいかに効率的に見つけられるかが課題になっているという。

 「現在では、一般的に風速計が設置された風況観測塔が使われています。しかし、これらはスポットでの観測は精度よくできますが、広い範囲を計測することができないという問題がありました。しかも、塔の設置には数千万円、海上では数億円かかるケースもあり、莫大なコストがかかります。そこで、NECでは洋上の微小な波も捉えることのできるSAR衛星のASNARO-2を用いて、広範囲の風速を捉える実証実験を行っています。」

 大学と連携して行った2019年の実験では、一定の成果が得られた。現在は、さらなる精度向上に向けて取り組んでいるところだという。世界中でカーボンニュートラルの気運が高まるなか、注目が集まる技術だ。

 人工衛星、なかでもSAR衛星を活用したソリューションはこれからさらに発展をしていく領域だろう。AI技術との連動によって、新しい活用方法も次々と生まれている。池田はセッション中「関心をいただけた方は、ぜひディスカッションをさせていただきたい」という言葉を繰り返した。現場との連携と共創によって、衛星利用のビジネスはますます加速していくことだろう。

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