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営業DXで目指すべきCX変革
成功のポイントはデータの蓄積と共有

 人員不足に対応するための効率化や生産性の向上。個人に頼らないための組織力の強化。営業DXの目的は、当然、営業力の強化である。さらに、お客様との接点が多く、顧客理解度が高い営業は企業にとって顧客を知るための重要な情報源。営業DXの進め方によっては、より大きな役割を担い、全社のDX、そしてCX(顧客体験)変革にも貢献することができる。その役割や方法とはどんなものか。CXの戦略策定や実行支援を行うNECのコンサルタント 山本 哲司に話を聞いた。

営業に期待するCX向上への貢献

 多くの企業がDXに取り組む昨今、スマートファクトリーやスマートリテール、スマートコンストラクションと呼ばれる製造業や小売業、建設業などの業種に特化した領域に加え、マーケティングや人事、会計など、業種に限定されない分野においてもさまざまな変革が進んでいる。

 「営業DX」も多くの企業がDXのテーマに上げる1つである。

 顧客理解をさらに深めたい。商談の成功率を上げたい。個人ではなく組織として営業力を高めたい。企業が営業DXに取り組む背景には、営業現場が抱えるさまざまな課題やテーマがある。

 「それらに加えて、ぜひ強く意識したいのがCXの向上です」とNECの山本は言う。

NEC
コンサルティングサービス事業部門
戦略・デザインコンサルティング統括部
顧客体験グループ
シニアマネージャー
山本 哲司

 CXとは、顧客が製品やサービスを利用した際の体験(UX)だけでなく、商品やサービスを購入するまでの課程から購入後のアフターフォローなどまで、企業とつながるすべての瞬間で顧客が得るトータルな体験を指す。CXを向上することは、顧客ロイヤリティやブランディングの向上、競合との差別化、継続的な関係の構築、ひいては企業の業績向上につながる。

 「同じような言葉にCS(顧客満足)があります。CXが顧客と企業がつながるすべての瞬間で得る体験を指すのに対して、CSは、購入時、利用中、購入後など、切り取ったある瞬間における商品やサービスへの満足度にフォーカスしています。つまりCSはCXの中の一部です。営業は販促が仕事ですから、日々、購入時のCS向上を目指していると思います。それは、もちろん間違いではありませんが、さらに視野を広げれば顧客との接点を担う営業だからこそできることがあり、CX向上において重要な役割を果たすことができます」と山本は話す。

CXを考えればDXのゴールがはっきりする

 営業DXを考える前に、まずDXとCXについて整理してみる。

 前述したとおり、CXとは企業と顧客がつながるすべての瞬間のトータルな体験である。体験が多岐にわたるため、CX向上に向けた方法は1つではないし、企業によっても異なる。例えば、アパレル企業でも、コストパフォーマンスがCXの中心にあるファストファッションと、ブランドの持つメッセージや店舗での接客などがCXの中心にあるハイブランドで、具体的な施策が変わることは容易に想像が付く。

 実際、新しい商品やサービスの提供、商品やサービスのパーソナライズでCXを向上した企業があれば、生成AIを使って問い合わせ対応の効率と精度を高めたことがCX向上につながった企業もある。中には、接客の品質をどのように高めるかを考え抜いた結果、従業員満足度に注目。従業員エンゲージメントの向上を通じてCX向上を実現した企業もある。

 しかし、どのようなCX向上施策も「顧客起点」が根底にあることは変わらないと山本は言う。

 「顧客ニーズや期待に対して、どのような方法で、どのような価値を提供していくのか。それが基本です。DXの進展でいえば、技術の導入やデジタル技術による業務効率化の段階は、まだ顧客ではなく自社のビジネスや業務が起点にある。それを超えて顧客起点で考え、デジタルを使って新しい価値や体験、ビジネスモデルを創造する。CXの向上は、その先にあります」(山本)。

 企業が取り組んでいるDXを大きく分類し、それによるCX向上への影響を整理したのが次の図である。

 デジタル技術によって業務の効率化を図ることは、CS低下の防止に効果がある。顧客接点をデジタル化すれば、顧客は複数の接点で同様のサービスを受けられるようになる。意思決定のデジタル化は、より顧客のニーズをとらえた提案の実現につながる。商品やサービスのデジタル化は、購入後の継続的な関係の構築を可能にする。

 そして、企業のバリューチェーンのデジタル化を実現することができれば、顧客は、あらゆる接点で最適な体験を受けられるようになる。さらにビジネスモデル変革に成功すれば、顧客は、これまでにない新しい体験を得ることができる。

 「ピラミッドの下から上に、CXの向上に近づいていることがわかると思います。新しい技術を活用し、業務や顧客接点、意思決定プロセス、商品やサービスのデジタル化を図りながら、最終的に何を目指すのか。CXの視点で見れば、現在、取り組んでいる目の前のデジタル活用、そしてDXの目的がはっきりします」と山本は強調する。

顧客データ活用が営業DXの重要テーマ

 では、全社的にCX向上を目指す取り組みの中で、これからの営業には何が求められるのか。

 まず営業生産性の向上である。日本の労働人口が減少に向かう中、労働力によって差別化を図ること、つまり人海戦術による営業活動が困難な時代が訪れつつある。営業プロセスの標準化や効率化によって、一人ひとりの営業生産性を向上しなければならない。

 情報提供を超える価値の発見も求められる。これまで製品やサービスの紹介は、営業の重要な仕事の1つだった。しかし、現在の顧客は、営業との商談の前に多くの商品についての調査を終え、場合によっては意思決定までを終えているといわれている。もはや、営業に求められるのは情報提供ではない。役割や提供価値を変える必要がある。

 組織的な営業力の向上にも取り組む必要がある。その背景として、顧客が求めるニーズの多様化が進んでいることが挙げられる。また、顧客自身も気付いていない課題へのアプローチを求められるなど、求められる提案の質も高度化している。このような状況に個人で立ち向かうのは限界がある。情報共有体制の整備、組織的なスキルの強化などを通じて営業組織全体で営業力を高めたい。

 「これらのことを踏まえ、私が営業DXのテーマに据えるべきと考えているのが『顧客データの活用と共有』です。役割上、営業は企業の中で最も顧客に接することになります。それが意味するのは、顧客データを収集する機会を最も持っているということ。収集した顧客データは、もちろん営業力の向上に役立ちますが、ほかの部門にとっても貴重な情報となります。マーケティングやカスタマーサクセス、アフターサービスなど、カスタマージャーニーの前後にいる部門をはじめ、他部門と積極的に共有してください。その情報が新しい価値につながっていくはずです。営業が、データを通じて顧客起点のDXを後押しし、全社を挙げたCX向上の取り組みに貢献するのです」と山本は強調する。

 顧客との接点である営業組織を軸に顧客データを拡充していけば、顧客理解はさらに深まり、特定の顧客に対し複数の接点で連続して新しい価値を提供できるようになる。画一的なサービスでは他社との差別化が難しいが、このように顧客データを活用することで、サービスのパーソナライズを図ることも可能だろう。いずれもCXの向上に大きくつながる取り組みである。

 ただし、蓄積する顧客データの質には注意が必要だ。いつ、誰と商談したという記録だけでは不十分。顧客理解にはつながらない。商談の際に、どんな話題が中心になったか、何に困っていたか、どんな表情だったかなど、顧客ニーズや期待をひもとくのに役立つデータをできるだけ収集する必要がある。

 「かつては営業部門が驚くほど精緻な顧客データを蓄積している企業もありました。お客様一人ひとりに関する情報が蓄積されており、趣味がゴルフというレベルではなく、どこのゴルフコースの何番ホールが得意で、何月何日にバーディーを取ったなんてことまで記録されていることもありました(笑)。このエピソードは少々極端ですし、真似できるものではありませんが、より詳しい情報の方がCXの向上につながることは間違いありません」(山本)

自身の経験をもとに伴奏型の支援を提供

 DXとCX、そして営業DXについて考えてきたが、NECはDX支援の一環として営業DXの支援も行っている。営業活動の標準化・仕組化、組織的な営業力の向上、そして、全社的なデータの共有を支えるシステム導入、営業プロセス改善のための研修サービスの提供、そして、データ活用支援など、幅広い支援の提供が可能だ。「NEC自身が取り組み、試行錯誤しながら蓄積した営業DXのノウハウを活かしながら、お客様と共に変革に取り組みます」と山本は強調する。

 DXのテーマの1つである営業DX。その効果をより大きなものにするカギは、変革の目を営業だけでなく全社にも向け、CX向上を意識することにありそうだ。

参考:お客様を未来に導く価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」
参考:企業のDXを加速する「DX戦略コンサルティング」