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2022年12月23日

織田 浩一 北米トレンド

2050年より前に脱炭素を目指すトップグローバル企業
~及第点は北米55社中9社のみ、厳しいランキング評価が示すもの

 脱炭素、ネットゼロなど地球温暖化対策が世界で話題になっており、企業も対応が迫られている。「今世紀後半のカーボンニュートラルを実現」という2015年のパリ協定に基づき、2050年を節目の年と捉えて、多くの企業が様々な自社施策をPRしている。だが、多くは道半ばである。とくにサプライチェーン全体を包括したバリューチェーンにまで対応できている企業はまだまだ少ないという調査結果も出ている。こうした中、世界のトップ企業がどのような戦略を持ってカーボンニュートラルの取り組みについて対応をしているのかをまとめてみたい。

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環境NGOが訴える、企業の目標設定とパフォーマンスの低さ

 Metaが2020年に自社の排出する二酸化炭素(CO2)のネットゼロ化を達成したり、Amazonが配達車両を電気自動車にしたりするなど、GAFAによる脱炭素の取り組みが注目されている。しかし、パリ協定によって定められた、産業革命前から1.5度の気温上昇までに抑えるという目標を考えると、まだまだ北米の大手企業の対応は不十分。そんな調査結果をまとめたレポートを発行しているNGO団体がAs You Sowである。

 As You Sowは企業投資家に働きかけて、企業に環境対策や人権問題への対応を求める活動をしている。30年前の1992年に設立され、カリフォルニア州バークレイに拠点を置く。2022年の米企業の株主総会の時期には、環境、ダイバーシティ、人種対応、政治資金、ガバナンスなどの分野にわたって、北米196社の株主へ働きかけた。その結果99社でAs You Sowの提案書が株主決議に上がったという、強い影響力を持つ。

 同団体は、2022年3月に北米55社の地球温暖化ガス排出削減対応状況をスコアリングし、ランキング化している。そのレポートが「Road to Zero Emissions:55 Companies Ranked on Net Zero Emissions」だ。2050年までに地球温暖化ガスのネットゼロ化を達成するために企業が行なっている努力を独自の視点で評価している。

 まず、地球温暖化ガス排出削減に関する企業の対応を評価するとき、一般的に排出するガスを3つの分野(スコープ)に分けて測定することが必要とされる。

スコープ1:企業の運営によって生じる直接排出のガス排出量
オフィスや工場などで使用する電気、熱、蒸気や企業運営、化学生成、運搬・交通、社員から発生するもの。

スコープ2:他社から供給されたエネルギー利用によって生じる間接的なガス排出量
利用する電力ネットワークや燃料などを外部で生成するときに発生するもの。

スコープ3:企業のバリューチェーンから排出されるガス排出量
製造であれば利用する原材料の生産過程で発生するものや自社までの配送、完成した製品の利用や廃棄などの過程で発生するもの。

スコープの定義
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スコープの定義。出典:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 環境省・経済産業省

 同レポートでは、以下の3つの柱となるチェックポイントから企業を評価してランキングを出している。

1)「地球温暖化ガス排出に関しての情報開示」(以下、情報開示)
スコープ1、2、3でどのように総合的に排出量を測定できているか、明確に情報開示しているかを評価する。注目すべき点としては、スコープ1の直接CO2排出量やスコープ2の間接排出量については、55社中90%の企業が情報開示できているが、製品利用やサプライチェーンから排出されるスコープ3の情報については、実に64%の企業が開示できていないという点である。自社の直接、間接排出量はわかっていても、バリューチェーン全体となると排出量測定の複雑さが一気に上がり、対応が難しくなるのである。

2)「地球温暖化ガス排出に関しての目標設定」(以下、目標設定)
上記のスコープ1、2、3に関して、それぞれの削減目標を立てているか、その目標は大胆であるかなどを評価するものである。パリ協定に対応した目標か、それを達成するために中間的な目標を立てているかなどを見る。

3)「地球温暖化ガス排出削減のパフォーマンス」(以下、削減パフォーマンス)
スコープ1、2、3で、2018年から2020年の削減絶対量や、再生エネルギーを利用してパリ協定の目安である毎年4.2%以上の削減を達成しているかなどを評価している。

 以上の3つは重要度によって重みづけがされており、1)が22%、2)が33%、3)が45%となっている。

北米のグローバル企業55社の評価は?

 北米55社をA~Fの5段階で評価した結果が下図である。全体でギリギリ及第点とも言えるC以上の評価を得られた企業は9社に過ぎず、非常に厳しい結果と言える。チェックポイント別に見ると、「情報開示」はほとんどの会社がC以上の評価であるが、「目標設定」では1/3以下、「削減パフォーマンス」では1/6以下の企業でしかC以上が取れていないことからこの結果に至ったことが分かる。

北米55社の評価結果
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北米55社の評価結果。「情報開示」はほとんどの企業がC以上の評価を受けているものの、他の2つの対応業務では厳しい評価である。出典:As You Sow:Road to Zero Emissions:55 Companies Ranked on Net Zero Emissions

 ランキング上位の顔ぶれを見てみると、総合トップがマイクロソフト(Microsoft)、続いて飲料・食品メーカーのペプシコ(PepsiCo)、そして水処理、浄水、洗浄、衛生管理機器の販売を行うエコラボ(Ecolab)の順となり、いずれもA評価を獲得した。B評価にGoogleを傘下に持つAlphabet、Bマイナス評価にAppleが入っている。Facebook・MetaがD評価、AmazonがF評価となっており、大手テック企業群のGAFAMの中でも明暗が分かれる結果となった。

 「情報開示」でA評価を受けているのは総合トップ2社以外には、Alphabet、Johnson & Johnson、Facebook。「削減パフォーマンス」でA評価を受けているのは、総合トップ3社に加えて、Alphabetとサプライチェーン・配送用の不動産運営を行うPrologis、そして新型コロナウイルスなどに関する医療テストや医療機器製造企業Abbott Laboratoriesなどとなっている。

 「目標設定」でA評価を受けている企業はなく、大胆な目標を設定する企業がほとんどないことを示している。

 興味深いのは電気自動車メーカーTeslaが全ての対応業務でFを取っていることである。レポートの中では、「大きなエネルギー変革を担う製品を作る同社が、自社の情報開示をほとんど行わないのは非常に興味深い企業例である」と解説されている。

北米55社の企業ランキング
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北米55社の企業ランキング
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北米55社の企業ランキング。出典:As You Sow:Road to Zero Emissions:55 Companies Ranked on Net Zero Emissions

 では、総合トップ3社がどのような施策を行なっているかを見てみよう。

2030年にカーボンネガティブを目指すMicrosoft

 同社の目標は2030年までにカーボンネガティブを達成し、同社が設立された1975年から排出してきたCO2量についても2050年までに完全に相殺することである。そのために、スコープ1、2のCO2排出量を減らし、2025年までに100%再生エネルギーで賄うことを中期目標としている。スコープ3でも、CO2量を2030年に2020年規模の半分となるように対応する予定だ。同時に10億ドルをCO2削減・除去テクノロジーに投資したり、同社の顧客やサプライヤーにデータ分析AIなどを提供してCO2排出量削減を助けたりすることで、政府の政策にも影響を与えていくとしている。

 2021年の実績として、87%のサプライヤーがCO2排出量について報告ができており、これにより同社のスコープ3の排出量がより明確になるとしている。

Microsoftの2021年実績
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Microsoft は2021年の実績として、2年で250万トンのCO2排出量を減らし、5.8ギガワットの再生エネルギーを10ヶ国で購買契約した。出典:Microsoft 2021 Environmental Sustainability Report

 だが、2021年はコロナ禍によりデータセンターへのニーズが高まり、ゲーム端末Xboxの販売も好調だったため、スコープ3の排出量が21%上昇したということも、同社は報告している。下図のように、2030年の目標を提示しながら、削減への調整を推し進めている。

MicrosoftはCO2排出量の増加も情報開示して、2030年への目標へ向けて対応していく
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MicrosoftはCO2排出量の増加も情報開示して、2030年への目標へ向けて対応していく。出典:Microsoft 2021 Environmental Sustainability Report

2040年にネットゼロを目指すPepsiCo

 PepsiCoはpep+という環境対応イニシアチブを立ち上げ、サステナブルな農業、エネルギー効率の良い製造、再生エネルギー利用によって、同社のバリューチェーンも含め、2040年にネットゼロ達成を目指すという。

 2021年に35万エーカーであったCO2排出量を減らし、土壌肥沃度や生物多様性に配慮した「再生型農業」を行う農場を、2030年までにその20倍の700万エーカー(約28,000平方キロメートル)に広げるという。

2040年にネットゼロを目指すPepsiCoの戦略
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PepsiCoは再生型農業やCO2を自然に戻すための植林、サプライヤーの工場を含む再生エネルギー、電気トラックの利用など、数々の方法を使って、2040年にネットゼロを達成させる戦略。出典:Pepsi’s Climate Action Strategy

300万顧客のCO2削減に影響を与えるEcolab

 Ecolabの事業は主に水処理、浄水、洗浄、衛生管理などに関わる。世界300万社の顧客が利用する水の量を減らすことができれば、エネルギー利用量の削減につながる。同社は2018年に顧客の利用する水の量を約7億立方メートル削減し、それにより110万トンのCO2削減に成功したという。また同社のヨーロッパの事業において、2018年には99.4%の電力を再生エネルギーによって賄っている。北米事業では新たな契約を締結し、2020年から必要な電力を100%再生エネルギーによって供給する体制を整えている。

 同社の現在の目標は、2030年のスコープ1、2の排出量を2018年と比較して半分にし、2050年までにバリューチェーン内のスコープ3を含む排出量を90%減らし、ネットゼロとすることである。スコープ3については2024年に排出量を70%減らすことを目標にしている。このために、同社の業務車両も次々と電気自動車にシフトしているという。

水処理、浄水、洗浄、衛生管理などのサービスを多数の業界に提供するEcolabのサイト
水処理、浄水、洗浄、衛生管理などのサービスを多数の業界に提供するEcolabのサイト。1923年設立の企業ではあるが、環境対応へのイノベーションを推し進めている。出典:Ecolabホームページ

 As You Sowがまとめたレポートのランキング上位の企業に、注目が集まりがちなテクノロジー企業だけではなく、伝統的な製造業やサービス企業などが含まれていることは、将来を占う意味で非常に重要である。PepsiCoのようにグローバルで農業、製造、配送などの多岐にわたった事業を展開する企業は、業務の複雑性が非常に高いが、実行できれば大きな成果が望めるということを示している。Ecolabのような多くの顧客を持つ企業は顧客の排出量削減により大きな影響を与えることができることを示す。こうした点もAs You Sowのような団体に評価されている。

 今後ランキング自体は変動していくだろう。ランキング上位企業が示すように、現段階で全てのスコープの排出量削減を決め、情報開示、目標設定、削減パフォーマンスを見ていくということが、脱炭素対応で先行する王道だろう。企業として決断し、実行すれば結果は自ずと付いてくるはずである。

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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