

北米で快走続ける自動運転に事故・交通妨害の暗雲
~勢い止まらぬレベル4商用化、安全面の課題解消が急務に~
Text:織田浩一
特定条件下で完全自動運転を実施するレベル4の技術を使い、北米の道路で無人のタクシーやトラックの走行が着実に広がりを見せている。特にここ半年ほどで、都市で無人の自動運転タクシーサービスの台数は着実に増加し、自動運転トラックも実証実験の段階から商用化へ乗り出しつつある。一方、こうした車両の普及がもたらす具体的な事故件数の上昇や安全面での懸念が見過ごせない現実として浮上しており、自治体や企業ではこれらの問題解決に向けた取り組みが進む。日本でも東京・丸の内でデータ収集用の車両が走り始めた自動運転サービス。その商用化への道のりで現在何が起きているのか、北米での最新状況を紹介する。

織田 浩一(おりた こういち)氏
米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。
乗車数は2年間で25倍、展開急ぐGoogleのWaymo One
筆者の住むシアトルは、全米で雨の多い都市としてよく知られている。降水日数は年間平均で161日。秋から春にかけては小雨の日がほとんどで、雨が降らなくても曇りがちな、どんよりした天候であることが多い。冬場は日照時間が短く、朝は8時半ぐらいまで暗く、夕方は16時半に日没となる。路面状況や車体のセンサーへの影響などから、自動運転技術にとっては対応が難しい地域である。
そのシアトル近郊で、自動運転技術企業Waymoの車両を目にする機会が増えている。シアトル近郊ではまだテスト段階ということで、商用運転に至るまでにはまだ時間がかかりそうだが、Waymoはすでに米カリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンゼルス、アリゾナ州フェニックス、テキサス州オースティン、ジョージア州アトランタで商用無人自動運転タクシーサービスWaymo Oneを展開している。
2009年にGoogleの自動運転技術のテストとして始まったWaymoは、2016年に独立企業としてスピンアウトし、2018年にWaymo Oneを始めた。同社が開発した自動運転技術Waymo Driverは、レーザー光照射によって物体までの距離や物体形状を把握するLiDAR(Light Detection And Ranging)、カメラ、各種センサーと画像認識AIを組み合わせる。すでに全米15の州で数百万kmの公道運転におけるテストや数十億回のシミュレーションを終えており、今後TOYOTA、Jaguar Land Rover、Uberなどへの技術供与も予定している。
Waymo Oneは、上記の都市において1500台以上が実運用されている。2025年4月時点で毎週25万回の有料乗車サービスを提供しており、累計乗車回数は1000万回を記録したという。2023年5月時点の乗車は週1万回だったので、2年で25倍に利用が増えた計算になる。
同社は今後、さらに2000台の車両を追加し、テキサス州ダラス、フロリダ州マイアミ、アメリカの首都ワシントンDCにもサービスを展開するという。

WaymoはYouTube上で「Driven with Andrew Freund」という無人自動運転車両の中で撮影するトークショーシリーズを展開する。シーズン2エピソード5では女優Allison Williamsが登場。Waymo Oneが彼女をピックアップし、無人で運行する様子を紹介する。
コストとスケール化で追うTesla Robotaxi
2024年12月の記事で、Teslaがワーナーブラザーズの映画撮影スタジオを借りて自動運転専用のタクシー車両Cybercabを発表したと伝えたが、この6月から米テキサス州オースティンの限定地域で自動運転タクシーサービスを開始した。同州では競合のWaymo Oneも約100台が走るが、Teslaは10-20台のモデルYからサービスを始めた。無人ではなく助手席に安全監視員が同乗し、夜間運行をせず午前6時から午後12時までの運行とする。
同社の強みはWaymoとは異なる価格戦略にあるだろう。Waymo Oneの車両価格はLiDARなどを含めて1台約2600万円(17万5千米ドル)。対して、TeslaモデルYはLiDARを搭載しておらず、センサーはカメラだけのため1台約850万円(5万8千米ドル)である。Cybercab車両の実運用はまだ先だが、価格は1台約446万円(3万米ドル)としており、サービスにおける車両コストの面で有利になる。
またCybercab以外に、Teslaオーナーが自動運転機能を利用して、自分のTeslaを使っていない間に自動運転タクシーとして走らせ、収益を得ることも想定している。これにより、Teslaは車両数と展開地域を一気に拡大させられる可能性がある。
Teslaはサンフランシスコでも自動運転タクシーの展開を計画中のようだ。金融アナリストはこれから1年で全米25都市に広がる可能性があると見ている。
無人トラックサービスを商用化したKodiak、Aurora
貨物輸送の分野においても自動運転技術の浸透が進んでいる。Kodiak Roboticsは2018年にシリコンバレーで設立された、長距離運転向けの自動運転システムを開発する企業である。LiDAR、レーダー、カメラを組み合わせたセンサー群に加え、トラックや軍事車両向けに360度が認識できるデバイスとAIシステムを販売する。人の監視付きの運転を約420万km(260万マイル)の距離で実施し、7000回以上の配送実績を誇る。

2024年12月からは、石油・天然ガス採掘企業Atlas Energy Solutionsと提携し、採掘時のフラッキング(水圧破砕)用の砂を運ぶ商用無人自動運転サービスを開始している。石油・天然ガス採掘が行われる米テキサス州西部のパーミアン盆地のオフロード路線において、自動運転で750時間以上稼働したことが伝えられている。
Kodiak Roboticsの無人自動運転トラックは、石油・天然ガス採掘に使う砂を運搬する商用無人運転サービスを開始している。
公道である高速道路や一般道路で無人自動運転トラックを運行するのがAurora Innovationである。
2017年の設立以降、同社はLiDAR、レーダー、カメラなど25種類の異なるセンサー群を搭載した自動運転トラックの開発に取り組んできた。監視付き運転による480万km(300万マイル)の走行や、1万以上の顧客の荷物の輸送実績を通じて、AIによる画像認識の学習を繰り返してきた。

Auroraのビデオでは、無人自動運転車がセンサーを用いて、交通状況や周辺環境を認知・判断しながら走行する様子が示されている。車線変更や交差点で停止・発進する様子もみられる。
Auroraは米テキサス州ダラスとヒューストンの間で無人自動運転走行を商用化し、今年5月1日までに約2000km(1200マイル)の無人走行を達成したという。同社は今後テキサス州内で約965km(600マイル)におよぶ自動運転ルートを広げる計画である。2025年末までには、隣のアリゾナ州フェニックスまで約692km(430マイル)のルートを延伸させ、州をまたいだ無人自動配送を実現させるとしている。
安全面への懸念示す統計上の数字
自動運転車両の走行台数と走行距離が伸びる中で、ここに来て安全面の懸念も膨らんできた。
下図は、米国道路交通安全局の死亡事故分析報告システムの2017-2022年のデータを利用して、米国の自動車情報サイトiSeeCarsが分析した調査結果である。走行距離10億マイル当たりで死亡事故を起こした車両台数の平均は2.8台。これに対してTeslaでは5.6台と2倍に相当し、自動運転技術で最も先行している1社のTeslaを、乗員死亡事故が最も多い自動車メーカーだとしている。

自動運転が引き起こす事故は話題になりやすく、厳しい目が注がれる。2016年に自動車メーカーGeneral Motors(GM)が買収し、Hondaが後押しをする自動運転技術提供企業Cruiseは、自動運転の人身事故が発端となって自動運転タクシー事業を停止した。2022年2月からサンフランシスコなどの都市で無人自動運転タクシー事業を運営していたが、2023年10月にサンフランシスコで歩行者を引きずり、重傷を負わせた。その事故報告の一部隠蔽などもあわせて、罰金や業務停止を命じられた。すでに多くの赤字を出しており追加投資が必要な事業であったため、GMは2024年12月に自動運転タクシー事業の完全撤退を決めた。GMの運転支援技術開発部門と統合し、もともと予定していたHondaとの日本での無人自動運転タクシー事業も取りやめている。
死亡事故以外も含めて、自動運転機能を含めた車両の事故件数は増加の一途をたどる。人間が運転する車両の事故件数と比べれば数の上では非常に少ないものの、自動運転の安全面に対する懸念を払拭できていない。下図は2021年7月から2025年5月前半までのあらゆる事故件数を集計したものである。特に2024年半ばから急増し、翌年2025年に入ってからは高止まりが続く。この期間はWaymo Oneの普及が広がっている時期と重なり、この統計への影響は否定できない。実際、2021~2025年の期間で、Waymo車両の事故は998件あった。一方、Cruiseは155件、同業であるTransdev Alternative Servicesは140件、Zooxは87件に留まっており、商用サービス展開で先行するWaymoによる事故の数字が目立つ。

自動運転車は交通妨害も引き起こしている。例えば2023年8月、10台のCruise車両がサンフランシスコ北部の道路で20分ほど停車してしまい、交通渋滞を起こした。2025年4月には、ロサンゼルスのドライブスルーのみのファストフード店舗でWaymo車両が立ち往生し、その日は店を閉めざるを得なかった。
特に救急車や消防車など緊急車両に対する交通妨害は大きな課題となっている。全米では事故の統計しか集まっていないが、サンフランシスコでは2023年にWaymo、Cruiseなどにより66回の緊急車両への交通妨害があったと報告されている。
事故を分析するWaymo、自治体などは交通妨害の解決へ
事故件数の増加を受けて、Waymoは自社レポートのWaymo Safety Impact中で、自動運転車両が起こした事故と、人間の運転する車両による事故を比較分析している。事故の内容を同じ地域、道路タイプ、車両タイプごとに比較し、自社の安全性をアピールする形となっている。
それによると、同社の自動運転は、人間の運転手よりも車両事故を80%前後も減少できるとしている。内訳としては、重傷事故やそれ以上の影響のある事故で88%、エアバッグ利用の事故で79%、人身事故で78%、歩行者の人身事故で93%、怪我を伴う自転車事故で81%、怪我を伴うオートバイ事故では86%を減少できると示す。

緊急車両に対する交通妨害については、対策の取り組みも始まっている。シアトル市では、救急車や消防車が走行する緊急ゾーンを自動運転車が避けるようシグナルを送るという、全米初の試験的プログラム「デジタル衝突認識管理プログラム(dCAAMP)」を2025年後半に発足する。シアトル市交通局とOpen Mobility Foundation、ワシントン大学の持続可能交通ラボなどが協力し、緊急電話システムが発信する情報をMDS(Mobility Data Specification)に準拠した形式で自動運転車システムに送るというものである。
ファストフード店舗での自動運転車両の交通妨害という課題に対しても、その解決策を提供するスタートアップが生まれている。
Autolaneは2024年にシリコンバレーで設立された、まだ8人ほどの規模のスタートアップである。小売、ファストフードチェーンやモール運営企業向けに、自動運転車両をスムーズに配車するシステムを開発・販売する。店舗運営側では配車された自動運転車両への商品の積み込みや乗客の乗り降りがシステム上で管理できる。交通量の多い駐車場やドライブスルー店舗での混雑の緩和が期待されている。

https://www.goautolane.com/
レベル4の自動運転技術の商用化の進展は後戻りすることはない。北米ではこれまで述べてきたように、無人の自動運転タクシーや配送トラックでの商用サービスとして導入が広がりつつある。ならば、その過程で現れる課題には1つひとつ取り組んでいくほかはない。安全面では多くの課題を内包する自動運転は、事故や交通妨害の可能性が以前から指摘されてきた。だが、現実にそれらの件数が増えて多くの人の目に留まると、普及の勢いが削がれかねない。自動運転車両のメーカーは安全性をアピールすることに加えて、自治体や政府、スタートアップ企業らと協調して課題解消のためのソリューションの開発に力を注ぐ段階に来ているだろう。

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