自律型AIエージェント「OpenClaw」に熱狂、我々はどう適応する?
~SXSW、NVIDIA GTC2026に見る最新AIの現在地~
Text:織田浩一
生成AIからAIエージェントへの進化が加速するといわれてきたが、自律型AIエージェントの登場を受けて、私たちはあらためて未来へ向けた認識を整理する必要があるのではないか。機能を高めた専門エージェントの複数利用が普及し、昨今よくいわれている「社員とAIエージェントがチームを組む」という理想像が本当にあり得るのか。そして、社会はその準備ができているのだろうか。現状を確認するために、この3月に開催されたテックスタートアップカンファレンス「SXSW 2026」とAIインフラ提供企業NVIDIAの年次カンファレンス「NVIDIA GTC 2026」(オンライン)の両方に参加した。今のAIエージェント関連の話題や利用状況を含めてまとめてみたい。
織田 浩一(おりた こういち)氏
米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。
ChatGPTの7倍の成長率、次のステージをつくる
2025年初頭のAI業界の話題は、AIエージェント時代に突入した、というものだった。AIモデル提供企業が熾烈な競争を繰り広げるなか、ここへ来て自律的な複数AIエージェントの利用へとステージが移り変わっている。
NVIDIA GTC 2026の基調講演でCEO Jensen Huang氏は、2025年11月にClawdbotとして公開された自律パーソナルAIエージェント「OpenClaw」がソフトウェア業界の歴史で最も重要なものであると語った。OpenClaw はデスクトップPC上に複数のAIエージェントを設定することが可能だ。メール・カレンダー・ファイル管理やプログラミングソースコード共有サイトGitHubの操作、Slackへの投稿、外部サービスとの統合などを、自然言語の命令で自律的に行っていく。必要な作業を24時間次々と処理していくため、ユーザーが朝起きて、AIエージェントが開発した成果物やブログ、メールの返信を確認するといった仕事のパターンができ始めているという。
設定に多少テクニカルな知識が必要とされるため、プログラマーの間での使用が主流ではあるものの、その成長は目を見張るものがある。同氏によれば、Facebookが開発したUIツールやLinuxなどを追い抜き、GitHubで25万の星印を最速で獲得した。ウェブトラフィックで見ても、ChatGPTが最速の月で132%の伸びを観測したのに対して、OpenClawは2026年の2月から3月にかけて925%伸びたと考えられる。結果として、ChatGPTの約7倍の成長率を示したことになる。
同氏は、OpenClawで示される複数の自律型AIエージェントを利用する環境では、OpenAIのChatGPTやAnthropicのClaude、Midjourneyのような独自のAIモデルを使ったAIエージェントと、Llama、DeepSeek、KimiといったオープンソースのAIエージェントを組み合わせて使うオーケストレーションが必要になるとの持論を展開している。「どの企業のCEOも自社内のデータに複数のAIエージェントがアクセスし、自律作業を進められるOpenClaw戦略を必要としている。そしてAIエージェントを働かせて自律的に動かすものが新たなPCである」(Huang氏)と、新たなPC像にも言及した。
出典:NVIDIA GTC 2026: Keynote
SXSWでも、スタートアップインキュベーターY CombinatorのCEO Garry Tan氏が同様の見解を語っている。同氏はスタートアップをサポートする立場でありながら、夜や週末は複数のAIエージェントを利用しながら自分のサービスを開発している。「AmazonやGoogleでエンジニアをしていたSteve Yegge氏が『今のエンジニアはAI開発ツールCursorを使って、2005年のGoogleエンジニアの1,000倍の生産性を上げている』と話していた。それを今、自ら体験している」(Tan氏)。
OpenAI、Anthropicなども続き、新たなPC像を見せる
これはOpenClawやCursorだけに限った話ではない。
OpenAIはOpenClawの開発者を雇い入れ(OpenClawは独自のオープンソースプロジェクトとして継続)、自社のブラウザやツールをデスクトップアプリに統合したAIエージェントスーパーアプリの開発計画を立ち上げたと伝えられている。
NVIDIAも今回のカンファレンスでOpenClawのNVIDIA版「NemoClaw」を発表した。
Perplexityは、GmailやSlack、Notionなど400以上のアプリと19のAIモデルを自律的に選択、作業を行う「Perplexity Computer」を公開している。
プログラミングAIエージェントClaude Codeと知的作業をデスクトップ上で行う「Claude Cowork」を公開するAnthropicは、それらの中で使える機能「Claude Computer Use」を追加している。ClaudeがデスクトップPCのすべてのファイルやアプリを自律的に利用・操作する。現在はMacのみの機能だが今後はWindows向けにも公開されるようだ。
下記のビデオでは、顧客企業からベンダー依頼書の作成を頼まれた担当者によるClaude Computer Useの利用状況のデモを示している。Claude Computer Useが必要な情報をデスクトップ上のExcelやCRMツールなど複数のアプリから探し出し、依頼書のフォーマットに項目を入力して送信するまで自律的に行っていることがわかる。さらに、Claude Coworkにはモバイルアプリから指示やアップデート、Claudeからの問い合わせに答える「Dispatch」という機能も追加されており、まさに「AIエージェントが働く新たなPC」の姿を見せている。
PC上の複数アプリに散らばった情報を集めて、ベンダー依頼書のフォーマットに合わせて入力し送信するという一連のステップを自律的に行うClaude Computer Use。
出典:YouTube:Claude | Computer use for automating operations
AIエージェントを使う企業の組織図
SXSWでは、AI戦略家として知られるSandy Carter氏が「AIエージェントは個人だけではなく、企業組織内でも多数使われ始めている」と語った。同氏はIBMやAWSでAI担当を務めた経歴があり、現在はWeb3時代のドメイン登録会社Unstoppable Domainsのチーフビジネスオフィサーである。同社は従業員数90人ほどで、Carter氏は自身が率いる複数AIエージェントを含めたマーケティング組織(下図)を例に利用状況を説明した。
マーケティング組織のトップの下に、「製品マーケティング」「ブランディング・コンテンツ」「需要創出(デマンドジェネレーション)」「デジタルマーケティング」部署が置かれている。各部署にはそれぞれに部署長が存在し、その下に2人ずつマネージャーが配置されている。マネージャーの下には「アイデア開発」「コンプライアンス確認担当」「A/Bテストアナリスト」「ランディングページ最適化」など多数のAIエージェントがおり、各部署の2人のマネージャーは、これらのAIエージェントを管理しながら業務を行う。
出典:YouTube:SXSW:From Pilot to Payoff: 7 Pattern-Matched Traits of AI Systems That Actually Work
無限のAI労働力、新たな能力格差に警鐘も
AIエージェント導入や新たなテクノロジーがもたらす未来は明るい部分だけではない。大手企業に対しての新規テクノロジー対応をコンサルティングしているFuture Today Strategy GroupのCEO兼フューチャリストAmy Webb氏は、SXSWでAIや新規テクノロジーのメリットを訴える一方、その利用には主に2つの課題があると警鐘を鳴らした。
1つ目はAIエージェントが幅広く普及していくなかで、社会はどのように対応していくべきかという指摘である。AIエージェントやロボットが疲れを知らない無限の労働力を発揮し、24時間業務を行う環境が整ってきている。人間が関わることなく生産や業務が進んでいく状況に、社会はどのように適応していくべきなのか。
もう1つは、人間の身体が テクノロジーを装備する“プラットフォーム”になりつつある現状において、人間の間で能力格差が生じかねないという指摘だ。スマートグラスなど認識や知的生産能力を高めるAIデバイスに加え、外骨格ロボットなど身体能力を向上するデバイスも出てきている。労働者としてこれらを持っているか持っていないか、さらにDNAを編集するかしないかで能力格差が発生し得る。人材採用もそのようなことが条件になる恐れがあり、また企業が従業員にこのようなテクノロジーの利用を促す可能性も否定できない。
Webb氏の指摘は、そのような未来に私たちが準備できているかという問いである。
出典:YouTube:SXSW:Amy Webb Launches 2026 Emerging Tech Trend Report
AI関連スタートアップが一気に増加のSXSWピッチ
AIの進化にメリットと不安が交錯するなか、AI機能を含めた製品やサービスを開発するスタートアップは急増中である。SXSWで恒例のスタートアップピッチでは応募企業600-700社中、45社程度がファイナリストに選ばれ、壇上で自社のピッチを行った。昨年までは、ファイナリストに占めるAI関連やAI機能を含むスタートアップの割合は3割程度だったが、今年は約3分の2を占めた。スタートアップのAI志向が鮮明になったといえる。
プログラミングにおけるAIエージェント利用の高まりと開発精度の向上については、昨年末ごろから大きな話題になっていた。今年はミーティング設定、メール処理、調査、コンテンツ制作、オフィス業務など知的業務に大きく広がっていることが、参加した2つのカンファレンスで感じられた。筆者も自社のメールやカレンダー、調査、請求書などのオフィス業務はAnthropic Claude Coworkと2、3のAIサービスを組み合わせて自動化しつつある。Huang氏が言うように、戦略的に「OpenClaw戦略が必要」な段階に来ていることを肌身に感じる。2026年、どの企業でもAI戦略をアップデートするタイミングに差し掛かっているといえるのではないだろうか。
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