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2019年10月29日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

配車アプリは「電話」が基本~「人対人」がカギを握る中国的コミュニケーション

 中国の社会がITの進化で非常に便利で効率的になったことは疑いない。しかし、その一方でデジタル技術が日常生活に深く浸透するにしたがって、そこに介在する「人」の存在が逆にクローズアップされる場面が出てきているように思う。

 中国お得意のタクシー配車や旅行手配のアプリといったITを駆使したサービスは、システム自体、非常に良くできていることも確かなのだが、実際に使ってみると、コアの部分で「人対人」によるサービスが重要なカギを握っている。昨今、急速に成長するライブコマースはインターネット時代に生まれた究極の対面販売というべきだろう。一方でひところ大いにもてはやされた「無人〇〇」といったものは、多くは目論見通りには行っていないようで、すでにほぼ淘汰されてしまったものもある。

 こうしたデジタル社会における「人」の介在は、技術の一段の向上で置き換えられる部分もあるが、どうもそれだけではない感じがある。もともと中国は「人対人」のコミュニケーションを重視し、「仕組み」や「枠組み」「ルール」といったものよりも「人」に信を置く傾向が強い。ある意味、非常に「人間くさい」社会である。そうした中国社会のいわば人間中心主義な面に、ITという切れ味鋭い道具が大胆に割り込んで、中国独自の方向に成長して行きつつあるのかもしれない。

 今回はそんな観点から中国社会の進化と「人が中心」の中国的コミュニケーションの関係のようなことを考えてみたい。

タクシーはアプリで呼ぶもの

 中国でスマートフォン(以下スマホ)アプリを使ったタクシーの配車サービスが広く普及していることはお聞き及びの方が多いと思う。「タクシー」と書いたが、中国の配車サービスには大衆的なものから超高級車まで多種多様の選択肢があって、流しのタクシーを呼ぶこともできるし、高級ハイヤーのような車を呼ぶこともできる。

中国の大都市では街中のタクシーもアプリで呼ぶことが多くなった(重慶市内)
中国の配車アプリではさまざまな車が手配できる。これは空港に出迎えに来てくれた高級バージョンの車(黒龍江省ハルビン市で)

 私はこの種の配車サービスのヘビーユーザーで、メジャーなアプリはすべてスマホにダウンロードし、Alipay(支付宝)やWeChatPay(微信支付)などの支払いシステムと連結させ、あるいは事前に一定額をチャージしておいて日常的に使っている。使い方は日本でサービスを提供しているUberやタクシー配車アプリとほとんど同じだ。自分が今いる位置を地図上で確定し、ボタンを押すと、オーダーを受けた運転手が迎えにやってくる。

車を呼ぶと、まず電話がかかってくる

 しかし中国と日本で大きく違うのが、中国ではまず運転手から電話がかかってくることである。配車が完了し、「車は〇㎞離れた地点にいます。到着まで〇分ぐらいかかります」といった表示が出ると、どこかのタイミングで電話が鳴る。

 (念のため先に述べておくと、中国の配車アプリには例外なく専用の音声通話機能が付いていて、運転手とお客の間で通話する場合、双方の携帯電話番号など個人情報を相手に知られずに話せる仕組みになっている)。

運転手の電話応対、3つのパターン

 交わされる会話の中身は運転手によって3つぐらいに分かれる。一つは「今どこにいるの?」から始まるタイプ。要は顧客の現在地が示されているカーナビの地図を運転手がまともに見ていない。これでは事実上、電話で呼ぶのと変わらない。さすがに最近このパターンはさほど多くはない。

 2番目は、とりあえずはアプリの指示にしたがってお客のもとに向かうが、乗車位置の近くに来ると確認のために電話をしてくる場合だ。これが一番多い。レストランやホテルから呼んでいる場合、まだ食事中なのか、外に出ているのか。建物に車寄せはあるのか、敷地内に入らず路上で待つのか。逆にお客の側からは「〇〇ビルのローソンの前」とか「〇〇カフェでお茶しているから、着いたら電話して」、「白いシャツにジーンズ」「メガネをかけて黒い鞄を持っている」といった事項を伝える場合もある。

配車アプリはGPS+カーナビとリンクしてお客の待つ場所を表示するが、それでも運転手はお客に電話をするのがスタンダードになっている

 そして3番目は、「ニイハオ、オーダーありがとう。10分もあれば行きます。着いたら電話するから。じゃあね」と儀礼的な内容が中心のパターンである。会社によってはこの儀礼的な電話がマニュアル化されている場合もあるようで、注文を受けた時にまずこの種の電話をし、お客の待つ地点に近づいたら前述のような詳細確認の電話をするという二段階の対応をするケースもある。

中国語ができないと使いにくい?配車アプリ

 こうしたやり取りがほぼ習慣化されているので、キメ細かなオーダーが可能で、便利かつミスの発生も少なくなる。運転手にしてみれば、呼ばれたものの無断で立ち去られてしまうと損失になるので、電話には無断キャンセル率を下げる効果を期待している面がある。配車アプリには「発注後、〇分経過したらキャンセル料を徴収」といった機能があるほか、顧客の使用履歴はデータとして蓄積されていくので無断キャンセルの多いお客はポイントが下がるなど、抑止効果を狙う仕組みはある。しかし、その基盤の上に人と人の直接のコミュニケーションを加えることで互いの信頼度をさらに高めようとの狙いがある。

 こういうことだから中国の配車アプリは中国語が不自由な外国人にとっては、実はあまり便利な仕組みではない。運転手さんは「どうせ電話すればいい」と思っているから、地図をあまり丹念に見ない人が多いし、地図もGPSもそこまでの精度は期待されていない。運転手さんと雑談していると「電話したら外国人のお客さんで、どこにいるかわからず困った」という話をしばしば聞く。お客の側から見ても、日本人の友人の中には「中国の配車アプリは電話で場所を説明しなきゃならないので面倒だから使いたくない。ナビを見て黙って来てくれればいいのに。流しの車を捕まえるか、地下鉄やバスのほうが気が楽だ」という人もいる。

 実際、日本国内でタクシー配車アプリを使うと、運転手さんから電話がかかってくることはほとんどない。地図上に示された場所を子細に確認してそこに来る。電話は最後の手段という感じである。お客のほうも、多くの場合、地図上のどこで待ったらいいかを考えるし、そういう「地図を読む」習慣を持っている人の比率が高い。その根底には地図が大好きで、地図情報を重要視する日本の文化や教育の体系があり、精度の高い地図が広く普及している風土がある。逆に言うと、中国社会にはそれがないから、そこを電話でのコミュニケーションで補って解決しているという見方もできる。

 そこには地図という「仕組み」に依拠して問題を解決するか、「人対人」の力によって課題を乗り越えるかという日本社会と中国社会のアプローチの違いが表れている。

「人対人」のサポートを重視する旅行アプリ

 そのように考えてくると、中国には先端的なITに依拠しながらも「人」の力で課題を解決している仕組みが随所にある。以前この連載で「アプリが変えた中国人の行動パターン 情報共有が進み、効率化し始めた中国社会」という話を書いた。中国の代表的な旅行アプリ「携程旅行網Ctrip(シートリップ)」について述べたもので、ITを駆使した機能の便利さはぜひ本文をご一読いただきたいが、現実にCtripを使ってみると、強く実感するのはその「人対人」による顧客サポート体制の充実ぶりである。

中国で最も普及度の高い旅行アプリ「Ctrip(シートリップ)」のリアル店舗(上海市内で)

 Ctripの画面には隅のほうに常に顧客サービスを呼び出すボタンが表示される。最近はチャットでのコミュニケーションが基本だが、音声通話もできる。一般的な質問事項はAIで自動的に対応するが、個別のトラブルには担当者が「人対人」で応対する。だから中国語が不自由だと本来のサービスを受けにくいという問題はここでも発生する。

あっと言う間にホテルと交渉

 先日、福建省の泉州に行った時、Ctripでホテルを予約したものの、勘違いで日程を間違えてしまった。着いたら予約は昨日だったというわけである。代金はCtrip経由で支払っているし、ホテルとしてはどうしようもない。

 全く私のミスではあるが、ともかくCtripのサービス担当者にチャットで事情を説明したら、「少々お待ちください。状況を確認してホテルと交渉します」。そして、間もなくメッセージで「昨日の予約を本日に振り替えました。そのままチェックインしてください。ご利用ありがとうございました」。その間、5分も経っていない。幸い、さほど混む時期や曜日でなかったのでこのような扱いが可能だったのだろうが、数億人単位の利用者を抱える巨大アプリがかくも迅速かつ柔軟な対応をすることに感心した。

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