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「失敗はつきもの」「そこから何を学ぶか」
少数精鋭で挑戦するセブン銀行のAI・データ活用とは

 政府主導のさまざまな会議や実証プロジェクトなどが立ち上がっているようにAI・データをいかに活用するかは、企業やビジネスの枠を超え、現在の社会の重要なテーマの1つである。では、人材不足、不確実性といった課題を克服し、成果を享受するには、どのような取り組みが有効か──。原則24 時間 365 日、休むことなく稼働する安心・安全な決済インフラを提供し、提携金融機関や事業パートナーとともに「あったらいいな」を創造するセブン銀行は、この「あったらいいな」の実現のためにAI・データ活用に取り組み、多くの成功事例を生み出している。セブン銀行のキーパーソンとNECのデータサイエンティストが話し合った。

不確実性が高いAI・データ活用は内製が不可欠

本橋:セブン銀行様のAIおよびデータ活用と企業変革に向けた取り組みをご紹介ください。

中村氏:現在、セブン銀行は、全国に2万7000台以上のATMを設置し、銀行、信用金庫やクレジットカード会社、電子決済等代行事業者など640の企業と提携したサービスを提供しています。キャッシュレスの時代に突入し、もうATMの利用は減っているのでは?と考える人もいるかもしれませんが、当社のATMは電子マネーの現金チャージ機能なども備えており、利用件数はまだ増加傾向にあります。もちろん、銀行としての金融サービスも提供しており、275万の個人口座を提供しています。

株式会社セブン銀行
コーポレート・トランスフォーメーション部長
中村 義幸氏

 AI・データ活用に本格的に取り組み始めたのは2018年ごろ。以来、PoCやさまざまなプロジェクトを通じて成果を積み上げ、組織化と体制拡大を進めてきました。最近の代表的な動きとしては、金融データ活用推進協会を通じて、経験やノウハウを業界全体に還元していること。そして「Data Management Office(DMO)」の立ち上げがあります。DMOの目的は、AI・データ活用に、さらに業務部門を巻き込むこと。コミュニティを運用して業務部門に近い立ち位置を取り、AI・データ活用に関する啓蒙活動を展開して文化を醸成したり、問い合わせ対応、実際のプロジェクトでの伴走サポートを行ったりしています。

 このDMOと連携しながら、実際のAI構築や運用などはデータサイエンティストが行うわけですが、セブン銀行のAI・データ活用における大きな特徴は、データサイエンティストたちがAI活用企画の立案も行っていること。どの業務課題なら大きな成果が期待できるかをデータサイエンティストが見極め、企画を立てて、コンサルタントのように業務部門に積極的に働きかけるのです。当然、データサイエンスの知識だけでなく、業務やビジネスへの理解、つまりビジネス力が求められることになります。

セブン銀行のAI・データ活用体制

本橋:これまで、どのようなテーマに取り組んできましたか。

中村氏:当社は、フィリピン、インドネシア、アメリカにもATM事業を展開していますが、フィリピンでは、ATM事業で最もコストがかかる現金管理の高度化を図りました。ATM内の現金は、当然、なくなる前に補充しなければなりませんが、頻度が多すぎると、当然、ムダな人件費などがかかります。そこで、ATM内の紙幣量の増減をAIで予測し、補充のタイミングを最適化しています。コストの高い業務こそAIによる効率化を考える。定石に則った施策です。

 また、インドネシアでは、どこにATMを設置するかの判断にAIを活用しました。それまでは、交通量などをスコア化して、定めたスコアを超えたら設置するというルールで行ってきたのですが、スコアは下回ってもAI分析によって採算がとれると判断した場所にも設置し、ビジネス機会の拡大につなげています。

 ほかにも、自然言語処理技術を使ってコールセンターへの問い合わせを分類し、問い合わせ傾向の変化を把握したり、社員にAI・データを身近に感じてもらうためにオフィスの混雑率予測を行ったり、さまざまなプロジェクトに挑戦して、積極的にノウハウを蓄積しています。

本橋:さまざまな取り組みを成功させているのですね。

中村氏:そんなことはありません。そもそも課題の設定が間違えていた。予測精度は十分であっても、それを活かした施策が見つかっていない。失敗事例もたくさんあります。AI・データ活用は、手戻り・中止は当たり前。不確実性が高くトライアル&エラーの連続を覚悟しています。

本橋:トライアル&エラーを行いやすくする工夫はありますか。

中村氏:常に優先順位を見直しながらデータサイエンティストをアサインする、失敗が見えてきたらすぐにやめるなど、機動力を高めるための「内製」が必須だと考えています。ですから、データサイエンティストは、外部委託ではなく社員。先ほど述べたようにデータサイエンティスト自身のビジネス力を重視しているのもそのためです。実際、データサイエンティストがビジネス力を磨くためのプログラムも用意しています。

 データサイエンティストがビジネスを学ぶように、業務部門にもAI・データを学んでもらうため「データサイエンスプログラム」というデータ研修を用意しています。外部の研修プログラムを利用することも考えましたが、実践性を重視して、セブン銀行の生データを使い、データサイエンティストが講師を行う体制で、社内で運用しています。

NEC
NEC Generative AI Hub
テクノロジーリード
本橋 洋介

データの民主化に取り組む企業が増えている

本橋:内製に取り組んできた中で得た気付きやノウハウをぜひお聞かせください。

中村氏:成果につなげるには、最初の「課題設定」が重要です。繰り返しになりますが、そのためにはデータサイエンティストがビジネス力を高め、業務部門がAI・データリテラシーを高める必要があります。

 また、新しい技術やツールも積極的に活用します。新しい技術やツールは、何かが進化し、新しい価値を提供してくれるはず。積極的に自身で利用し、セブン銀行にフィットしているかを見極めたいと考えています。

本橋:注目している新技術はありますか。

中村氏:やはり生成AIには注目しています。また、既に有効だと見極めたのが自動機械学習(AutoML:Automated Machine Learning)ツールです。それまで、プログラムを書いてAIを開発していたのに、ごく簡単な操作で分析モデルを作成できる。セブン銀行が掲げる内製によるAI・データ活用に非常にフィットしています。セブン銀行ではdotData, Inc.が開発し、NECが提供しているAIソフトウェア「dotData」を利用しています。

セブン銀行のAI・データ活用技術

山本:ありがとうございます。dotDataは、AI開発で最も重要となる特徴量の発見を自動化します。顧客の性別や利用店舗など、関係のありそうなデータと実績データを同時に投入すれば、「どんな顧客が、その商品を買っているのか」など、実績と強い相関を持つ条件、つまり特徴量を自動で抽出してくれます。

NEC
データドリブンDX統括部
シニアデータサイエンティスト
合同会社dotData Japan
主席データサイエンティスト
山本 康高

中村氏:セブン銀行では、カードローンニーズの予兆検知に利用し、潜在ニーズを持つお客様へのマーケティングなどに役立てています。また、こういったAutoMLツールは専門的なプログラミングスキルがなくとも利用できる点を活かし、データサイエンティストが利用するだけでなく、業務部門の研修にも使っています。

山本:まさにAI・データ活用の民主化ですね。同じようにデータサイエンティストだけではなく、一般の社員もdotDataを利用できるようにしてDX人材を育成する、さらにはdotDataによって分析そのものをテンプレート化し、業務に取り込みやすくするなど、dotData によるAI・データ活用の民主化を進めるお客様は非常に増えています。

 それに対応するためにNECもdotDataを活用した業務部門向けの人材育成サービス「DX人材育成サービス」を提供し、データ分析力とビジネス力を併せ持つ人材の育成を支援しています。トレーニングの中心はOJT形式のプログラム。お客様の生データを使って、実際の業務にひも付いたテーマを設定し、データ分析を学んでいただきます。NTTドコモ様、JFEスチール様、三菱電機ビルソリューションズ様など、既に多くのお客様に利用いただいています。

 分析のテンプレート化については、ローソン様が近い取り組みを進めています。ID-PoSの購買行動データを分析して、ある商品を買うお客様をいくつかのペルソナに分類。そのペルソナに沿ってレシートに印字するクーポン・デザインを最適化したところ、クーポン利用による購入率が12倍に増加しました。商品、地域、期間などの設定を変えれば、同じ分析モデルをほかのキャンペーンにそのまま応用可能。まさに分析のテンプレート化です。

DXの要「組織・文化変革」「人材の育成」にいかに取り組むか

本橋:セブン銀行様のデータサイエンティストは、約10人と少数精鋭です。限られた体制で、さまざまなプロジェクトを並行させるポイントを教えてください。

中村氏:すべてのプロジェクトは、あらかじめ定められたプロセスに則り、すべてのプロセスをドキュメントにまとめて、誰が見ても経緯や結果がわかるようにし、ノウハウの共有を図っています。こうしておかないと、失敗が失敗として放置されてしまい、そこから何かを学ぶこともできません。また、リーダーが常にAI・データ活用に挑戦していこうと発信し続けることも大切だと考えています。

本橋:DXリーダーのもと、DX専門人材とDX推進人材が協働し、マネジメント層のサポートを得ながら全社一丸となってデジタル変革を進める。NECも、このような体制が理想的だと考えています。

 そのためにNEC自身も長年DXの要となる「組織・文化変革」「人材の育成」に取り組んできました。そして、たどり着いたのがDX人材の育成は「実践型教育」「伴走型育成」「継続学習」が有効だということ。その気付きと知見を広くお客様のビジネスにも役立てていただくために、現在はDX人材戦略の策定からDX文化の浸透までを網羅した「NECアカデミー for DX」というサービスにまとめて提供しています。

セブン銀行様の一般社員向けのデータサイエンスプログラムの作成についても、NECがお手伝いさせていただきました。

NECアカデミー for DX

中村氏:非常に実践的なプログラムを作成でき、私たちの内製を支えています。既存の研修プログラムと合わせて既に16回開催し、全社員の約25%が受講しています。

本橋:今後の展望をお聞かせください。

中村氏:データサイエンティストだけでなく業務部門の社員にもスキルを身につけてもらうなどして、AI・データ活用で収益に貢献するところまではきました。次のテーマは利益への貢献です。高いハードルではありますが、「独り立ち」したデータビジネスを実現し、それを達成したいですね。