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ツルハHDとNECが共創したデータ分析コンテスト
デジタル人材の技術力と発想力の現在地

 AIやデータを使いこなす力は、企業だけでなく、日本の競争力をも左右する。その力をどう育てていくかは、社会全体にとっての重要課題だ。NECは早くからこの課題に取り組み、データ分析コンテスト「NEC Analytics Challenge Cup」を継続的に開催してきた。社内外の人材が参加する実践的な学びの場として進化を続け、ツルハホールディングスと共催した9回目では、現場を意識したデータ活用アイデアが数多く生まれ、デジタル人材育成の確かな前進を感じさせた。

SPEAKER 話し手

株式会社ツルハホールディングス

小橋 義浩氏

執行役員
経営戦略本部 兼 情報システム本部長

山崎 大氏

経営戦略本部 経営企画部
DX企画グループ

NEC

孝忠 大輔

デジタルデリバリーサービスビジネスユニット
コンサルティングサービス事業部門
アナリティクスコンサルティング統括部長
BluStellar Academy for AI 学長

外部の視点を借りて思い込みを打破したい

──「NEC Analytics Challenge Cup 2025」と「NEC Analytics Challenge Cup for Business Idea 2025」の概要について教えてください。

孝忠(NEC):今年で9年目を迎えるデータ分析コンテストです。NECグループの社員だけでなく、お客様企業や学生など、社外の方も参加し、データ分析を通じて“ビジネス課題をどのように定義し、解決するか”を競います。

 コンテストには、合わせて3つの部門があります。NEC Analytics Challenge Cupには「予測精度コンテスト」と「データ活用コンテスト」があり、前者は決められたテーマの予測モデルの精度を、後者はデータ分析から導き出すビジネスアイデアを競います。一方、NEC Analytics Challenge Cup for Business Ideaは、より自由なアイデア企画コンテストです。一般的なアイデアソンは、数時間で結果を出す短期戦ですが、NEC Analytics Challenge Cup for Business Ideaは約1カ月をかけて考え抜き、アイデアを練り上げます。今回は、参加者がデータや業務を深く理解するために主催者に質問できる機会を複数回用意し、より企業のデータ活用プロジェクトに近い形で開催しました。

──コンテストには、リアルなデータを使っていますね。

孝忠:一昨年のサッポロビール様、昨年の中京テレビ放送様に続き、今年はツルハホールディングス(ツルハHD)様と共催し、ツルハHD様にデータを提供していただきました。架空のデータでもコンテストは成立しますが、リアルなデータを扱うと参加者の姿勢が大きく変わります。自分の提案がビジネスや社会に還元されるかもしれないという実感が、強いモチベーションにつながり、実際に店舗を訪れて数字の裏にある事実を確かめようとした参加者も多く見られました。こうした行動は、まさにビジネスにおけるデータ活用の本質。ツルハHD様には、参加者が実践的なデータ活用スキルを磨く上で非常に意義のあるご協力をいただきました。改めて感謝申し上げます。

NEC
デジタルデリバリーサービスビジネスユニット
コンサルティングサービス事業部門
アナリティクスコンサルティング統括部長
BluStellar Academy for AI 学長
孝忠 大輔

──ツルハHDは、なぜコンテストの共催とデータ提供を決めたのでしょうか。

小橋氏(ツルハHD):共催とデータ提供の打診をいただき、すぐに「これはおもしろい」と思いました。相談すると、社長も同意見で、すぐに賛同してくれました。最も期待したのが外部の視点です。長年、ドラッグストア事業を手掛けてきた私たちには、どうしても思い込みがある。「この商品はこう売れるはずだ」といった経験則が先に立ち、データの新しい読み方に気付けないことも多い。一方、外部の方なら、同じデータをまったく違う切り口から見てくれるかもしれない。そうした“気付き”を得られるなら、データ提供には、大きな意義があると考えました。

──ドラッグストア業界でも、データが経営のカギになっているのですね。

小橋氏:10年ほど前まで、データといえば、経営数値の分析や店舗KPIの管理が中心でした。しかし、ドラッグストア業界も今や成熟期。単に「良い立地に店を出し、チラシを打てば売れる」という時代は終わり、お客様一人ひとりの嗜好やライフスタイルに合った提案を行うパーソナライズドマーケティングへの転換が求められています。

 それに対応するために、当社も5年前にスマホアプリを立ち上げ、お客様とのデジタル接点を整備しました。現在、会員売上の約5割がアプリ経由で、ダウンロード数は1200万を突破。ID-POSとアプリデータを組み合わせることで、購買傾向や来店頻度などが把握できるようになっています。今後は、この環境をもとに、さらに一人ひとりに寄り添った提案を進めていきたいと考えています。

株式会社ツルハホールディングス
執行役員
経営戦略本部 兼 情報システム本部長
小橋 義浩氏

分析精度の高さと発想力の豊かさに驚き

──参加者は、どのようなデータを使い、どのようなテーマで競い合ったのでしょうか。

山崎氏(ツルハHD):ツルハHDからは、札幌市内のツルハドラッグ店舗のPOSデータ、店舗属性データ、商品カテゴリーマスター、チラシキャンペーン情報などを提供しました。それらのデータを使って、予測精度コンテストは、ある店舗の1カ月後の売上予測の精度、データ活用コンテストは、データ分析を起点とするビジネス変革プランの実現性と新規性、そしてアイデア企画コンテストは、生成AIにしぼり、ビジネスアイデアの斬新さを競ってもらいました。

株式会社ツルハホールディングス
経営戦略本部 経営企画部
DX企画グループ
山崎 大氏

──山崎さんは、審査にも参加したそうですね。感想をお聞かせください。

山崎氏:まず、予測精度コンテストは参加者の予測精度の高さに驚きました。また、データ活用コンテストやアイデア企画コンテストのアイデアの中には、非常に刺激的なものが多くありました。特に印象に残っているのは、データ分析の結果を店舗オペレーションにまで落とし込み、アルバイトスタッフも含めて現場全体で改善に取り組むという提案です。現在ツルハHDが強く意識している「データ分析を文化にする」という考え方に通じるもので、非常に共感しました。

小橋氏:私も報告を受けましたが、店内に生成AIを活用したロボットを配置し、子どもと遊びながらデータを蓄積するというアイデアや、調剤薬局での待ち時間を有効活用するアイデアなど、ドラッグストア業務をよく理解した実践的な提案が多かった印象です。それらの提案を通じて、私たちが保有するデータの可能性を改めて強く実感しました。

孝忠:今回のコンテストを通じて、参加者全体のスキルレベルが確実に上がっていると感じました。例えば、売上予測の分野は既に分析手法が確立されており、既存のアプローチに引きずられがちな領域です。ところが、蓋を開けてみると、多くの参加者がまったく新しいモデルの構築に挑戦し、目を見張るほど高い精度を実現していました。既存手法を踏まえた上で、自分なりの仮説と工夫を加えていた点が非常に印象的でした。

 学生の発想力も素晴らしかったです。特に生成AIを活用した提案には柔軟さと想像力がありました。車での移動時間という“すきま時間”に生成AIを活用し、情報共有や学習を支援するというアイデアは、社会人経験のない学生から生まれたとは思えないほど実践的で、驚かされました。

──アイデア企画コンテストを生成AIに限定したのは、どのような意図があったのでしょうか。

小橋氏:生成AIのインパクトは非常に大きく、もはや「使わない」という選択肢はありません。もちろん、ハルシネーションなどの課題もあるため、活用には慎重な意見もあります。

 しかし私は、間違ってもいいから、まずは使ってみることが大切だと考えています。実際に触れてみなければ、その可能性も課題も見えてきません。社内のメンバーにも、生成AIの可能性を体感してほしい──。そんな思いから、NECと相談し、アイデア企画コンテストのテーマを生成AIに絞りました。

10周年に向け、“誰もつないだことのないデータ”への挑戦

──ツルハHDは、今回の成果をどのように活かしていきますか。

小橋氏:既に社内で、入賞者の方と連携しながら提案を形にしようというプロジェクトを立ち上げています。また、ツルハHDがデータ分析コンテストを共催したという事実をきっかけに、社内にデータを起点に考える意識が広がっていくことを期待しています。これまで分析やAI活用は一部の担当部門だけの取り組みでしたが、現場スタッフや管理職など、より多くの社員がデータの価値を意識するようになれば、ビジネスや業務の変革はさらに加速していくと思います。

──来年のコンテストに向けて、展望をお聞かせください。

孝忠:2026年の開催で、NEC Analytics Challenge Cupは節目となる10周年を迎えます。これまで以上に「社会実装」を意識したテーマ設定に挑戦したいと考えています。例えば、物流、在庫、製造、マーケティングなど、複数の部門を横断したデータを組み合わせ、サプライチェーン全体を見渡した分析をテーマとして検討しています。

 サプライチェーンのデータは、関係する組織やシステムが多岐にわたるため、データの粒度や更新頻度、目的が異なり、単純には結びつきません。しかし、それらを横断的に結びつけられれば、どのデータが最終的に売上や顧客体験に影響しているのかを可視化するなど、大きな発見につながる可能性があります。誰もつないだことのないデータをつなぐ──。10年目にふさわしいテーマだと考えています。

小橋氏:ツルハHDも、社内のDX人材育成を進め、来年はツルハHDチームを送り込みたいですね。

山崎氏:現在、北海道大学の「デジタルリスキリングプログラム」などを活用したりしながら人材育成を進めていますが、そのスピードを上げて、来年はぜひコンテストに挑みます。

孝忠:多様な方が参加する「越境」の効果は非常に大きく、NECグループの社員、お客様企業、学生という異なる立場の人たちが競い合う環境は、大きな刺激となり、全員の成長を加速させます。ぜひ挑戦してください。もちろんNECメンバーも負けません。多様な立場の人が越境しながら切磋琢磨する輪を広げ、データとAIで社会をより良くする力を共に磨いていきたいですね。