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異業種のプロジェクトに飛び込み、実践力を磨く
東洋鋼鈑が取り組む人材育成とDX推進部への期待の変化

 社会的な人手不足が深刻化する中、製造業には生産性向上と技術・ノウハウの継承を両立させることが求められている。DXはその有効な手段の1つだが、推進にはDX人材不足という大きな壁が立ちはだかる。東洋鋼鈑もまた事業環境の変化や現場の課題に向き合いながら、現場力を軸にしたDXを進めてきた。その中核を担うDX推進部は人材育成という課題にどう向き合い、実践力を磨いているのか。

SPEAKER 話し手

東洋鋼鈑株式会社

松村 修美氏

DX推進部長
兼 DX推進グループリーダー

齋藤 敦志氏

DX推進部

磯村 駿氏

DX推進部
DX推進グループ
DX活用チーム

外山 潤哉氏

生産技術部
圧延技術グループ

NEC

川地 章夫

コンサルティングサービス事業部門
アナリティクスコンサルティング統括部
リードデータサイエンティスト

現場力を活かし、ボトムアップでDXを推進

──東洋鋼鈑の事業環境は、大きく変化しているそうですね。

松村氏:当社は鋼を圧延、表面処理加工した鋼板関連製品を主軸に、磁気ディスク用アルミ基板や光学用機能フィルムといった機能材料事業を展開しています。これらの事業を取り巻く環境は、近年、大きく変化しています。飲料缶用の鋼板は、ペットボトルの普及などにより需要が縮小傾向にありますが、一方で電池用の鋼板などは需要が拡大。しかも、より高い品質や信頼性が求められるようになっています。

──DXに積極的に取り組んでいますが、そのような変化が理由でしょうか。

松村氏:背景の1つであることは確かです。刻々と変化する事業環境に対応するには、判断の質やスピード、課題解決力を高めていかなければなりません。それにはデータやデジタル技術の活用が不可欠です。

 また、人手不足の課題もあります。製造や技術の現場にはベテランの経験や勘に支えられてきた業務が多くあります。そのような暗黙知を形式知に変え、組織として活かしながら次世代につないでいく上でもデータは重要です。もちろん製造や技術分野に限った話ではありません。品質保証や設備保全、さらにはオフィスを中心とする管理業務も含め、全社を挙げてDXに取り組んでいます。

──どのような体制でDXに取り組んでいますか。

松村氏:私たちDX推進部が各部門のDXを横断的に支援しています。現場の課題を抽出し、現場と共に解決策の検討や立案、実施に取り組みます。

 その体制や役割分担の実効性を高めるため、DX推進部には専任メンバーだけでなく、製造や生産技術など、他部門と兼務しているメンバーが多くいます。現場をよく知る人材がDXに関与することで、現場の課題に直結するDXを目指しています。

──現場力をDXの原動力にしているのですね。

松村氏:はい。東洋鋼鈑のDXは、どちらかというとボトムアップで進んでいます。

東洋鋼鈑株式会社
DX推進部長
兼 DX推進グループリーダー
松村 修美氏

実際のプロジェクトの中で課題解決力を磨く

──現場力を活かしてDXに取り組む中で、DX推進部のデジタル分野のスキルはどのように高めていますか。

松村氏:そこは大きな課題でした。現場をよく知っていることは大きな強みですが、各部門の課題に向き合う中では、DX推進部の力量不足を感じる場面が少なからずありました。データを活用したい、デジタル技術を使って課題を解決したいという思いはあっても、現場を力強くリードするだけのスキルや経験が十分ではなかったのです。

齋藤氏:データ分析の手法やツールについては、一定の知識を身に付けていました。ただ、肝心の課題解決力が備わっていませんでした。現場から相談を受けても、課題をどのようにデータ分析の課題に置き換えるのか、どのデータを使うべきかなどまで深く考えずに、とりあえず分析を行ったりしていました。さらに大きな問題だったのは、そのような状態にありながら、自分自身では“できているつもり”で、何ができていないのか、何が足りていないのかを認識できていなかったことです。

東洋鋼鈑株式会社
DX推進部
齋藤 敦志氏

外山氏:私も同感です。生産設備の異常検知を目的とした分析を進めていましたが、当時は関係がありそうなデータを手当たり次第に分析にかけていました。データを整理したり、絞り込んだりしながら精度を高め、分析結果を実際の業務に落とし込むという点では、まったくスキルが足りていませんでした。

東洋鋼鈑株式会社
生産技術部
圧延技術グループ
外山 潤哉氏

松村氏:このような状況を克服するために、当社はNECの「BluStellar Academy for AI 入学コース」を通じてメンバーのスキルの底上げを図ることを決めました。

──BluStellar Academy for AI 入学コースとは、どのようなプログラムなのでしょうか。

川地:BluStellar Academy for AI 入学コースは、一般的な研修やトレーニングとは異なります。参加者が1年間NECに出向し、第一線で活躍するメンターの指導のもと、NECのデータサイエンティストたちと肩を並べ、実際のデータ活用やDXのプロジェクトを題材として実務経験を積み、実践的な能力を培うプログラムです。参加するプロジェクトは、NECグループ内のものもあれば、お客様から許可をいただいた上で NECに依頼されたプロジェクトにAcademy生として参画する場合もあります(※)。

 こうしてBluStellar Academy for AI 入学コースは、座学では難しい、リアルな経験を積むことができます。

  • 異業種のプロジェクトを原則としており、所属企業と同業のプロジェクトには基本参画できません。ただし、同業あるいは近い業種でも競合に該当しないと判断した場合は、参画する場合もあります。
NEC
コンサルティングサービス事業部門
アナリティクスコンサルティング統括部
リードデータサイエンティスト
川地 章夫

──なぜNECのBluStellar Academy for AI 入学コースを選択したのでしょうか。

松村氏:NECが取り組む実際のデータ活用プロジェクトに参画しながら学べることを評価しました。私たちが直面していた課題は、知識や手法の不足ではなく、「どう進めるか」「どう現場をリードするか」といった実践力の不足だったからです。中でも、さまざまな業種、特に私たちのような製造業とは異なる業種のプロジェクトに参画できることは魅力でした。自社や製造業の視点だけでは、どうしても発想や考え方が固定化してしまいます。異業種の課題に向き合う中で、より広くDXに共通する考え方を学んでほしいと期待しました。

DX推進部の役割、現場からの期待が大きく変化

──実際にNECの一員としてプロジェクトに参画して、どのような学びがありましたか。

磯村氏:一番大きかったのは、分析以前のプロセスがどれほど重要かを実感できたことです。NECの一員としてプロジェクトに参画すると、最初から分析に入ることはほとんどありません。まずお客様の業務や課題を丁寧に理解し、その上で何を分析で解くべきなのか、どこまでを今回のスコープとするのかをすり合わせます。また、分析結果そのものよりも、その結果をどのように次のアクションにつなげるかを重視している点も印象的でした。もちろん、最初からうまくいったわけではありません。整理した課題設定を見直し、スコープを引き直したこともありました。ただ、そうした試行錯誤も大きな学びになったと感じています。

東洋鋼鈑株式会社
DX推進部
DX推進グループ
DX活用チーム
磯村 駿氏

外山氏:分析はあくまで手段であり、目的は課題解決にあるという考え方が明確になりました。分析に入る前に「なぜこのデータを見るのか」「今回、本当に必要な情報は何か」を徹底的に議論する。その経験を通じて、前提条件を整理し、必要なデータを見極めることの重要性を学びました。

齋藤氏:「そもそもこの課題は、データやデジタル技術で解決すべきものなのか」といった点も徹底的に考えました。そのプロセスを通じて、課題の本質や解決の道筋が見えていなかったことをはっきり自覚しました。この気付きは、大きな前進だったと感じています。

 現在はプログラムを延長し、2年目の学びに取り組んでいます。1年目は、個人として分析や課題解決力を磨こうと考えましたが、2年目はリーダーシップをテーマに据えています。自分自身のスキルアップだけでなく、この経験やノウハウを仲間や後輩に伝えること、そして、より大きな視座で課題解決をリードできるようになることを意識しています。

──NECから見た印象はいかがでしたか。

川地:東洋鋼鈑の皆様は、非常に積極的で、参加するプロジェクトを重ねるごとに、課題やスコープを関係者と丁寧にすり合わせようとする姿勢が明確になっていきました。異業種のプロジェクトでは、業務の前提や常識が大きく異なります。その環境では、これまでの経験や業界の慣習だけでは通用しません。なぜこの課題に取り組むのか、誰にとっての価値なのかといった本質的な問いに、自然と立ち返ることになります。そうした経験を通じて、皆様、特定の技術や業界知識に依存しない課題解決力を着実に磨いておられました。

──BluStellar Academy for AI 入学コースでの経験や学びは、現在のDX推進部の活動にどのように活きていますか。

磯村氏:NECでの経験を通じて、最も効果的な進め方や設計を考えた上で、プロジェクトに取り組めるようになりました。現在、私は以前から担当してきた生成AIの活用に改めて取り組んでいます。各部門にヒアリングを重ねる中で、業務ごとに専門性や前提条件が大きく異なり、全社で共通の仕組みを1つ用意するだけでは、実際の業務には十分にフィットしないと感じるようになりました。そこで、用途を整理し、必要なデータを絞り込み、目的ごとに複数のサービスを構築しています。以前であれば、目的を十分に整理しないまま、汎用的なサービスをつくろうとしていたかもしれません。

外山氏:私もNECでの経験を通じて、取り組み方が大きく変わりました。現在は、以前からテーマとしてきた生産設備の異常検知に改めて取り組んでいますが、まず、現場では何が起きると困るのか、どの状態を異常ととらえるべきかを丁寧に整理するところから始めています。その上で、目的に必要なデータを見極め、仮説を立て、分析を進めています。なにより意識しているのは、現場で使われる仕組みとして成立させることです。

──今後の展望をお聞かせください。

松村氏:データ分析やデジタル技術そのものではなく、課題解決に意識が向くようになった結果、各部門のDX推進部を見る目が変わってきています。分析やツールの相談ではなく、「この業務の進め方をどう考えればよいか」といった相談が寄せられるようになってきました。DX推進部への期待の質が確実に変わっています。

 今後は、個々のプロジェクトを成功させるだけでなく、先行してスキルを磨いたメンバーの経験や知見をDX推進部全体の知見に変えていくことが重要だと考えています。これからも人材育成と組織力の底上げに取り組み、当社ならではのDXを進めていきます。