

製造業のサービス化を目指す取り組みを伴走して支える
~“NECのデザイン思考”で生み出すコト売りビジネス~
日本の製造業で“モノ売り“から“コト売り“へとビジネスモデルの軸足を移す動きが活発になっている。単に価値の高い工業製品を開発・生産・提供するだけでは、消費者が抱える課題の解決や要求・欲求を満たせない時代に突入したからだ。これまでの工業製品というモノに固執せずに、各メーカーが保有している知見・技術・ノウハウ・組織・エコシステムを活用して課題解決や要求・欲求を満たすサービスを創出・提供することで、巨大な新ビジネスを生み出した実例も出てきている。
自身も製造業であるNECは、製造業の“サービス化(Servitization)”を支援するコンサルティングサービスを提供し、その支援例も豊富にある。2024年度は150以上ものプロジェクトに参画し、多様な業界の取り組みに伴走しており、そのなかで製造業のサービス化実現についても支援している。その効果的かつ確実なサービス化に向けた取り組みと、実践している独自の方法論とはなにか。製造業のサービス化に伴うさまざまな課題を明確化し、企業間で知見を持ち寄って解決を目指している産業技術総合研究所の「製造業のサービス化コンソーシアム」で、NECが共有した内容を中心に紐解いていく。
製造業のサービス化事例が示す2つのポイント
2016年に開催したダボス会議(世界経済フォーラム)で、「VUCA(※)」という言葉に注目が集まった。NECで企業のコンサルティングを担当する坪井 壘は、このVUCAと競争の激化が製造業のサービス化の背景にあると語る。
- ※ VUCA(ブーカ):「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を合わせた言葉で、社会環境の状況変化を明示する時代観を示している。
「この流れのなかで、サービス化を新規事業と捉えるよりも、既存事業をリバイタライズ(再活性化)していくためのサービス化が重要になると考えています。モノを売り買いするサプライヤーとバイヤーという関係から、お客さまと同じ方向を向くビジネスパートナーのような存在にどうシフトしていくか。ここにサービス化のポイントがあると、さまざまな企業をサポートさせていただいている観点から感じています」

戦略・デザインコンサルティング統括部Future Creation Designグループ ディレクター
坪井 壘
製造業のサービス化事例として、坪井は2つの企業を紹介する。1つは、眠りの質を高めたい顧客に向け、睡眠の質や睡眠環境の計測データを活用しパーソナルな寝具を提案することで、布団の製造・販売という価値提供から「良質の眠り」という価値提供へ変化させた寝具メーカーの事例。もう1つが、こちらもデータを活用し機械・食品プロセス・さらにはエンドユーザーにまで顧客理解を深めることで、包装材単体での価値提供から「食品加工プロセス」へ価値提供範囲を拡大させた食品・飲料の紙容器包装材メーカーの事例である。
「この2つの事例が、製造業のサービス化を効果的かつ着実に進めていくためのポイントを示しています」と、坪井は言う。「顧客理解を深めるためにはどうしたらいいのか?」と「企業変革をどう見据えるか?」の2つのポイントである。
提供者と顧客の関係から「価値を共創するパートナー」へ
まず「顧客理解を深める方法」について見ていこう。価値のあるサービスを生み出す素材を持っていたとしても、全く白紙の状態からサービスを開発し、事業運営体制を構築していくハードルは高い。そもそも、潜在顧客がいかなるサービスに価値を感じて料金を払ってくれるのか見当もつかないことだろう。価値あるサービスを生み出すためには、顧客ニーズを深く理解することが重要であり、それがサービス開発の起点になる。
「ニーズは顧客に直接聞けばよいと思う人が多いかもしれません。ところが、実際にヒアリングを実施すると、顧客は何らかのバイアスがかかり、回答が歪んでしまうのが常です」。こう坪井が語るように、回答者は得てして、本人が意図せず質問者の立場や自身の置かれた状況など、背景を考慮した返答をしがちである。質問する側も、自社製品を売りたいことが透けて見えるコミュニケーションをしてしまう傾向がある。これでは、限定的で実態を反映しない情報しか得られない。

では、初めてサービス化に取り組むメーカーは、いかなる方法で顧客理解を深めたらよいのだろうか。
実績のある既存事業をベースに据えれば、少なくともサービス化の第一歩である顧客理解の下地はあるだろう。そして、顧客が思い描くアウトカム(成果)をコミットし、顧客満足度を高める視点からサービス化に取り組めば、既存顧客に向けた価値提供のベクトルを変えることなく、顧客から価値を共創するパートナーへと、関係性を切り替えていくことが可能になる。
ただし「従来レベルの顧客理解では不足している点も多く、単に相対している担当者の組織のみを把握しても片手落ちのケースが散見されます」と、坪井は言う。
「顧客企業のなかで、どの部署・グループ会社がイニシアティブを取って事業を進めているのか、組織力学を見極めながら理解しなければいけません。また、直接サービスを提供する相手だけでなく、顧客企業のサプライチェーン全体やバリューチェーン、さらにはその企業の商品を利用する社会全体を視野に入れて、いかなる価値提供が可能であるのか、思いを巡らせて洞察することが肝要です。そうしないと、サービスが絵に描いた餅で終わってしまいます。自社のサービスの価値と顧客企業の組織力学を掛け合わせながら顧客理解を深めていく。そのためには、さまざまな粒度、視野で探す視点が必要で、後述するデザイン思考が欠かせません」
NEC自身の製造業サービス化で培った方法論を伝授
もう1つのポイントである「企業変革」について見ていこう。たとえ、顧客を深く理解できたとしても、思い描いたサービスを実際に提供できるかどうかは別の話である。この点は、NEC自身が過去にサービス化を推し進めてきた過程で痛感しているようだ。
「1990年代、NECは携帯電話やネットワーク機器の製造・販売を中心としたビジネスで、売上高が5兆円規模の企業でした。しかし、徐々に売上高が縮小。事業の優先順位付けを含む全社変革を断行した先に今のNECがあります。苦境から抜け出す過程で、サービスを含む価値あるビジネスに絞り込み、提供価値の増大を図ってきました。ただし、その過程は決して平坦なものではなく、試行錯誤のなかで多くの気付きと学びを得ながら変革を進めてきました。こうした経験を通じて得た知見やノウハウをもとに、NECは変革に取り組む製造業に対して、コンサルティングサービスを提供しているのです」

VoE(Voice of Employee)と徹底的に向き合い、6つのキードライバーを整理し、全方位で変革を推進・継続
「デザイン思考」を拠り所として、会社一丸の変革を実践
製造業のサービス化を推進するために不可欠な顧客理解を深めるために、さまざまな視点を持つ必要がある。この発想は、社外だけでなく部署の違いを超えた連携と会社全体で同じ目標を目指す意識合わせにも有効である。
モノ売りに邁進してきたメーカーにとっては、これは未知の取り組みだろう。特定の個人が属人的な方法・スキルを頼りに取り組むのでは成功はままならない。しかも既存の組織と各部署の価値観・行動様式は、モノ売りを前提として業務に最適化しているのが常だ。必ずしも、目指すコト売りのサービスビジネスに最適なかたちにはなっていない。加えて、価値あるビジネスを創出するには、多様な専門性・立場からの知見やスキルを融合させる必要もある。
「企業全体が問題意識・価値観を共有しながら円滑かつ効果的に変革に取り組むには、サービス開発と実施体制の部署を超えた拠り所となる共通言語が必要です。NECでは変革のフレームワークとして『デザイン思考』を導入し、独自の形に改良して活用することで成果を上げてきました」と、デザイン思考をはじめとする研修の企画・開発、講師を担当するNECの井出 有紀子は言う。

戦略・デザインコンサルティング統括部Future Creation Designグループ マネージャー
井出 有紀子
デザイン思考とは、ユーザーも気づかない本質的なニーズを見つけ、変革させるイノベーション思考である。人々への“共感”を深め、多角的視点から本質的な問題を発見。“問題定義”して解決すべき問題を具体化して共有したうえで、自由闊達な場で解決策となるサービスなどのアイデアを“発想”。問題の解決策となる具体的なサービスの“プロトタイプ”を作成し、それを受け入れられるかを検証する。これらの活動を行ったり来たりして繰り返しながら、素早く価値あるサービスを生み出していく。
井出は「NECでは、豊富なビジネスデザインの実績を保有するBusiness Models社と連携して、一般的なデザイン思考の方法論を、製造業を中心としたビジネス向けに適用し、『NECのデザイン思考フレームワーク』と呼ぶ独自様式を開発しています」と言う。
『NECのデザイン思考フレームワーク』は、坪井が話した製造業のサービス化を効果的かつ着実に進めていくための2つのポイントにどう有効なのか。まず、「顧客理解を深める方法」に対しては、多角的な視野の獲得があげられる。自社の経営と現場、顧客企業と関連するステークホルダー、さらにはその先にある社会まで、それぞれの視点で複合的に検討しなければ真の顧客理解を得ることはできない。
当然、考えるだけでは先に進めない。2つめのポイント「企業変革」を実現し、サービス化に移行していくには、従来とは異なるマインドでの進め方や、同じ理想イメージをメンバー間で共有する必要がある。
「サービス化したあるべき姿を構想し、ユーザーの体験であるカスタマージャーニーマップやサービスシーンなどで具体的に共有するのが良いでしょう。そして、社内でサービス化の仮説を立てて考え、生まれたアイデアを具体化してステークホルダーに示します。得られた意見をまた具体化し、インタビューする。これを行き来することで、サービス化に向けたアイデア実現のスピードと確実性を高めることができるのです」
井出がこう語るフレームワークは、NECが保有する事業開発プロセスやDXビジネスの特徴を活かしながら、人々が潜在的に持っているニーズを洞察するアプローチを重視し、業界の違いを超えて共有可能なナレッジを盛り込んでいる。
モノ売りからコト売りへ、製造業が競争力を高めるうえで求められるビジネス転換。その実現にデザイン思考は有効な手立ての1つである。変革に取り組むクライアント企業の挑戦を、NECは独自のフレームワークを用いて応援・支援していく。

世界で実績のあるメソッドが導入されており、含まれるプロセスやツールなどを活用することで、サービスビジネスを具体的かつスピーディーに進めることが可能になる
参考:NECのデザイン思考(フューチャークリエイションデザイン)