

人類の共通の課題、環境汚染にどう向き合うべきか
~「世界経済フォーラム年次総会」から読み解く企業が打つべき次の一手~
2025年1月に、世界経済フォーラム年次総会(通称:ダボス会議)が開催された。今回の重要テーマの1つとなったのが「Safeguarding the Planet(地球環境保全)」だ。NECはこの舞台にテクノロジー分野のリーダー企業として招聘された。開催されたセッションにおいて、CEOの森田は「環境汚染の実態が見えにくい大きな要因は、サプライチェーンの複雑化にある」と指摘した。環境への配慮はすべての企業の責務だが、サプライチェーンにおける環境リスクを正確に把握することは容易ではない。そこでNECはGXコンシェルジュと共に実態の可視化や国際ルールに対応する体制づくりを支援。自社での取り組み経験をもとに、環境リスク対応を推進する企業と伴走している。ここでは世界経済フォーラムの年次総会における議論を概括するとともにNECが取り組む新しい挑戦について紹介したい。
テクノロジーによる環境汚染の実態の可視化が急務に
経済や環境に関するグローバルな課題を巡って政治、経済、学術領域のリーダーが議論を交わす世界経済フォーラムのプラットフォーム。これまで、温室効果ガスが招く気候変動の問題もたびたび取り上げてきた。
しかしその一方、健康被害を及ぼす大気や水質の汚染、海洋環境に悪影響を与えるプラスチックごみなど、深刻な環境リスクについて包括的に議論される機会はあまりなかった。そこで2025年の年次総会では、サブテーマの1つ「Safeguarding the Planet(地球環境保全)」のもと、「Pollution(汚染、公害)」が取り上げられ、「Tech's Answer to Pollution(テクノロジーが導く汚染対策)」と題するセッションが開催された。
登壇したNECの社長 兼 CEOの森田 隆之は、環境汚染の問題が気候変動ほどクローズアップされない理由として、グローバル経済のもとで汚染の実態が見えづらくなっていることを挙げた。

取締役 代表執行役社長 兼 CEO
森田 隆之
「一昔前は、物がローカルに生産されローカルに消費されていたため、環境汚染は見えやすいものでした。しかし今日のように複雑化したサプライチェーンのもとでは、汚染がどこで発生しているのかよくわかりません。これが解決を難しくしている本質的な課題だと思います」。
それでは、汚染の実情を可視化して多くの人に問題意識を喚起するにはどうすればよいのか。森田はその手段となるのが「テクノロジー」だと述べた上で、「マクロ」と「ミクロ」の両面で実態を明らかにすることが大切だと説く。
「例えば、環境をマクロに把握する手段の1つに、人工衛星を活用した地球観測技術があります。広範囲のモニタリングにより、地球の状況変化を素早くとらえられます」。
一方、ミクロのレベルで把握する手段と一例が、トレーサビリティを担保する仕組みである。こちらは競争に必要な情報は秘匿しつつ、企業を超えて汚染物質やリサイクル情報を共有できるプラットフォームだ。
「Technology is Available(技術はすでにあります)。これらを活用すれば、上流から下流に至るサプライチェーンのどこで何が起きているかを明らかにできます。問題の原因と結果が見えるようになることで多くの人の関心を喚起し、課題解決に向かう機運が生まれます」(森田)。

「リテラシー」の高まりが「ルール」の整備を促す
人々の関心が環境に向けば、それが「リテラシー」の醸成と「ルール」の策定を促し、やがて産業界全体が環境保全に力を注ぐようになっていく。高度経済成長期に公害問題に直面した日本は、世界に先駆けてそのプロセスを経験している。
「日本は今でこそきれいな空気や水を誇りますが、かつては工場の煤煙でぜんそくになる子どもや、工場排水による汚染が原因で亡くなられる方がいました。そうした健康被害の原因が調査されたことで人々が問題の重要性に気付き、企業が環境汚染の防止策を講じることが法律で義務付けられたのです」。
その結果、排ガスや排水などを適切に処理する技術も開発された。「現在の環境汚染はローカルではなく、サプライチェーンを通じてグローバルに起きています。かつて日本で見られた環境汚染に対する動きが国境を越えて起こり、広く環境リテラシーが育まれることが大切だと思うのです」(森田)。汚染を測る「テクノロジー」が人々の環境に対する「リテラシー」を向上させ、「ルール」が整備された結果として、全世界が一体となって環境の維持・向上に努める潮流をつくることの必要性を改めて強調した。
NECで培ったノウハウを活かしてサステナビリティ経営を支援
「サプライチェーンの複雑化が環境汚染の実態を不透明にしている」という森田の発言は、NEC自身にも当てはまる大きな課題だ。自社やサプライチェーンのサステナビリティ環境を管理するNECの岡野 豊は次のように話す。
「例えばNECの製品に多く使われる半導体一つとっても、商社から調達する場合はサプライチェーン上流の環境影響を把握するのが困難です。そのため私たちは調達パートナーやビックデータを持つ国の研究機関や大学と連携し、サプライチェーンの環境影響を可視化する方法を模索してきました」。

サプライチェーンサステナビリティ経営統括部
事業化推進グループ ディレクター
兼 カーボンニュートラルビジネス推進PMOグループ シニアプロフェッショナル
岡野 豊
脱炭素に限らず、NECはさまざまな環境リスクを点検・評価して事業に与える影響を低減させる試みを行っている。近年はその活動を通じて培った知見をSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の支援コンサルティングに活かし、環境対策を行う企業の目標達成に向けた戦略やロードマップ策定、そのために必要なシステムの導入・構築までサポートするようになった。
コンサルティングサービスの提供にあたっては、強力なパートナーの存在もある。NECグループのアビームコンサルティングが、住友商事と共に環境ビジネスを行うために設立したGXコンシェルジュ(以下、GXC)だ。
「社名にGX(グリーン・トランスフォーメーション)を冠していますが、私たちは脱炭素に限らず、環境対策全般にわたってお客様をサポートすることが可能です」とGXCの寺崎 暁は語る。

マーケティング&コンサルティング部 部長
寺崎 暁
岡野もコンサルタントの一員として寺崎をはじめとするGXCのメンバーと協働し、ワンチームで顧客に対応。NEC、アビームコンサルティング、住友商事には、それぞれにコンサルティングの深いノウハウや、環境対策の豊富なソリューションがある。それら総力を結集することで、顧客企業をサステナビリティ経営に導く多様な支援をワンストップでデリバリーできるのが強みだ。

最近は温室効果ガスの排出削減に加え、サーキュラーエコノミー(循環社会)やネイチャーポジティブ(自然再興)を意識してサプライチェーン全体の環境リスク軽減に乗り出す企業が急増している。「環境汚染問題の深刻化を受け、サプライチェーンの隅々にまで目を配る必要性を感じる経営層が増えています。社会や投資家もまた大手企業にその責任をきちんと果たしてほしいと強く期待するようになっています」とこれについて寺崎は説明する。
実際、気候変動や環境汚染はビジネスに大きく影響するようになった。例えば、世界的なコーヒー豆やカカオ豆の不作、国内における米価格の高騰はその一例だ。「サプライチェーンのサステナビリティ管理をしっかり行うことが、事業リスクの回避のみならず事業機会の強化につながることを多くの経営者が意識するようになりました。原材料の調達リスクや価格高騰は経営を揺るがす差し迫った問題となっており、『いいことだからやりましょう』というこれまでの環境対応とは明らかに雰囲気が異なっていることを肌で感じます」と岡野は話す。
環境情報開示の流れにどう対応すべきか
企業の意識の高まりは、国際的なルールが整備され始めたことも背景にある。2016年発効のパリ協定など気候変動関連の枠組みに続くかたちで、2021年にはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が設立され、企業活動が自然環境にどのような影響を与えているか自己評価し、対応戦略を策定してその進捗状況を示すための枠組みが設けられた。
「今後は日本でも上場企業からTNFDレポートの公開を義務付けられるようになる可能性が高く、その準備に着手する動きが加速しています。しかしサプライチェーンはグローバルに広がっているうえ、環境問題の種類は水から鉱物、生物資源まで多種多様です。しかもどの会社の事業も単一ではなく、『どこから着手すればよいか見当もつかない』というご相談を多くの企業からいただいています」(岡野)。
環境対応にはコストと手間がかかるため、予算や社内リソースをどう配分するかという問題に悩む企業も多い。「その企業にどんな環境対応をしてほしいかという思いは業界、消費者、投資家ごとに異なるため、状況を整理して優先順位をつけるところから支援しています」と寺崎は語る。

ゴールはサプライチェーン全体の環境リスクを削減しつつ、事業成長をもたらすことだが、初めから壮大なプランを描くと頓挫しやすい。そのため両社では、半年から1年程度の短期的目標を定め、実行可能な取り組みを積み上げていくことを重視している。例えば「国内拠点で既に実践していることを海外拠点にも広げる」「特定の製品の原料の環境リスクを余さずトレースする」といった具合だ。
なぜこうしたきめ細かいコンサルティングを展開できるのか。それは、NECが2023年7月に国内IT業界で初めてTNFDレポートを発行した実績を持つからだ。
「NECには自社を最初のクライアントとして最新の技術や方法を試す『クライアントゼロ』の考え方があります。TNFDに関してもまず自ら実践し、その経験をリファレンスとしてお客様や社会に還元しようとする姿勢は共通しています」(岡野)。
試行段階では壁に突き当たることも多いだけに、困難に直面した顧客の気持ちを深く理解できる。業務現場に密着して伴走することを信条とし、調達部署などの社内関係部署や役員への説明を支援したり、海外工場へのリスク確認ヒアリングを一緒に行ったりと、いい意味で“泥臭い”協力を厭わないのもNECとGXコンシェルジュのコンサルティングの特長だと岡野は話す。
最適なツールを活用しつつ「検討」から「実行」まで伴走する
このスキームのコンサルティングサービスには、「検討」だけでなく「実行」に必要な、環境リスクの可視化するツールを臨機応変に活用できるというメリットもある。
工場やオフィスなど、国内外複数ある拠点の環境パフォーマンスデータを効率的に一元管理するソリューションの「GreenGlobeX」はその一例だ。また、設計、調達、生産での環境リスク管理にも活用できるPLM(製品ライフサイクル管理)ソフトの「Obbligato(オブリガート)」もある。
「TNFDへの対応は戦略策定フェーズからいよいよ実践フェーズに移ろうとしているので、NECの有用なアセットも活用しながら、環境リスク分析の効率化・高度化をサポートしていきます」(寺崎)。
環境保全に対する取り組みが消費者や投資家から適正に評価されれば、企業は事業の持続性が担保さることになる。そうなれば環境汚染の問題もおのずと解決に向かうはずだ。そのための本格的な土台づくりが、今ようやく始まったところだ。

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