ここから本文です。

2020年10月13日

米小売業界はコロナ禍でどう対応し、今後はどう変化していくのか

 もっと手早く簡便に買い物がしたい、商品を探す・選ぶ楽しさを満喫したい――。多様化する消費者ニーズに対し、米国の小売業界ではデジタルトランスフォーメーション(DX)による顧客体験の向上が大きなトレンドになっている。躍進を続ける小売企業は、どのような取り組みで成果を上げているのか。コロナ禍の中でどう対応し、ニューノーマル時代にどのように備えているのか。米国の小売業界に詳しいデジタルメディアストラテジーズ社の織田 浩一氏が、最新のトレンドと事例を基に“小売DX”の近未来を考察する。

コロナ禍で消費行動のデジタル化が一気に加速

 新型コロナウイルスの感染拡大は、米国の消費行動に大きな変化をもたらした。米600万人のクレジットカード・デビットカードの利用を分析したEarnest Researchの調査によれば、医療・美容、エンターテインメント、レストラン、交通、ショッピング、旅行など食材以外の産業は軒並み利用が低下した。

デジタルメディアストラテジーズ社
代表
織田 浩一氏

 一方で急激な伸びを見せたのがEコマース市場である。米小売市場全体に占めるEコマース市場の割合は、2009年から2019年までの10年間で5.6%から16%に成長したが、2020年2月から4月の2カ月足らずでその割合は一気に27%に急拡大した。10年分の変化が、わずか2カ月で進んだわけだ。

 内訳を見ると、一般商品・食品関連のオンライン注文、ビデオストリーミングなどの利用が目立つ。メーカーが自社で企画・製造した商品を自社のチャネルで販売するD2C(Direct to Consumer)ブランドの躍進も目を引く。音声アシスタントの利用が増えるなど、商品の買い方にも変化が見られる。

 「単にEコマースの利用が増えただけでなく、行動や習慣にも変化の波が押し寄せています。消費行動のデジタル化が一気に加速したといえるでしょう」とデジタルメディアストラテジーズ社の織田 浩一氏は話す。

 コロナ禍以前から米小売業界はDXを推進し、最新テクノロジーを活用した店舗設計や新しい販売スタイルの確立に取り組んできた。ここからは米国の“小売DX”の事例を基に、コロナ禍前後の変化とその先を俯瞰していきたい。

省人・無人店舗やBOPUSサービスはコロナ禍でも人気

 DX時代のショッピングモードは大きく2つある。1つは「スピード・効率重視型」。毎日の弁当や食材、生活品など欲しい商品も買うブランドもほぼ決まっていて、手早くストレスなくショッピングすることを求めている。

 もう1つは「探索・ソーシャル性重視型」だ。アパレル、化粧品、ガジェットなど嗜好性の高い商品がその対象だ。試着や試供品を試したり、友達や家族と相談しながらショッピングを楽しんだりしたいと思っている。

 「スピード・効率重視型」の注目トレンドの1つが、店舗の省人化・無人化である。その象徴ともいえる存在が「Amazon Go」だ。日本のコンビニエンスストアぐらいの小型店舗で、カメラやセンサー情報から誰が何を買ったかを瞬時に識別し、レジに並ぶことなくチェックアウトフリーで買い物ができる。2016年12月に一号店がAmazon本社内にオープンし、現在は全米に約30店舗ある。

 2020年2月にはシアトルに「Amazon Go Grocery」もオープンした。Amazon Goよりも店舗が広く、生鮮品や生活用品が充実している。手軽なスーパーマーケットという存在だ。こちらも仕組みとしてはAmazon Goと同じで、チェックアウトフリーで買い物ができる。

Amazon Go Groceryの店頭
Amazon Go Groceryの店頭
商品を選んで出口のゲートを通るだけで、オンライン決済される仕組み。買うものが決まっていれば、店に入って買い物を済ませ、店を出るまでに3分とかからない。まもなくワシントンDCに3店舗目がオープンするという

 STOCKWELL社が展開する無人店舗システムもマンション、学校・大学、オフィス、ビジネスホテル、ショッピングモールなどに広く導入されている。「菓子や飲み物などの自動販売機の一種ですが、スマートフォンの専用アプリで開錠し、必要な商品を取ると課金される仕組みです」と織田氏は説明する。

 既存のリアル店舗ではBOPUS(Buy Online Pick Up in STORE)というショッピング形態が広がりを見せている。「オンラインでオーダーし、お店の駐車場に車を止めると、店員が商品を運んできて、トランクに入れてくれる。スーパーマーケット、DIYショップ、家具チェーンなどでは当たり前のサービスになっています」と織田氏は話す。

 人が集まる場所に設置する無人店舗システムはロックダウンの影響もあり、苦戦を強いられているが、BOPUSはコンタクトレスで買い物ができることから利用が拡大。駐車場スペースを3倍に広げた店舗もあるという。

 リアル店舗では、AIを活用した需要予測に取り組むところも増えている。天気や時間帯、エリアの競合店の価格状況などを総合的に判断し、売価や在庫の最適化を図る。店舗の値札も電子値札が一般的になりつつある。時間帯や競合店との価格などをAIで分析し、最適な売価をリアルタイムに変動させるわけだ。

 こうした小売の変化に合わせ、物流サービスも変化している。「急ぎでない商品は数日後にまとめて配送してもらうことで、割引などのインセンティブを受けられるサービスも出始めています」(織田氏)。

リアルもネットも「体験」で勝負するSHOWFIELDS

 一方、「探索・ソーシャル性重視型」で注目したいのが、新興のD2Cブランド商品を展示・販売する「SHOWFIELDS」だ。「フロアごとに趣を変えたり、アートギャラリーや音楽イベントを開催したりするなど、従来の小売のイメージを覆したツアー型の販売手法が特徴です」と話す織田氏。展示するブランドは3カ月ごとに入れ替え、訪れる人を飽きさせない。定期的に行うイベントの参加チケットが即完売するなど大変な人気を集めているという。

SHOWFIELDSの店内デザイン
SHOWFIELDSの店内デザイン
アート感溢れる空間の中で新しい「体験」を提案する。顧客はこれまで知らなかった新ブランドと接し、体験しながら商品の魅力に触れられる。ブランド側も顧客と接点を持てるため、テストマーケティングの場としても期待が高い

 旗艦店の1つであるニューヨーク店はコロナ禍の影響を避けられず閉店したが、閉店翌週にはEコマースサイトを立ち上げ、厳選した約100ブランドの商品販売を開始した。Eコマースでも体験重視のコンセプトは堅持している。「20人の新進アーティストとのコラボレーションによるキュレーションオンラインショップを3月末に立ち上げました。毎日新しく10製品を取り上げ、ライブコマース(ライブ動画を配信し、視聴者が質問やコメントしながら商品を購入できる形態)も実施しています」と織田氏は話す。

 ニューヨーク州での営業規制緩和に伴い、7月からはリアル店舗の営業も再開。自社開発したスマートフォンアプリ「Magic Wand(魔法のつえ)」による店員との接触レス、コンタクトレスチェックアウトを実現した。

 店内のディスプレイにスマートフォンをかざすだけで、店内を歩き回らずに各ブランドの詳しい情報が得られる。欲しい物はカートに入れれば、スマートフォン上で決済が可能だ。「安心してリアル店舗での驚きや発見を楽しんでもらうにはどうすべきか。コロナ渦の後の世界を見据えた新たな取り組みとして注目されています」と織田氏は語る。

今後の注目トレンドは「Ambient Intelligence」

 スピード・効率重視型と探索・ソーシャル性重視型に加え、新たなトレンドとして注目されているショッピングモードもある。「Ambient Intelligence」だ。これはAmbient(環境)にAIなどのインテリジェンスを加え、人に対応させていくというもの。家庭内、オフィス、自動車の車内など生活環境の中でAIのインテリジェンスを自然に使えるようにする仕組みだ。

 「例えば、運転中の車内でコーヒーショップに音声で注文し、そのままドライブスルーでピックアップする。あらゆる場所で、ストレスフリーでコンタクトレスなショッピングが可能になっていくでしょう」と織田氏は見る。

 すべてのショッピングモードに共通するのは「顧客体験」の向上である。それはリアルでもEコマースでも変わることはない。出口の見えない厳しい状況はまだ続いているが、見方を変えれば、これはチャンスでもある。ニューノーマル時代は新しい常識、新しい様式による顧客体験が求められるからだ。

 その実現に向けて、まずチャレンジすることが大切だという。「新しいテクノロジーや施策で試行錯誤を繰り返し、その中から学びを得ていく。そして学んだことが次のテクノロジー施策を考える上で重要な経験になります。そのためにプロジェクト全体の予算のうち、常に5%程度はテスト予算に割り当てることを推奨しています」と織田氏は述べる。

 小売DX先進国の米国の潮流は、やがて日本にも押し寄せてくる。市場をリードするためには、変化に機敏に対応し、いち早くチャレンジすることが肝要だといえるだろう。

関連キーワードで検索

さらに読む

この記事の評価


コメント


  • コメントへの返信は差し上げておりません。また、いただいたコメントはプロモーション等で活用させていただく場合がありますので、ご了承ください。
本文ここまで。
ページトップ