Web3実現へ、NFT、DAOを巡るアメリカの現状 ~NFTバブルの後も続くブロックチェーン応用ビジネス~
Text:織田浩一
仮想通貨に始まり、誕生からさまざまな話題を振りまいてきたブロックチェーン。その仕組みを生かし、web3(web3.0)と呼ばれるインターネットの新たな時代がつくられようとしている。目まぐるしく動くこの世界で何が起こっているのか。今注目されているNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)という2つの重要キーワードの動向を見てみたい。
織田 浩一 氏
米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。
NFTバブルは崩壊か
2021年後半から盛り上がったNFTブームも、少なくとも最初のバブル崩壊とも言える様相を迎えている。複製が本来容易なデジタルコンテンツに所有権を設定し、その希少性によって資産価値を高めようとするのがNFTの仕組みである。2021年3月には、クリスティーズよるオークションでNFTアート「Everydays: The First 5000 Days」が6930万ドル(約100億円)で販売され、2022年2月には「CryptoPunk #5822」が2370万ドル(約34億円)で売却されるなど、億円単位のNFTプロジェクトが多数出現し、2022年第一四半期までに異常な盛り上がりを見せた。
風向きが変わりはじめたのは、2022年の3月ぐらいからと思われる。新しいNFTのプロジェクトに高値がつかなかったり、購買したNFTの価格が下がったりしていることなどが報道され、話題になった。実際、「CryptoPunk #4156」を買った人が、売却時に700万ドルの損益を出したという記事もある。また仮想通貨の暴落が、NFT業界にも大きな影響を与えているとも見られている。
下図のように主なNFTマーケットプレースでの取引金額のトレンドを見てみると、2022年1月をピークに取引額が急激に下がっており、6月以降はピーク時の数分の1という状況が続いている。
NFT市場はいったんバブルが落ち着き、投機目的の人々が減少して乱高下が収まり、いずれ安定していくと予測するアナリストもいる。しかし、米国株式市場や仮想通貨市場の回復があるまでは、しばらく回復しないのではないかというのが多くの人たちの意見である。
NFTの陰で注目されるDAO
それに対して、NFTほど過熱した話題にならなかったが、同様にブロックチェーン、仮想通貨分野で注目されているのがDAOと呼ばれる新たな組織形態である。
DAOはスマートコントラクトという、コンピュータープログラムにより実行が可能な契約・ルールを設定することで、中央的な管理を必要とせず、参加するステークホルダーが投票によってルールを決定し、それに従って自律的に運営される。政府であれば運営・管理をする政治家や官僚が必要であるし、企業であれば経営幹部や総務、経理部門などが必要になる。それらをブロックチェーンとスマートコントラクトを利用して自動化することで、フラットな組織を構築できる。スピード感のある資金調達や運営が低コストで可能であり、取り決めたルールやプロセスがブロックチェーンに記録されることで、透明性が保証されるメリットがある。このため、企業やNGO団体などの新形態として注目されている。
すでに数々のDAOが生まれている。2021年6月に600だったDAOの数が、今年6月には7,000となり、800%上昇しているというレポートをSnapshotLabsが伝えている。過度な期待感がしぼむNFTとは対照的に、急速に伸びているのである。
さまざまな分野に活用広がるDAO
もちろん、過去の数字だけでは成長性や利便性は語れない。そこでどのような分野でDAOが活用されているのかを解説しよう。
下図は、DAOに関する代表的メディアDAO Centralのブログで紹介されているもので、数々のDAOを分類するために作られたエコシステムチャートである。複数のサブカテゴリーに分類され、それぞれ代表的なDAOが紹介されている(代表的なDAOがサブカテゴリーに複数含まれているので、各サブカテゴリーのタイトルは複数形のDAOsで表現されている)。それぞれのサブカテゴリーは以下のようなDAOsである。
- 通常の投資クラブに似たような機能を持つInvestment DAOs
- コミュニティ管理によるトークン発行プロジェクトの管理や分散金融(DeFi)サービスなどをスマートコントラクトで管理するProtocol DAOs
- 製品開発や目標に向かってプロジェクトを構築するためのProduct DAOs
- 寄付や助成金の使い方を管理するGrants DAOs
- プロジェクトに必要な人材を集めるService DAOs
- コミュニティやグループを管理するためのサービスを提供するSocial DAOs
- 特別な目的のために作られるSpecial Purpose DAOs
- 収集品のNFTを共同購買するためのCollector DAOs
- 教育システムを使ってコミュニティを主体とした教育を提供したり、インセンティブなどを含めるような教育の仕組みを提供したりするEducation DAOs
- コンテンツ制作の意思決定の権限を、メディアを取り巻くコミュニティに提供するMedia DAOs
メインストリームを予感させるDAOも登場
上記のエコシステムチャートで見られるように、ほとんどのDAOの利用ケースは、仮想通貨やNFTの投資ポートフォリオ管理や、仮想通貨などに関連するニュースなどを配信するメディアの管理を目的としたものである。この分野に高い関心を寄せる人たちの参加が多く、一般の人たちが参加するものとは必ずしも言えない。だが、一般の人たちや大手企業からの利用を集めてメインストリームになるようなDAOも出てきている。
Mad Realities――リアリティ番組のプラットフォーマー
Web2(web2.0)時代にはUGC(User Generated Content:ユーザー作成コンテンツ)と共にソーシャルメディアが大きく伸びた。次に来るWeb3時代へ向けて、台本がなくTVで人気のリアリティ番組を念頭に、新たなプラットフォームを構築しようとしているメディア企業がMad Relitiesである。2021年に米ニューヨーク州ブルックリンで生まれ、今は10人ほどで運営されている。
Mad Realitiesの特色は、出演者の選択からコスチュームのデザイン、番組のストーリーまでを、同社が発行するNFTを持つユーザーや視聴者の投票により決めていく点にある。
同社はまず2021年秋にクラウドファンディングでNFT販売を行い、約50万ドルを初期資金として集めた。それを使って製作会社を雇い入れ、2022年2月から「Proof of Love」という恋愛リアリティ番組シリーズをYouTube上で公開した。司会、参加者などはユーザー投票によって決め、5エピソードとアフターパーティの様子などを流している。番組出演者はカップルになって幾つかのチャレンジに勝ち残ると、数千ドルに相当する仮想通貨イーサリアムをもらうことができる。また、同社のチャットサービスであるDiscordコミュニティには1,400人が参加し、これらのエピソードについて語り合っているという。
この「Proof of Love」の成功で、同社は2022年4月に600万ドルの投資をパリス・ヒルトンのメディア会社などから受けている。同社は自らリアリティ番組を作るだけでなく、Web3時代のリアリティ番組の発案から番組開発、投資、番組配信、視聴者コミュニティ運営プラットフォームの構築までを行う存在を目指している。現在はプラットフォームの製品開発、エンジニアリング、トークン管理機能などへの対応に取り組んでいるという。
Braintrust――人材ネットワークの共同運営
Web3時代の分散型プラットフォームのかたちで、フリーランス人材のネットワークを構築している企業がBraintrustである。2018年に米カリフォルニア州サンノゼで立ち上がり、現在では250人ほどに成長した組織である。
同社のミッションは、メンバーであるテクノロジー人材のために最もインパクトのある人材ネットワークを構築すること。15ヶ国70万人のメンバーが同社を共同で運営することを目指す。同社が発行するBTRSTトークンを所有するメンバーが運営の具体的方針を投票により決定し、それらはブロックチェーンに記録される。同社は合計1億2350万ドルの投資をベンチャーキャピタルなどから受けているが、それもベンチャーキャピタルがBTRSTトークンを購買する形での投資となっている。
同社のメンバーは自分たちで時給などを設定する。普通の人材ネットワークとは違って、メンバーからはフィーなどを一切受け取らない。同社の収益は、大手企業からのテクノロジー開発などの業務依頼を参加メンバーが受け、その料金の10%を企業からのコミッションとして受け取るというものである。一般的な人材ネットワークが人材に対するフィーとして20~40%を得るのに対して、同社では全く取らない。また、企業運営もトークンを持っているメンバーの投票により決まるため、非常に質の高い人材が集まるという。2021年のメンバーの平均時給は100ドル近くであったという。
これらの人材はデザイナー、エンジニア、ITアーキテクト、製品・プロジェクトマネージャー、QA人材などで、ソフトウェア開発、機械学習機能構築、データ分析などの分野で活躍しているようだ。下図のサイトにも顧客企業のロゴが幾つか出ているが、Nike、ネスレ、デロイト、ポルシェ、Pacific Life保険など大企業が多い。
仮想通貨ビットコインから始まり、資金調達のICO(Initial Coin Offering)やSTO(Security Token Offering)、自律分散型アプリケーションのDAPP(Decentralized Application)、そしてNFT、DAOと、ブロックチェーンと仮想通貨の世界は、急速に変化してきた。その中で、企業や組織の運営に関わるDAOでは、一般の人たちに向けた機能の提供も始まっている。仮想通貨での収益や投資だけに依存していない点で仮想通貨市場の乱高下の影響も少なく、DAOは既存の競合企業に対して運営コストなどの点で競争力を発揮していくと考えられる。今後の企業やNGO団体などの組織のあり方も含めて注目したい分野である。革新的な応用ビジネスが次々に誕生するWeb3の世界は、これからも目が離せない。
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