オンラインでは磨けない「共創力」をどう構築するか
~リアルな場がプロジェクトの成否を決める~
デジタル化やAIの進化でリモートワークの普及が加速する中、リアルな議論や交流の機会は急速に失われつつある。そんな中、共通の目的や関心を持つ人々が一堂に会する、コミュニティ活動の価値が見直されつつある。人と人がフィジカルに集い、ともに思考することにはどんな意義があるのか。大阪・関西万博のEXPO共創プログラム・ディレクターとして活躍し、現在は「KK線再生プロジェクト」の共創プラットフォーム クリエイティブコンダクターや「東京国際文化芸術祭」の企画・制作を担当する齋藤 精一氏に話を聞いた。
齋藤 精一(さいとう せいいち)氏
パノラマティクス主宰/株式会社アブストラクトエンジン代表取締役/クリエイティブディレクター
1975年 神奈川県伊勢原市生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学ぶ。
2006年に株式会社ライゾマティクス(現:株式会社アブストラクトエンジン)を設立。
社内アーキテクチャ部門を率いた後、2020年に「CREATIVE ACTION」をテーマに、行政や企業、個人を繋ぎ、地域デザイン、観光、DXなど分野横断的に携わりながら課題解決に向けて企画から実装まで手がける「パノラマティクス」を結成。
2023年よりグッドデザイン賞審査委員長。2023年D&AD賞デジタルデザイン部門審査部門長。2025年大阪・関西万博EXPO共創プログラムディレクター。
共創の質を高めるには物理的コミュニケーションが不可欠
東京都心を貫いて走る東京高速道路、通称「KK線」。2025年4月に廃止され、歩行者中心の公共的空間として再生させるべく整備が進められている。2025年の「第76回NHK紅白歌合戦」では、ここが米津玄師のライブ会場となったことをご記憶の方も多いだろう。
「KK線こと東京高速道路は2025年4月5日に廃止され、4月18日に“リボーンセレモニー”が行われました。今後はさまざまなイベントで活用しながら、KK線の上部空間の活用法について実証を進めているところです。一方、今年の秋冬には都心で『東京国際文化芸術祭』の開催が予定されていますが、こちらはプロジェクトが始動したばかり。2026年10月~12月の本番に向けて、基本計画を練っているところです」とパノラマティクスの齋藤 精一氏は説明する。
大阪・関西万博ではEXPO共創プログラム・ディレクターを務めるなど、さまざまな国家的イベントや地域再生プロジェクトで共創の可能性を模索してきた齋藤氏。一貫して現地に足を運び、産官学のキーパーソンや地域の人々、クリエイターと共に議論を重ねてきた。
「会議はオンラインが多いのですが、特にプロジェクトの立ち上げの際は集まって話し合うようにしています。その理由は、実際に会って話してみないと、わからないことが多いから。僕自身も、画面越しだと『なんだか怖そう』『頼みにくそう』と思われがちですが、リアルな場で話をすると『印象が変わった』と言われることが少なくありません。僕は、場所にも人にも“余白”があると思います。打ち合わせの後に雑談すると、相手の人となりや本音がわかりますよね。でもWeb会議だと、終わった途端に接続を切るので、『そういえば、あれ、どうなりました?』と話せる余白がない。それでは、関係性は深まるどころか下降線をたどっていきます。リアルの場で、胸襟を開いて会話しないと、なかなか信頼関係が構築できません。共創の解像度を上げるためには、物理的なコミュニケーションが必要だと身にしみて感じます」(齋藤氏)。
齋藤 精一氏
胸襟を開いて語り合うことで熱量が生まれる
リアルに会うことの重要性は、信頼関係の構築だけにとどまらない。多様なステークホルダーがかかわる長期プロジェクトでは、利害や思惑が複雑に絡み合い、暗礁に乗り上げることも少なくない。
「プロジェクトがうまくいかないときは、縦割り組織の壁やメンバー間の確執など、目に見えない人的要因が隠れていることが多い。リアルに会うことで、進捗を妨げているポイントがどこにあるのかを、肌感覚で察知できる」と齋藤氏。それを詳らかにして対策を講じるためにも、定期的に対面でコミュニケーションを取れるかどうかが、長期プロジェクトの成否を分けるという。
物理的コミュニケーションには、もう1つ重要な役割がある。それは、メンバー一人ひとりの「熱量」を高め、チーム全体のモチベーションを引き上げることだ。「結局、いいものがつくれるかどうかは、個人の熱量がどれだけチームに注入されるか、つまり熱量の総和にかかっています。多様なメンバーが各自のコンピテンシー(能力・スキル・適性)をいかに持ち寄れるかが、プロジェクトの成否を左右するからです」。
胸襟を開いて本音で語り合えば、メンバー間にケミストリー(化学反応)が生まれ、相乗効果で熱量が高まっていく。それが長期プロジェクトを前に進める原動力になる、と齋藤氏は語る。
長期プロジェクト成功のカギは「哲学を合わせること」
もう1つ、長期プロジェクトを成功させる上で欠かせないのが、「哲学を合わせること」だという。「あるべき姿」に対するイメージの乖離が大きすぎると、共創は成立しない。「何が目的なのか、何を目指すべきなのか、僕は徹底的にすり合わせていきます。なぜなら、これをしておかないと、プロジェクトが往々にして空中分解し、志半ばで頓挫してしまうケースもあるからです。特に長期プロジェクトには“魔の2年”ともいえる局面があります」と齋藤氏は言う。
例えば、軌道に乗り始めたころにトップをはじめとしたキーパーソンが入れ替わり、進捗が止まってしまうケースなどがそれだ。「ある再開発プロジェクトでも、そんなことがありました。プロジェクトが座礁しかけましたが、とりあえず魔の2年をしのいだ。すると徐々に人が入れ替わり、再度哲学をすり合わせることで、プロジェクトが再び動き出しました。やはり哲学が合わないと、プロジェクト軸がぶれ始めてしまい、熱量もモチベーションも高まらず、良いものはできません」。
その意味で、長期プロジェクトでは「分断をデザインする」ことも重要だと齋藤氏は語る。「地域振興のイベントでは、『AさんとBさんが犬猿の仲で、プロジェクトが一向に進まない』という話をよく聞きます。もちろん、哲学を合わせるための努力はしますが、どうしても無理な場合は、役割を分けて進めた方がいい」。
日本語の「コミュニティ」には、皆が手を取り合って同じ方向を向くべきだというニュアンスがある。しかし、国外では宗教や政治的信条を異にする人々が「コミュニティ」を形成し、対立するケースも少なくない。
「世の中には『混ぜない方がいいもの』がある。それを無理に混ぜない方が、結果としてコミュニティが良くなる場合もある。相容れないものを、あえて分離・分断する。それは意識して実践しています」。
コミュニケーションがスピードを左右する
リアルなコミュニケーションができるかどうかは、ビジネスのスピードにも直結する。オンラインで感触を探りながら話すより、対面で話をした方が物事は速く進む。
「半年ほど前に中国を訪れ、BYDやテンセントを見てきました。彼らが目指しているのは“速い魚”です。大量に人材を採用し、その中で速く動ける人間しか残さないのが彼らのやり方です」。
一方で、日本の大企業を特徴付けるのが“遅さの美学”である。安全管理や品質管理、コンプライアンスに時間をかけ、製品のクオリティを担保する。それが日本企業の信用を支えている側面もある。
「日本企業は“じっくりと確実に”物事を進めがちですが、本当は早くも遅くもなれる状態でないといけない。スピードを切り替えるためにはコミュニケーションが不可欠で、そこが弱いと上層部の意思が現場に伝わらず、すべてが遅くなってしまう。これではグローバル競争に勝ち残ることはできません。その根底にはコミュニケーション不全があると思います」。
それでは、どうすれば、リアルなコミュニティを形成することができるのか。そのためのメソッドとして齋藤氏が挙げるのが、プロジェクトの目的達成に向けた活動と成果の因果関係を体系的に図式化した「ロジックモデル」だ。
「大阪・関西万博やKK線再生プロジェクトでも、哲学を合わせるためにロジックモデルを使っています。投入資源、活動、アウトプット、アウトカムの関係が明確に定義されるので、人が入れ替わっても方向性が大きく変わることはなく、“魔の2年”のような空白も生じない。舵を切っても、すぐには方向が変えられないような仕組みになっているのです」。
さらに、行政や企業、地域住民、クリエイターなど異なるバックボーンを持つ人たちが同じ北極星(ゴール)を目指し、立場を超えて協力できる状況をつくることも重要、と齋藤氏は言う。「『どこかに穴が空けば、皆で埋められる』のが良いプロジェクト。チームの壁を超えて橋渡しができるようになれば、プロジェクトは必ずうまくいくものです」。
だが、プロジェクトの中核を担い、コミュニティづくりの陣頭指揮をとったリーダー陣も、いつかはプロジェクトを去る日が来る。その後も、地域の人々が主体となってプロジェクトを自走させるためには、どうすればいいのだろうか。
「熱量を持続させること。それに尽きます」と齋藤氏は言う。プロジェクトが契機となって人々の熱量が高まり、地熱となって地域に定着する。その代表例ともいえるのが、奈良県吉野町のケースである。この山里では、行政側の判断により「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」が中止になった後も、吉野町や金峯山寺が中心となってイベントを継続しようとの動きがあるという。
地域の人々がプロジェクトを自分事化し、熱量をもって主体的に取り組めば、自走が始まる。そのとき初めて、まちおこしのイベントは一過性のものではなくなり、地域活性化への道を歩み始めるのだと齋藤氏は言う。
コミュニティとは「人生を変える時間」
最終的に、コミュニティ活動は人と組織に何をもたらすのか。「僕は、コミュニティとは“人生を変える時間”だと思っています。コミュニティで活動すれば、話し方も、顔つきも変わる。場合によっては、人柄まで変わることもあります。自分もコミュニティに貢献できていると実感できれば、それが生きがいになる。コミュニティでは熱が伝播するので、自分の振る舞いによってプロジェクトや人がどう動くかがわかります。そこで得た貴重な経験は、次の仕事や職場でも活かすことができると思います」。
齋藤氏は大阪・関西万博が終わった後も、博覧会協会で一緒に活動したメンバーとは連絡を取り合っているという。2025年に向けて共闘した経験は、全員の人生にとって確実に1つのレイヤー(地層)になっている、と語る。
「オンラインだけで完結していても、周りを動かすだけの熱量を持ち帰ることはできない。リアルな場でのコミュニケーションなくして、人生を変えるような経験はできない。それこそが、コミュニティで活動する意義だと思うのです」。
大阪・関西万博、KK線再生プロジェクト、東京国際文化芸術祭――息つく暇もなく大規模プロジェクトで連投する、齋藤氏のモチベーションの源とは何なのか。
「それは、“誰も解けない知恵の輪”を解きたい、という思いです。無理だと言われるような課題をどう乗り超え、日本で誰もやったことのないことをどう実現するか。その正解を追い求めていく中で、自分自身も変わっていく。それは疲れるけれど、成長した実感は残る。だからこそ続けられるのだと思います」と齋藤氏は最後に語った。
クリエイター