「AI 時代に変化する消費者意識調査」を
デジタルエシックス視点で読み解く 03
デジタルエシックスが変える企業と消費者の新しい関係
NECは、SNS、買い物・予約・支払い系サービス、エンタメ・コンテンツ視聴系サービスなど、日常的にデジタル サービスを使用している15歳から74歳の一般消費者1,597人を対象にアンケート調査を実施し、その結果を「AI時代に変化する消費者意識調査」としてまとめ、2025年11月27日(木)に公開しました。
近年、企業活動においてその重要性が増している「デジタルエシックス」をより深く理解するために、本記事では公開済みの調査結果に加え、その背後にある多くのデータや追加分析を踏まえて、 消費者のリアルな姿を見つめていきます。本調査から得られた多くの示唆をもとに、全5回にわたりご紹介していきます。
第2回目は「変わりゆく消費者が企業に求める誠実さとは」と題して、どのような体験を消費者がしているかを見ていきました。第3回目は、調査結果「3.『覚醒した顧客』が変える企業との関係」から、デジタルエシックスと消費者の関わり合いに焦点を当てます。
調査結果は以下リンクよりご確認いただけます。
1.企業と消費者の間に存在する溝ー必要とされるデジタルエシックス
前回までの調査結果を分析すると、消費者がデジタルサービスを利用する際には、企業と消費者との間に認識のずれによる「深い溝」が存在することが明らかになりました。(図表1)この構造をどのように捉えるべきかが、本稿の出発点です。なぜ、このような溝が生まれてしまうのか。デジタルエシックスのアプローチでこの溝を埋めることができるのかを考察します。
デジタルエシックスとは、インターネットやAIなどのデジタル技術が発展する中で、決められたルールを守るだけではなく、社会の常識や価値観も踏まえて、人や社会にとって本当に望ましいデジタル利用のあり方を示す規範です。
今回の調査によると、デジタルエシックスという言葉自体の認知度は0.6%と極めて低いものの、説明文を提示した上で重要性を問うと、91%の消費者が共感する結果となりました(図表2)。企業と消費者の間にある「深い溝」の構造において、デジタルエシックスの実践は、信頼を求める顧客(市場)に対する巨大なビジネス機会であるとも言えます。
このデジタルエシックスの可能性を探る上で、示唆を与えてくれる、ある企業の取り組みがあります。
小売り大手である丸井グループは、「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」と、長期的な視点での考え方と行動を宣言しています。※1※2
日常生活ではどうしても大小問わず二項対立が存在するゼロサムの取捨選択になりがちです。あるいは当たり障りのない折衷案的な最大公約数の着地になることもしばしばあります。そのような中でこの「あらゆる二項対立を乗り越える」という考え方は、対話による関係性作りを通して課題を乗り越えていく姿勢を明確にしています。デジタルエシックスのアプローチを考えるうえで重要な示唆を与えてくれます。
デジタルエシックスの魅力とユニークさは、多面的、多層的、多元的な対話の連続であり、まさに動的であるということは前回でも述べました。一つの正解を導き出すものではない視点で対話を繰り返していくことで、技術を提供する企業とそれを使う消費者との間の溝を埋めていくことができます。
2.デジタルエシックスの実践が、信頼・推奨・ファン化につながる
ここからは調査結果を詳細に見ていきます。
まず、デジタルエシックスを意識した企業・サービス事業者に対して「信頼や好感を持つ」と回答した消費者は、全体平均で56%になりました。さらに、商品やサービスを利用する際に企業からの発信内容をより意識するようになった「覚醒した顧客*」に絞ると、その割合は81%にのぼります。すなわち、デジタルエシックスの実践は、「覚醒した顧客」を惹きつける大きな引力となることがわかります。(図表3)
また、「覚醒した顧客」はデジタルエシックスを実践する企業に対し、信頼を起点として推奨やファン化へとつながっていきます。(図表4)
- * 覚醒した顧客:購入・利用する商品やサービスを選ぶ際、企業姿勢や発信内容を意識することがとても増えたと回答した人
次に図表5は、デジタルエシックスに共感する人に対し、「デジタル技術を活用して提供されているサービス」を利用していて、運営企業がデジタルエシックス(倫理)を大切にしていると感じる場面を聞いた結果です。
回答結果は大きく次の二つの観点に分けることができます。
- 企業としての「公正・透明性」といった基本姿勢(守りの倫理)(図表5:青グラフ)
- 顧客と向き合う「関係性の質」を高める取り組み(攻めの倫理)(図表5:オレンジグラフ)
企業としての「公正・透明性」は比較的わかりやすい内容です。法令やガイドラインの遵守、コンプライアンスの徹底なども含まれているため多くの企業で既に取り組みが進んでいます。また、顧客の評価と企業の対応が一致しやすい点も特徴です。
一方、もう一つの顧客と向き合う「関係性の質」とはどういうものでしょうか。
市場調査やVoC(Voice of Customerの略:口コミやSNSなどに代表される顧客の声)を踏まえて、多くの企業はすでに商品・サービスの改善を実施しています。しかしAIをはじめ、変化が激しいデジタル社会においては、より連続的かつ双方向の踏み込んだコミュニケーション、つまり「顧客との対話」が、「関係性の質」を向上するキーになると考えられます。
既にファンマーケティングの世界では「顧客との対話」が新たな価値創出として重視され、取り組みが活発化しています。この対話は、デジタルエシックスのアプローチにおいても非常に重要です。
つまり、法令遵守や透明な情報開示といった「守りの倫理」と、ユーザーの声の反映や安心感の提供により新たな価値を創出する「攻めの倫理」の両方が揃って初めて、消費者は企業やブランドを「倫理的だ」と心から評価する傾向が見えてきます。
図表6は、デジタルエシックスの各施策とその効果の関係性を視覚化したマップです。各項目の関係性を、統計的手法を用いて距離で表現していて、距離が近いほど関係性が強いことを示しています。
マップの見方:
マップは、各項目間の「関係性の地図」です。元のクロス集計表(例:「施策A」は「効果X」と何パーセント結びついたか)から、各項目の傾向を読み取ります。そのうえで、統計的手法(数量化三類)を使い項目同士の距離を計算し、傾向が似ている項目同士が「近く」に、似ていない項目同士が「遠く」になるよう配置しています。したがって、距離が近い項目同士=統計的に関連性が強い(結びつきが偶然ではない)と解釈できます。
この図からは目的によって意識すべきデジタルエシックスの取り組みが異なることがわかります。
信頼のためには企業の「理念」が、
売上のためには顧客の「体験の質」が、
そして推奨のためには「顧客との対話(共創)」が、
それぞれの役割を担うことが読み取れます。
ただし、消費者が「デジタルエシックスが取り入れられている」と感じる世の中の商品はまだ16%にとどまっています。低い実践率と、高まる社会的ニーズとの間には「信頼のギャップ」が生まれています。このギャップを埋めることを実現できた企業やブランドにとっては大きな武器となります。
3.店舗における技術導入事例で考える対話の重要性
ここで企業と顧客における対話のモデルケースを考えてみます。
例えば、コンビニや小規模スーパーのような小売り現場で顔認証決済などの最新テクノロジーを導入して無人レジ・無人店舗を実現する場合を想定してみます。
ビジネス(企業側)の視点では人件費の削減度合い、過疎地域や深夜帯などの人手不足の解消、監視カメラによる万引き対策、データ活用におけるプライバシー問題など・・・考えられる論点が数多く浮かび上がります。
このような論点の多くは経済合理性やコンプライアンスで十分に議論できています。
ではここで、ユーザー(顧客)との対話を入れるとどうでしょうか。
近年、タッチパネル式のセルフレジがコンビニエンスストアやスーパーマーケットに急速に導入されました。会計の待機列が短くなり、従業員のコストも削減され、良いことづくめのような気がします。しかし、例えば、視覚障がい者はタッチパネル式のセルフレジを使うことができません。触感フィードバックのような機能を持つタッチパネルが必要になるかもしれません。有人のレジもいくつか残す必要があるのかもしれません。販売がメインの店員ではなくサポートやサービスを行うコンシェルジュのような違う役割を持った人が常駐したほうがいいのかもしれません。
みんなにとって使いやすくするためにはどうすればよいか。正解はありません。多様なユーザーが対話に入ることによって、顔認証決済などの最新テクノロジーや技術の導入に関する議論が、スペック中心の議論から一気に広がっていくことがわかります。
デジタルエシックスの肝要な点は、多面的、多層的、多元的な対話を連続的に行い、一つの正解を導こうとしない姿勢で議論を積み重ねていくことです。こうした対話の積み重ねによって、技術を提供する企業やそれを使う消費者、ステークホルダーの間の溝を埋めていくプロセスが形成されます。
また、このような取り組みはインクルーシブデザイン*※3※4と呼ばれています。インクルーシブデザインは、障がいのある方やマイノリティの方に配慮する・しないというゼロサムの話ではありません。多様な視点を取り入れて新たな価値を創出していくプラスサムの話です。先に紹介した「二項対立を乗り越える世界」にも通じるものでもあります。つまりデジタルエシックスはインクルーシブデザインにも通じるといえるわけです。
- * インクルーシブデザインとは、これまでメインターゲットとされていなかったユーザー(例:障がい者・高齢者・外国人等)とともに製品・サービスなどの開発プロセスを進め、新たな価値創造につなげていく手法です。経営戦略として実践することで、企業競争力の強化等が期待されます。
4.まとめ:対話により信頼のギャップを埋めることが、ブランドの武器となる
最新のテクノロジーやデジタル技術を活用し、対話を通じてそれを実現し、加速させる。デジタルエシックスは、人や社会にとって本当に望ましいデジタル利用のあり方を示す規範です。
インクルーシブデザインの視点で、デジタルを使って社会をリデザインすることは、デジタルエシックスの考え方や行動の一例です。こうした取り組みを進めるためには、それぞれの企業やブランドごとに、多面的、多層的、多元的な対話を継続的に重ねていくことが欠かせません。
また、調査結果からは、深い信頼を築くためには企業の「理念」が、ビジネスの成果のためには「体験の質」が、そして推奨のためには「顧客との対話(共創)」がそれぞれ重要なドライバーであることを読み解くことができます。
以上の結果を踏まえて、第3回の解説の締めに入ります。今回紹介した調査結果の分析から言えることは次の点になります。
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「共感度・必要度9割超」のデジタルエシックスは、信頼を求める市場に存在する巨大なビジネス機会である
言葉の認知率は1%未満だが、その重要性への共感は9割を超える。さらに、消費者が「デジタルエシックスが取り入れられている」と感じている世の中の商品はまだ16%で、この巨大な需給のギャップこそが、競合から一歩抜け出すためのブルーオーシャンである。 -
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信頼される倫理とは、「公正・透明な基盤=正義の倫理」と「顧客に寄り添う関係性=ケアの倫理」の両輪で成り立つ
法令遵守や透明な情報開示といった「守りの倫理」と、ユーザーの声の反映や安心感の提供といった「攻めの倫理」の両方が揃って初めて、顧客は企業を「倫理的だ」と心から評価する。 -
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目的によって打つべき施策は異なる -「理念」「体験」「共創」がそれぞれの鍵を握る
深い信頼のためには企業の「理念」が、ビジネスの成果のためには「体験の質」が、そして推奨のためには「顧客との対話(共創)」が、それぞれ重要なドライバーである。 -
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デジタルエシックスの実践は、『覚醒した顧客』を惹きつける大きな引力となる
企業のあり方を厳しく評価する、最も影響力の強い顧客層は、誠実な姿勢を「決定打」として企業を選ぶ。広告費では買えない熱心なファンを獲得し、持続的な成長を遂げるための道がここにある。
次回は、企業と顧客の望ましい関係性について、5つのデジタルエシックス・クラスターの詳細を紹介しながら詳しく見ていきます。
引用・参考文献:
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※1
ビジョン2050 | サステナビリティ | 丸井グループ-maruigroup website-
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※2
10年間、「何のために働くか」問い続けた。「やらされ感」を排除し、「対話」と「手挙げ」で変革を実現 ~対談・丸井グループ 青井代表取締役社長×IISE 藤沢理事長|国際社会経済研究所(IISE)
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※3
「経営戦略としてのインクルーシブデザイン」を公表しました (METI/経済産業省)
- ※4 インクルージョン&ダイバーシティ: 社会 | NEC
本記事に記載されている会社名、商品名、サービス等の名称は、各社の商標または登録商標です。
調査・企画・執筆:NEC BluStellarブランドマーケティンググループ(吉見大輔、鈴木章太郎、若山拓巳、権田麻実)