「AI 時代に変化する消費者意識調査」を
デジタルエシックス視点で読み解く 04
5つの消費者クラスターから読み解く
これからの企業と顧客の関係
NECは、SNS、買い物・予約・支払い系サービス、エンタメ・コンテンツ視聴系サービスなど、日常的にデジタルサービスを使用している15歳から74歳の一般消費者1,597人を対象にアンケート調査を実施し、その結果を「AI時代に変化する消費者意識調査」としてまとめ、2025年11月27日(木)に公開しました。
近年、企業活動においてその重要性が増している「デジタルエシックス」をより深く理解するために、本記事では公開済みの調査結果に加え、その背後にある多くのデータや追加分析を踏まえて、消費者のリアルな姿を見つめていきます。本調査から得られた多くの示唆をもとに、全5回にわたりご紹介していきます。
第3回目は「デジタルエシックスが変える企業と消費者の新しい関係」と題して、AI時代の消費者意識とデジタルエシックスの可能性を見ていきました。第4回目は、「企業と顧客の望ましい関係性」に基づき分類する5つの顧客像(クラスター)に焦点を当てます。
調査結果は以下リンクよりご確認いただけます。
SUMMARY サマリー
1.AI時代に変化する価値観の全貌
第1回~第3回までの分析で、顧客の価値観が「製品の品質」中心から「企業のあり方」を含む方向へ、より複雑になっていることがわかりました。
では、デジタルサービス市場には、どのような価値観を持つ顧客が、どれくらい存在するのでしょうか?
今回はいくつかの「企業と顧客の望ましい関係性」に対する設問から、市場における顧客の価値観の分析・分類を行いました。そこから、デジタルエシックスの観点において異なる価値観を持つ顧客と企業とのあるべき関係性と信頼獲得の鍵が見えてきました。
調査方法と設問内容
調査は、消費者が企業やサービスに求める姿勢やシステムについて、デジタルエシックス(倫理)を意識した設問を用いて実施されました。各設問は「どちらとも言えない」を含む5段階のSD法で構成。設問から、消費者の価値観を分析・分類しています。
設問:デジタルエシックス(倫理)を意識した企業・サービスに求めるのは、どのような企業姿勢やシステムですか。あなたのお考えに近いものをお選びください。
- ※ 各設問は「どちらとも言えない」を含む5スケールのSD法(対になる2つの文章から、より考えが近い方を選ぶ形式)
●新サービス導入は?
- リスクを最小限に抑え、新サービスの提供は慎重に行うべき
- 顧客の利益につながる新サービスを、積極的に提供するべき
●サービス提供時の安心感は?
- 厳しい規制がある方が安心
- 一人一人の顧客(自分)の声に寄り添ってくれる方が安心
●サービス設計は?
- 企業はすでに決められた法律やガイドラインの遵守を最優先してほしい
- 企業は、柔軟に利用者の声を聞いたサービス設計を最優先してほしい
●顧客対応の基準は?
- 明確な基準に基づいて判断してほしい
- 利用者の個々の状況に応じて柔軟に判断してほしい
●デジタルエシックス実現への関与は?
- 監督機関や企業側に任せ、自分は関与しない
- 自分から積極的にサービスを確認し、意見を伝えたい
2.5つのデジタルエシックス・クラスターを徹底解説
顧客の価値観は、企業との関係性に対する期待の方向性から、5つのタイプに分類されることがわかりました(図表1)。以降、これらを「5つのデジタルエシックス・クラスター」と呼びます。
今回はこの5つのデジタルエシックス・クラスターの詳細を一つひとつ解説していきます。
クラスター1.共創的パートナー(図表2)
企業に対して「完璧なルール」よりも「安心できる信頼関係」を重視し、マニュアル通りではなく一人ひとりの状況に応じた柔軟な判断を求める層です。「共創的な関係」を理想とし、企業の誠実さを対話の姿勢と柔軟性から見極めたいという特徴があります。
クラスター2.フェアな支持者(図表3)
顧客目線の公正・公平なガイドラインが「信頼関係とロイヤルティの礎」となると考えます。企業に「公正さ」を求める理由は厳しさからではなく、その期待に応えてくれれば長期的に信頼し、継続利用を通して企業を応援したい層です。
クラスター3.状況的実利主義者(図表4)
「安全なサービス」を前提に「柔軟な対応」を求め、自分にとって最も合理的な関係性に期待します。企業全体に対しては、新サービスの提供に慎重であるなど、徹底したリスク管理と安定を求めます。一方で、ひとたび自分個人に関わる問題となると、画一的なルールよりも「自分ごと」として、柔軟に対応してくれることを期待したい層です。
クラスター4.保守的リアリスト(図表5)
デジタルサービスにおいて「対話」よりも「規則と規律」を重視し、安全・安定こそが企業と顧客の望ましい関係性と考えます。サービス設計やカスタマーサポートにおいて一律な基準で誠実な対応を求め、誠実さが感じられれば長期的な購入者となって企業と支え合う関係をつくりたいという傾向があります。
クラスター5.中立派(図表6)
過去の不誠実体験はあるものの、デジタルエシックスに対してはあまり関心を持っていません。AIやデータ活用サービスへの親和性が低く、期待やあるべき姿に関する判断基準を持たず、社会の潮流に流されやすいフォロワー的な性質を持つ層です。
5つのデジタルエシックス・クラスターの価値観をマップに可視化したものが図表7です。5つのクラスターの価値観は、「利益とリスク」「柔軟性と規則」の2軸で可視化されます。全体の4割はマニュアルを超えた柔軟な対応を求める顧客層(共創的パートナー30%、状況的実利主義者10%)であり、もう一方の約4割は公正なルールや規律を信頼の礎とする顧客層(フェアな支持者23%、保守的リアリスト18%)です。
3.一人の中に宿る5つの価値観
これまでは5つのクラスターについて、一つずつ解説してきましたが、市場分析の結果では、顧客はこれらのクラスターに分類されることがわかりました。ここで重要なのは、この分類が固定的なものではなく、利用するサービスやその文脈によって、顧客の中で「価値観のモード」が切り替わる可能性があるという点です。実際に、(図表8)右枠のデータを参照すると、同じ個人であっても、AIやデジタルサービスごとに異なる価値観が表出する傾向が見られます。つまり、個人はそれぞれ固有のクラスターに属するのではなく、状況やサービスごとに異なる価値観を選択していると考えられます。こうした多面的な価値観の存在を理解することが、より深い顧客理解と的確なアプローチにつながります。
一人の顧客を多面的に捉えるという考え方は、経営学者であるピーター・ドラッカー氏の「事業の目的は、顧客の創造である」という言葉と共鳴します。※1
「顧客の創造である」の原文は“create customers”ではなく、“create a customer”と記されていることはすでに多くの方に知られている有名な話です。
この表現には、二つの重要な示唆が込められています。
一つは、ドラッカー氏が重視したのが単なる「顧客満足」ではなく、新たな価値関係としての「顧客を生み出す」という点です。もう一つは、顧客を市場全体の集合体として捉える “customers” ではなく、目の前の一人の “a customer” として捉えている点です。
この示唆はマーケティングでいわれるN1分析アプローチにも通じるものです。顧客一人ひとりを深く理解することで顧客の創造が実現していくといえます。今回解説した5つのクラスターは複雑化する顧客の心理をより具体化するものです。つまりこのクラスターを理解しうまく活用することは顧客の創造につながる重要取り組みと言えるでしょう。
今回の5つのデジタルエシックス・クラスターは、それぞれを固有の顧客としてみていくことも大切ですが、同時に一人の顧客の中に内在する5つの価値観として捉えることもできることを忘れてはいけません。
デジタルエシックスの考え方や行動は、それぞれの企業やブランドごとに、多面的、多層的、多元的な対話を絶えず続けていくことです。この多面性や多元性こそが、今回の一人の顧客の中に存在する5つの価値観ともいえます。企業が、デジタルエシックスに基づく行動を続けることで、顧客の深い理解が進み、その結果として顧客との信頼関係を築き、「顧客の創造」につながっていくことになると考えます。
4.まとめ
今回紹介した調査結果の分析から言えることは次の点になります。
-
(1)
顧客の価値観は、企業との関係性に対する期待値によって5つのタイプに分類される
顧客は、その心理や企業倫理への考え方に基づき「共創的パートナー」「フェアな支持者」「状況的実利主義者」「保守的リアリスト」「中立派」という5つのクラスターに分類できる。 -
(2)
顧客の分類軸は「利益とリスク」および「柔軟性と規則」の2軸で構成される
この分析は、縦軸に「顧客の利益重視⇔リスク管理重視」、横軸に「柔軟な対応重視⇔ガイドライン重視」という2つの価値観の軸を設定し、顧客が企業との関係性に何を求めているかを可視化したものである。 -
(3)
全体の4割は、マニュアルを超えた「柔軟な対応」を求める顧客層である
「共創的パートナー(30%)」と「状況的実利主義者(10%)」は、関係性の構築や実利的な安全確保といった目的は違えど、企業には規則一辺倒ではなく個々の状況に応じた判断を期待している。 -
(4)
もう一方の約4割は、公正な「ルールや規律」こそ信頼の礎だとする顧客層である
「フェアな支持者(23%)」と「保守的リアリスト(18%)」は、企業の対応にブレがないことや、公正なガイドラインが運用されていることを重視し、安全・安定した関係性を望んでいる。 -
(5)
多様な価値観と向き合い、対話を通じて「あるべき関係性」を顧客と構築することが信頼獲得への鍵となる
柔軟性を求める顧客への個別対応と、ルールを求める顧客への公正な規律構築。この両立を人間中心にデザインしていくことこそが、企業にとってのデジタルエシックスの実践と言える。 -
(6)
一人の顧客の中に宿る「5つの価値観モード」の理解が大切
顧客クラスターは固定的な「人」の分類ではなく、むしろ一人の顧客の中に5つの価値観(共創、公正、実利、保守、中立)が同居しており、利用するサービスの文脈に応じて、その時々の「モード」が強く表面化すると捉えるべきともいえる。
次回は、第1回~第4回で見てきた調査結果と、本解説記事と同時に展開している「デジタルエシックスで経営の未来を拓く-有識者と語る10の視点」で語られた有識者からの数々の言葉との共通点を探りながら、これからのデジタルエシックスの可能性を探ります。
引用・参考文献:
調査・企画・執筆:NEC BluStellarブランドマーケティンググループ(吉見大輔、鈴木章太郎、若山拓巳、権田麻実)