AIを超える、「超体験」を作り出せ
──若者研究から見る、AI時代の消費動向と成長のゆくえ
AIが日常に急速に浸透する中、人々の幸せやウェルビーイングはどう変わるのか——。NECでは生活者を対象に調査・分析を実施しました。
日本全国に住む15歳から74歳の男女2,057名を対象に、日常におけるAIの利用実態や、AIによる幸福感の変化、AIエージェントへの期待と不安、これからの人とAIの関わり方などについてアンケートを行い、「AIとウェルビーイングに関する生活者調査」として2026年9月15日に公開しました。
本連載では調査結果を踏まえて、AIと共に生きるこれからの社会で、人がより自分らしく豊かに過ごしていくためのヒントを、5人の有識者へのインタビューを通じて探ります。
今回の調査では、特に10代・20代の若年層でAI活用が加速度的に進んでいる現状が見えました。一方で、「AIの登場で幸福感は変わらない」と答えた人は7割を超えています。便利になったはずなのに、なぜ幸福感は変化しないのか。約30年にわたり若者文化を研究されているマーケティングアナリストの原田曜平氏に、若年層とAIの関係性をお聞きしました。
■調査概要
対象地域:日本全国
調査時期:2026年6月
対象・調査方法:15歳~74歳の男女(一般生活者) 2,057名に対し、インターネットによる調査を実施
調査主体:日本電気株式会社
■調査結果:AIとウェルビーイングに関する生活者調査 AI & Well-being Consumer Survey 2026
SPEAKER 話し手

原田 曜平 氏
マーケティングアナリスト
芝浦工業大学 デザイン工学部UXコース教授
広告業界で各種マーケティング業務を経験した後、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。BSテレビ東京番組審議会委員。マーケティングアナリスト。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされ、さまざまな流行語を作り出している。
原田曜平研究室 https://yoheiharada-lab.com
1.今、若者の間で広がるAIの「使いこなし格差」
─若者研究は近未来研究――世の中の変化の最先端に触れる
──まずは、原田さんのご経歴と専門分野についてお伺いできますか。
元々は大手広告代理店で、マーケティングのセクションでメーカーの調査や、広告作りをしていました。その後生活者分析を専門とするシンクタンクに移り、そこで「若者研究」というテーマに巡り合います。やがて若者研究専門の部署を立ち上げて、そこで半分研究をしながら、半分はコンサルティング、企業商品開発や広告制作をしていました。直近5~6年は大学のデザイン工学部で、学生たちにマーケティングやマーケティングリサーチを教えています。
芝浦工業大学 デザイン工学部UXコース教授
原田 曜平 氏
──「若者研究」について、どんな点に魅力を感じられていますか。
若者は変化の大きい年齢なので、世の中の動向をいち早くキャッチできる点だと思います。社会全体を見ているだけでは10年、20年経ってからようやく変化に気付くことを、一番最先端でビビッドに知ることができる。だから「若者研究」というのは「近未来研究」に近くて、時代の流れの最前線にタッチできるという感覚が面白いと思っています。
─若者のAI利用の実態――使いこなしスキルの差が拡大
──今回の調査でも、AIの利用頻度は若い世代ほど高い水準になっていました(図1)。私たちも、これから社会の中心となる「AIネイティブ世代」の若者の動向を先取りして知りたいと考えています。原田さんは若者のAI利用の実態をどのように捉えていらっしゃいますか?
確かに10代・20代のAI利用率は非常に高く出ていると思います。ただ注意が必要なのは、2026年現在、「10代」の大半はZ世代だということです。私の中では、Z世代(1990年代半ば〜2010年頃生まれ・現在の15歳〜30歳)はあくまで「SNSネイティブ」で、α世代(2010年〜2024年頃生まれ・現在の15歳以下)こそが本当の「AIネイティブ」だという感覚があります。もちろん今の大学生もAIを頻繁に使っていますが、やはり幼少期から使っていたかどうかは大きい。ですから、世代による差が大きく表れてくるのは、これからのα世代だと思います。
私は現在α世代の研究も行っており、2026年11月4日には「α世代 超格差社会を生きるAIネイティブ」(祥伝社)という書籍を出版予定です。この研究の過程でも全国のさまざまな小中学生にインタビューを行い、他の世代との差がたくさん見えてきました。例えば親が共働きで、一人で家にいる小学生が、自分で作るご飯の献立をAIに聞いたり、人生で初めて使う化粧水やメイク用品のオススメを、親ではなくAIに聞いたりしていました。これはやや極端な例ではありますが、AIを家族以外の身近な相談先の一つとして活用している子どもがいる、というのが現状です。
また、小学生にインタビューをすると、「AIにハルシネーションを感じたことがない」と答える子が少なくありませんでした。AIの言うことはすべて正しいと思い込んでいる子もたくさんいます。こうした依存度や情報リテラシーの格差は、幼少期からAIに親しんできたα世代においてさらに広がることが予測されます。
とはいえ、こうした傾向はα世代に限った話ではありません。今の大学生を見ていても、AIとの向き合い方には大きな差が生まれ始めています。これは肌感覚ではありますが、多くの大学生が思考停止でAIを使うようになっている印象です。
例えば、ある地方創生のプロジェクトを大学のゼミで行っているのですが、こちらの出した資料をそのままAIに読み込ませて、グラフィックだけ変えて提出してきた学生がいました。資料をベースに議論して、自分達でも追加調査をした上でアウトプットを出してほしいという授業なのですが、これでは学びになっていません。また、別の学生とオンラインで打ち合わせをしていた時に、あまりにもAIに頼ったものを出してきたので、「自分で考えてみた?」と尋ねたら、画面共有しているのを忘れていたのか、AIを参照しながら回答を考えていた様子が見えました。こうしたケースが増えつつあり、AIに頼る前にまず自分で考えるという姿勢が薄れつつあることに危機感を持っています。
一方で、プロのコピーライターやデザイナーのようなアウトプットを持ってくる子もいたりします。既にZ世代の大学生でこれだけの格差が生まれているということは、AIネイティブであるα世代では、さらに人生の経験値や知識に差が出てくるのではないでしょうか。
──一方、若者のAIの使い方として、進路やキャリアなどの人生の決断に関しては、男女問わず「人を強く信じる」傾向が見られました。若者の「用途によってAIの使い方を変える」「考え方や決断については人を信じる」という傾向について、何かお考えはございますか。
今回の調査における10代は15~19歳なので、Z世代が中心です。彼らはSNSやインターネット、そして実際の人との関わりの中で、自分の頭で考えてきた経験があります。AIのない時代を知っている分、その回答を無条件に信じることはせず、本当に大切な決断や相談は親や友人にするという回答になるのだと思います。ただα世代の中には、幼い頃から日常的にAIに触れている子どもたちもいます。この「進路やキャリア選択の場面では人を強く信じる」という傾向も変わっていく可能性はあると思います。
─若者の「タイパ思考」への誤解
──若者が無思考でAIに頼ってしまう傾向があるというのは、やはり「タイパ(タイムパフォーマンス/時間対効果)」を求めた結果なのでしょうか。
実は「タイパ」という言葉は、私が10数年ほど前に発信したもので、当時の若者、つまり現在の中高年たちを表す言葉でした。決して今のZ世代の特徴を表した言葉として作ったものではありません。それがなぜか近年掘り起こされて広がっていますが、実際には今の若い世代にタイパ意識はそれほどないと思います。
むしろ諸外国と比べても、のんびりと生きているのが日本の若者の特徴です。私は海外でも調査を行っているのですが、中国も失業率が高いですし、アメリカでも大学卒業後の就職に苦労するケースが少なくありません。一方、日本では少子化や人手不足の影響もあり、若者にとっては比較的選択肢の多い状況が続いています。初任給の上昇も続いており、周囲と過度に競争しなくても進路を選びやすい環境があると言えるでしょう。
よく話題になる動画の倍速視聴も、実際には若者だけに見られる行動とは言えません。むしろ子育てや家事、仕事を抱える社会人の方が時間的制約は大きいはずです。そう考えると、「若者はタイパ重視である」という見方には、少し誤解も含まれているのではないかと思います。
──「タイパ」を求めている若者は少ないというご意見、新しい視点で非常に興味深く感じました。では今後も少子化やAIの普及によって、競争意識が低下した世代が増えていくという予想でしょうか?
それはまだ、どちらに転ぶか分からないと思っています。前提として、今の日本は深刻な人手不足で、企業側が若者を採用したいと考えている「売り手市場」です。だからこそ、若者にとっては働く場所の選択肢が多く、以前ほど就職や転職に不安を抱かずに済む状況が生まれています。一方で若い世代に話を聞いていると、「ある程度頑張れば就職はできるが、どれだけ努力しても大きな成功や豊かさには結びつきにくい」と感じている人は少なくありませんでした。そのため、仕事に打ち込む意義を見いだしづらく、結果として働き方も緩やかになっているように感じます。去年流行語になった「静かなる退職」という言葉も、その傾向を象徴する現象の一つでしょう。すぐに会社を辞めるわけではないものの、仕事とは一定の距離を保ち、与えられた業務をこなしながらプライベートを重視する人が増えている印象があります。
その上で、今後彼らの動向が変わるとすれば、外的な社会環境の変化でしょう。例えば、AIの発展や移民の受け入れ。移民によって働き手が増えたり、AIによって仕事がどんどん奪われたりすれば、危機感から顔色を変えて頑張り始める子も出てくるはずです。ですがこのままの社会が続くのであれば、競争環境は生まれず、さらに若者の人口は減るばかりなので、より一層「逆タイパ」の方向に進んでいく可能性もあります。
いずれにしても、これは彼ら自身が悪いという意味ではなく、必然的にそのような社会構造になってしまっているのだ、という気がします。
2.「自分は何をしたいのか」を持つ人が、AIから”自分だけの答え"を引き出せる
─AIを使いこなす学生と、AIに使われる学生の違い
──先ほどお話しいただいた「AIを無思考で使ってしまう層」と、「高品質のアウトプットを出す層」の若者を分けているものは何だとお考えですか。
これも本当は検証しないと分からないのですが、学力とはある程度相関しそうな気がします。ただ、同じ大学の中でも無思考でAIを使っている子もいれば、上手な使い方ができる子もいるので、多分それだけでは測れない。おそらく、AIを使いながらも主体的に考えることができているかどうか、という違いなのではないでしょうか。
私が教えている大学のゼミでの話ですが、学業成績は同じくらいの学生2人の間でも、AIで出力した資料の質が明らかに違うということがありました。上手に資料を作っている子に話を聞いてみると、彼はゲーム攻略などのためにAIとずっと向き合ってプロンプトを研究しているというのです。だから大学の資料制作という場面でもその経験が活きていて、アウトプットの質が違う。これは学力だけの問題ではないな、と思いました。
もう一つ、最近実施したインタビューで聞いた、素晴らしいAIの使い方をしている地方の学生の話があります。彼女は韓国コスメが大好きなのですが、ドラッグストアやコスメショップが本当に少ない地域で、直接試して買うことができません。そこで、太陽光や室内での自撮りなど、さまざまなシチュエーションでの自分の写真を読み込ませて、細かくプロンプトを調整してAIに投げる。すると、「自分に似合う化粧品」がレコメンドされるそうなのですが、これがかなり当たると言うのです。だからオンラインで買ってもほぼハズレがない。彼女も、それまでは東京に住みたいと思っていたけれど、地元でも別に不便を感じなくなっていると話していました。上手く活用できる若者にとってAIは、地理的な制約を超え、自分の生活をより豊かにしてくれるものになっているのだと感じられた事例です。
──今のお話はある意味、テクノロジーの理想的な使い方や付き合い方というところで、明るい未来につながりそうだと感じました。そして、都市部への人口集中という社会問題への解決も期待できそうな事例です。
最近ではアメリカだと、ニューヨーク・ロサンゼルスからオースティンやオーランドへ。オーストラリアなら、シドニーからメルボルンへ…と都会から地方への人口移動が起こり始めています。発端としては、物価や家賃が高くなりすぎて、都市では生きづらいということではありますが、AIがその動きを加速させる可能性もあると感じました。東京一極集中のような現状も、Z世代やα世代が中心の社会となった頃には、変わってきているかもしれません。
──原田さんから見て、上手にAIを活用している学生に共通しているのは、どのような姿勢でしょうか。
AIを、ただ便利に使うスタンスではないということだと思います。今のAIは、まだ本質を考えるところまではできていないと思っていて、無思考で丸投げするのではなく「自分が何をしたいのか」「何が物事の本質なのか」を見極める力を持っている人だけが、AIから他の人とは違う答えを引き出せているのではないでしょうか。
3.AIが生成する世界を超える、想定外の「超体験」が人を動かす
─エンタメ化するAI――若者の幸福度とAIトレンド
──今回の調査では、AIによる幸福感についてもお聞きしています。「全部AIに丸投げする人は幸福感を感じづらく、重要な判断は人間、基本の作業はAIと役割分担する人は幸福感を感じやすい」という結果が出ました。実際の若者を見ていて、この傾向についてどう感じられますか。
実はこの1年ほどで、SNSの利用時間が少し減っています。AIが登場したことによって、そちらに可処分時間を取られるようになっているのです。SNSの中でも、伸びているのはBeRealやSetlogぐらいで、あとは軒並みダウントレンドになっています。
私は研究の一環で若者のトレンドを日々収集しているのですが、最近はAI関連のトピックスが非常に増えています。「ChatGPT構文」が流行したり、雪山や野球場にいるような加工が流行したりと、AIによるエンタメトレンドがすさまじい勢いです。もちろん、著作権や肖像権の問題のように、良い面ばかりでなく悪い面も含んではいるのですが、これだけトレンド領域に浸透しているという現状を考えると、AIは完全にエンタメの一つになってきていると思います。
先ほどの幸福度の話につなげて考えるなら、幸福のベースとしては上がる方向にあると思います。特に若い世代は自由に使える時間が多く、エンタメに触れる機会も多い。実際に若い世代を見ていると、AIを情報収集や相談相手、あるいは娯楽の一部として活用するケースも増えており、余暇の楽しみ方の選択肢を広げている面はあると感じています。
そしてこれだけAI発信のトレンドが生まれてくるというのはある意味、さまざまなアプリやSNS、あるいは遊園地のようなリアルな体験を生み出す場所にとっても、AIが競合になってきているのかもしれません。マーケティングの観点から見ても、面白い状況になっていると思います。
─AIが生成できない想定外の世界観が、新時代の価値になる
──AIが十分に満足を与えてしまう時代に、リアルな体験や身体性のような、人に残っていく価値はどう変化していくとお考えですか。
よくアナログ的な体験が重要だとか、人と人との触れ合いに価値が残るなどと言われるのですが、私はそれだけでは説明できないと感じています。先ほど話した地方の大学生も、AIで最先端の化粧品を選べることに満足しているわけですから。中途半端な「リアルの価値」というのは薄れてきていると感じます。
あえて言うなら、これまでの体験を大きく飛び越える「超体験」のようなものが感じられないと、満足できない状況になっていると思います。なので、中途半端に「人同士のコミュニケーションに価値がある」という従来型の議論だけでは十分ではありません。
そんな中でヒントになり得るのが、この1年で急に増加した“尖った若者たち”の存在です。「お歯黒」や「スパイキーショート」といった個性的なファッションを取り入れる若者も現れてきています。直近30年ほどの間、言動もファッションも大人しかった若者たちの流行が、今大きく動いています。これを私は、AIが作り出す世界観への無意識の反応だと見ています。
今はアプリなどで、少し小顔に加工したり足を長くすることは簡単にできますが、「あの子、この間会ったら歯が黒かったよ!」という衝撃的で強烈な個性があれば、他の人とは違う自分になれる。中途半端に「おしゃれ」や、「キレイ」「エモい」程度ではAIが生成する画像に勝てないからこそ、少しずらした想定外の世界観を模索しているのではないか、と考えています。そこまでやらないと、SNSで「いいね」ももらえないし、友達との話題にもならないのでしょう。
──ある意味、そこを超越していこうというモチベーションが生まれている世代が出てきた、ということでしょうか。
アフリカで猛獣に囲まれて襲われそうになっている画像だって、AIでいくらでも作れてしまう時代に、それを超えられるのはリアルな世界での強烈な体験です。例えば、「変わった食器でご飯を食べられるカフェ」や、中国にある「“イケメン”がたくさんいる遊園地」など、強い付加価値がなければ、わざわざ行かなくていいとなってしまいます。そんな、AIを超えるような「超体験」をいかに作り出せるか。これからのマーケティングや企業の製品・サービス開発のカギになってくると思います。
──AIとのやり取りの増加に伴い、人間との関わりが減ることでコミュニケーション不足を感じる方も多いのかと思っていました。
これまで高齢者の4大ペインとして、「老後は、お金・健康・孤独・退屈の4つの悩みを持つ」と言われていました。ですが、近年実際に調査※してみると、「孤独」と「退屈」が高齢者の中からほぼなくなっています。SNSの普及によって、メッセージアプリで子や孫とやり取りしたり、つながっていたりするのです。リアルなコミュニケーションはオンライン化などで減っているかもしれませんが、本当の意味での人と人とのつながりは、昔ほど問題ではなくなっているのではないか、と思います。
- ※ 出典:『「シニア」でくくるな! "壁"は年齢ではなくデジタル』(原田 曜平 著、日経BP)
4.AI時代にこそ、人と“深く向き合う”覚悟が求められる
─成長に必要な「挑戦の機会」を提供するために、若者と向き合う必要性
──最後に、今後AIネイティブという流れが社会全体で進んでいく中で、サービスを提供する企業・その経営を担う方々に対してメッセージがあれば伺えますか。
繰り返しになりますが、AIによって見た目を整えることは、みんなとても上手になっています。就活の自己PRも、仕事の資料やレポートも、AIを使えば一定の水準までは整えられるようになりました。だからこそ企業を経営する方には、その表面的な完成度だけで評価しないでほしいですし、そこで満足してほしくないと思います。
私が長く若者を見てきて思うのは、「人が成長するためには若い頃の適切な負荷が欠かせない」ということです。能力を伸ばしていくためには、現状の実力よりも少し高いハードルを乗り越える体験が必要不可欠です。自分で自分に負荷をかけるのは難しいからこそ、上司や周囲がその機会を提供して、指導してあげる必要があるのです。
そのためには、一人ひとりと丁寧に向き合う姿勢に立ち返り、その子の理解度や伸びしろを見極めた上で、最適な挑戦の機会を用意していくことが求められます。「この子はどこまで理解できているのだろう」ということを真剣に見つめて、「成長の余地があるから、次はこんな課題を出してみよう」と考える。戦後、人間関係はどんどん希薄化する方向へ進んできましたが、むしろAI時代だからこそ、逆に関係性を深めていかなければいけない。自分の会社の戦力にするにも、事業の規模を大きくするにも、人を成長させる必要があります。ここまでの時代の流れとは、あえて逆の方向を考えなければいけない事態になっているのではないか、という気がします。
私自身、学生の指導なども以前より時間がかかるようになりました。レポートや卒業論文のパッと見の見栄えは良くなっているのですが、学生と一緒に中身を掘り下げてよくよく話を聞くと、実は粗だらけだったり、全然理解していなかったりします。これは指導側として、大変な労力がかかることです。けれども、そこまでやらなければ、学生が無思考であったことを、学生自身に気付かせることはできません。昔以上に、人と向き合うことに時間をかけなければいけない時代になっているのだと思います。
─問われているのは、管理・教育側のリテラシー向上
──指導する側・管理する側のコミュニケーションコストも、相当なものになりますね。
そういう意味では、今後の覚悟を問われているのは、若者側よりも管理・教育する側なのだと思います。私の勤める学校には附属の中学・高校もあり、さまざまな先生とお話しするのですが、生徒がAIで作ったものの見分けがつかず、高い点をつけてしまう方もおられました。先生方自身がAIを使えていない、見分けがつかないというのは、いずれ大きな問題になってくると思います。
学校に限らず企業においても、ここ10年の社会で起こっていることは、全部同じ構造ではないでしょうか。若者の方が、新しい技術やサービスを使いこなすレベルが上がってしまって、大人がついていけないことによって、さまざまなトラブルが起きている。社員が職場でSNSに写真を投稿し、顧客情報が背景に映っていて問題になった事件などもありましたが、仕組みが分かっていれば事前に利用ルールを作ることもできたはずです。AIにも同じことが言えて、教育者や上司、いわば大人たちが少なくとも若者と同じレベルに使いこなすようにならなければ、指導も注意も教育もできない。AIネイティブ世代の問題というよりは、管理・教育側の問題な気がしています。
──AIで単純作業が効率化されて生まれた時間の使い道を、「人を見る」「リテラシーを高める」といったところに充てるべきなのかもしれないですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
企画・制作・編集:
NEC ブランドエクイティマネジメント室(鈴木章太郎、若山拓巳)、コーポレートブランド&エクスペリエンス統括部(浅井恵美、権田麻実)
この記事のポイント
01|若者のAI利用が広がる一方、「使いこなし格差」も広がっている
若い世代ほど AI 利用率は高い一方、AIに無思考で頼る人と、高度に使いこなす人との差が生まれている。本当の意味で「AIネイティブ」であるα世代では、この格差がさらに広がる可能性がある。
02|AI活用の差を生むのは、「自分が何をしたいか」を見極める力
AIから質の高い答えを引き出せるかどうかは、学力だけでは決まらない、と原田氏。目的や課題の本質を自分で捉え、試行錯誤できる人ほど、AIを自分ならではの価値につなげているという事例が示された。
03|AI時代の製品・サービスには、「AIを超える超体験」が求められる
AI が手軽に満足感や魅力的な世界観を提供するようになるほど、中途半端なリアルの価値では人を動かせない。製品・サービスには、AIでは代替できない「強烈な実体験」が求められている。
04|AI時代の人材育成では、「人と深く向き合う」ことがより重要になる
若者の成長のために上司や経営者は、一人ひとりの個性を見極め、適切な挑戦の機会を与えることが重要になる。管理・教育する側にも、AIを使いこなしながら人と向き合う力が問われる。