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「突き詰める力」を解き放て。
──AIが広げる個の可能性、日本から生まれる新しい価値

 AIが日常へ急速に浸透する中、私たちの幸せ(ウェルビーイング)はどのように変わるのか——。NECでは生活者を対象とした調査・分析を行い、その結果を踏まえて5人の有識者へのインタビューを実施。これからの人とAIの関わり方を探ります。

 人にとって本当に"機能する"AIとは、どんな姿なのか。工学からデザイン、経営へと領域を越え、つねに「機能するものづくり」を追い求めてきた田川欣哉氏に、AIの現在地とその先の可能性について伺いました。

■調査概要
対象地域:日本全国
調査時期:2026年6月
対象・調査方法:15歳~74歳の男女(一般生活者) 2,057名に対し、インターネットによる調査を実施
調査主体:日本電気株式会社

■調査結果:AIとウェルビーイングに関する生活者調査 AI & Well-being Consumer Survey 2026

SPEAKER 話し手

田川 欣哉 氏

デザインエンジニア、プロジェクトディレクター
Takram代表

デザインを駆使したイノベーションやブランディングをプロジェクトとして数多く手がける。グッドデザイン金賞、 iF Design Award、ニューヨーク近代美術館パーマネントコレクション、未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエーター認定など受賞多数。東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。2015年から2018年まで英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートにて客員教授を務め、2018年に同校から名誉フェローを授与された。経済産業省産業構造審議会 知的財産分科会委員、日本デザイン振興会理事、ポケモン・ウィズ・ユー財団理事、東京大学総長室アドバイザーなどを歴任。2025年より東京大学特任教授、2026年より株式会社クリーチャーズ社外取締役。

1.AIはなぜ、「エージェント」と呼ばれているのか

 多くの人が、AIの回答を確認・修正したり、対話しながら考えをまとめたりしています。私は、これをごく自然な現象だと受け止めています。今は、AIが社会に入っていく過渡期だからです。

 新しい技術が登場すると、人は自分が知っているものにたとえて理解しようとします。私は、普及初期のテレビが家具のキャビネットに収められたことや、初期の自動車が「馬なし馬車」と呼ばれたことも、その一例だと捉えています。AIを「同僚」「エージェント」と呼ぶことも同じです。まだよくわからない技術を、既知の枠組みに当てはめることで、なんとか付き合おうとしているのでしょう。

図1:AIの使いかたは「確認・対話しながら」の協働型が79.0%。答えをそのまま使う"代替型"は11.7%にとどまる。(協働型79.0%の内訳:AIの回答を確認・修正する50.5%+AIと対話しながら考えをまとめる28.6%)

 AIと人間の関わりには、in the loop、on the loop、off the loopがあります(in the loop:人が一つひとつ確認する段階、on the loop:人が監視・必要時のみ介入する段階、off the loop:人が判断に関与せずAIに委ねる段階)。今はまだ、AIの能力や品質を十分に見通せないため、人間が動きを確認できるin the loopやon the loopでなければ不安なのでしょう。しかし、AIへの理解が進めば、より多くの処理を委ねるoff the loopへ移る可能性があります。

 その変化を左右するのは、AIを使うことが当たり前の環境で育つ「AIネイティブ」の世代かもしれません。そうした人たちは、一つひとつの処理を操作したり確認したりすることに、現在ほどこだわらない可能性があります。AIと人間の関係は、今の姿だけでなく、世代をまたぐ長い時間軸で捉える必要があります。

デザインエンジニア、プロジェクトディレクター
Takram代表
田川 欣哉氏

2.AIへの不安に、企業は何を語るべきか

 AIにすべてを委ねたいという人は、少ないようです。これも納得できる結果です。すべてを自分で判断するよう求められれば処理能力を超え、何も決めさせてもらえなければ不安になる。人は何もかも自分でコントロールしたいのではなく、「程よく任せたい」のでしょう。

図2:AIに完全に委ねたい"自律型"を求める声は、全体でもわずか(7.4%)。多くが最後の判断を自分に残す"伴走型"を望む(27.6%)。

 人が「程よく任せたい」と考えること自体は、AIが進化しても大きくは変わらないのではないかと思います。ただし、どこまでを「程よい」と感じるかは、AIへの理解や世代によって変わる可能性があります。AIにどこまで任せたいかだけでなく、AIへの不安に対して企業に何を説明してほしいかも、人によって異なります。

図3:企業に求める発信は幸福度で変化。
幸福を感じる層ほど「目的・ビジョン」を、そうでない層ほど「安全性・人間らしさ」を求める。

 今回の調査結果を見ると、その違いは、現在の幸福感にも表れているようです。ただし、幸福感そのものが原因というより、その人の物事の捉え方が反映されている可能性があります。「今ここ」から離れた未来や社会を想像する人は目的やビジョンを求め、「今ここ」にある具体的な課題を重視する人は、まず安全性を求めます。これはAIに限らない、より一般的な傾向かもしれません。こうした関心の違いが、企業に求めるメッセージの違いにも表れているのだと思います。

 不安は、「自分への影響がどれほど大きいか」と、「何が起こるかわからない度合い」の掛け合わせで大きくなります。今は、AIが生活や仕事に大きな影響を及ぼすかもしれない一方で、その影響を十分に見通せません。だからこそ企業は、AIによって実現したい社会やビジョンを語るだけでなく、安全の基盤を固め、生活者が抱く「今ここ」の不安にも応える必要があります。

3.日本人の職人気質を、AIが大きな力に変える

 ここまでは、生活者がAIをどう受け入れるかを見てきました。では視点を変えて、AIを仕事やものづくりに使う側から見ると、どのような可能性が開けるのでしょうか。

 大きな変化の一つは、一人が扱える仕事の量と範囲が広がることです。従来の組織は、大きな問題を人が扱える単位まで細かく分け、ピラミッド型の階層で再び統合するように設計されてきました。しかし、AIの補強によって処理できる範囲が広がれば、問題をそこまで細かく分けなくても解決できるようになります。

 よく懸念されるのは、部長の下にいた100人が不要になり、部長だけが残るという未来です。けれど実際には、現場の担い手それぞれに、AIによるチームがつくような状態になるのかもしれません。AIは人を減らすためだけの技術ではなく、人を増やさなくても、これまで以上に大きな仕事に取り組めるようにする技術でもあります。

 こうした変化は、自分の世界観を深く作り込む傾向が見られる日本にとって、大きな可能性を持っています。私の見立てでは、日本には、大きな組織を動かすことよりも、ある世界に深く入り込み、納得できるまで追求したいと考える人が少なくありません。日本が漫画や食の領域で強みを持つ背景にも、そうしたつくり手の世界観や職人気質があるのだと思います。

 もっとも、こうした独自性は、従来の大きな経済モデルには乗せにくいものでした。ところがAIを使えば、つくり手が発揮できる能力は大きく広がります。これまでなら200人、300人を雇わなければ実現できなかったことを、気の合う2、3人で形にできるかもしれません。

 AIは、自分の世界を突き詰める力を、そのまま大きな価値へ変える可能性を持っています。日本に根付く職人気質が、AI時代には新しいサービスや事業を生み出す強みになり得るかもしれません。

4.企業は、AIで拡張された人材を活かせるか

 では、つくり手や少数の仲間が、これまで以上に大きな成果を生み出せるようになったとき、企業はその可能性を活かせるのでしょうか。

 企業の中でも、これまで部署全体を動かさなければ実現できなかったものを、若手2人ほどで作り上げることが起こり得ます。そうした人材に、どこまで権限と機会を与えられるかが、大きな課題になります。優秀な人ほど、目の前のオペレーショナルな仕事に配置され、現在のキャッシュフローを支える役割を任されがちです。しかしAI時代には、そうした人を次のビジネスの芽へ投入できるかどうかが重要になります。誰に仕事を任せ、挑戦する機会を与えるのか。そこには企業ごとの哲学が問われるようになると思います。

 私は、日本企業には、組織のサイロ化や、現場を細かく管理する傾向があると感じています。「やっていい」と言われなければ動きにくい組織では、変化の速いAIに追いつけません。失敗やエラーが起こる可能性を受け入れ、現場に持たせる裁量を少し広げる。そこで得られた知見や成功例を組織で共有し、横に展開していくことが重要です。企業が本当に恐れるべきなのは、AIによって何人の仕事を減らせるかだけではありません。競合相手がAIによってアウトプットの速度と質を一気に高め、自社が競争の土台に立てなくなることの方が重大なリスクです。だからこそ、経営者自身がAIの能力を具体的に理解する必要があります。

 私がAIの議論における一つのリトマス試験紙だと思うのは、経営会議が「AI時代に人間に残されるものは何か」という抽象論にとどまっている状態です。経営者自身がAIに触れ、人の能力がどこまで広がるのかを肌で理解しなければ、AIに任せる仕事や、現場に委ねる判断の範囲を具体的に決めることは難しいでしょう。

 その際に重要になるのが、個々人の内発的な動機です。少ない人数でも大きなことを実現できる時代に力を発揮するのは、「ほかの人は知らないけれど、自分はこれをやりたい」という思いを持つ人です。企業には、そうした人材を見つけるだけでなく、「これを作りたい」「この問題を解決したい」という意欲を引き出し、実行に移すための裁量と機会を与えることが求められます。

 AIによって能力を広げた人材を、従来の組織の枠に押し戻すのか。それとも、失敗を許し、その力を新しい事業へつなげるのか。日本に見られる職人気質をAI時代の産業的な強みに変えるためには、企業もまた、つくり手の意欲と挑戦を受け止められる組織へ変わる必要があるのだと思います。

企画・制作・編集:
NEC ブランドエクイティマネジメント室(鈴木章太郎、若山拓巳)、コーポレートブランド&エクスペリエンス統括部(浅井恵美、権田麻実)