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自分を信じられる、他者を信じられる、社会を信じられる
AIとの対話から始まる、新しいウェルビーイング

 AIが日常へ急速に浸透する中、私たちの幸せ(ウェルビーイング)はどのように変わるのか——。NECでは生活者を対象とした調査・分析を行い、その結果を踏まえて5人の有識者へのインタビューを実施。これからの人とAIの関わり方を探ります。

 その中で今回焦点を当てるのは、「人と人のつながり」です。世代や立場による「格差」や「孤立」といった新しい社会課題の輪郭も見え始める中、AIは人と人との関係を分断してしまうのか、それとも支えるものなのか──。シェアリングエコノミー(個人間のモノ・空間・スキルなどの資産をシェアする考え方やライフスタイル)を専門としながら、「人と人との新しい関係性」や「社会のルールづくり」に携わってきた石山アンジュ氏にお話を伺いました。

■調査概要
対象地域:日本全国
調査時期:2026年6月
対象・調査方法:15歳~74歳の男女(一般生活者) 2,057名に対し、インターネットによる調査を実施
調査主体:日本電気株式会社

■調査結果:AIとウェルビーイングに関する生活者調査 AI & Well-being Consumer Survey 2026

SPEAKER 話し手

石山 アンジュ 氏

一般社団法人Public Meets Innovation代表
デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事

シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間の架け橋として規制緩和や政策推進にも従事。 2018年10月 ミレニアル世代のシンクタンク一般社団法人Public Meets Innovationを設立。 新しい家族の形「拡張家族」を掲げるコミュニティ拡張家族Cift 家族代表。USEN-NEXT HOLDINGS 社外取締役。テレビなどのメディアにて、コメンテーターとしても出演多数。Forbes JAPAN「日本のルールメーカー30人」に選出。

1.AIは、人間関係をより良くしてくれる“整理役"になる

 AIが一般に普及してまだ数年ではありますが、私たちにとって、AIはどのような存在になっているでしょうか。自分自身を振り返ってみても、恋愛やキャリアの話から日々の悩み、人生のライフプランまで、既に日常に欠かせない、気軽な相談相手になっていると感じています。だからといってAIが人と人とのつながりを代替してしまうわけではありません。むしろ「人間関係をより良くするためのパートナー」に近いのではないでしょうか。

 人間同士の関係性を改善していくためには、お互いの気持ちを対話の中でシェアし、不安や疑念を解消していくステップが必要です。人の記憶は意外と曖昧で、過去の出来事もその時々の感情によって解釈が変わります。だからこそ、自分や相手の気持ちを客観的に振り返り、冷静に整理するのは簡単ではありません。そこで、AIとの対話で整理した内容を、リアルな人同士のコミュニケーションに活かしていく。AIは、人が自分自身を理解し、他者との関係性をよりよくする手助けになり得ます。相手の都合を気にせず24時間いつでも対話できるため、自分の気持ちを整理したいと思ったその瞬間に活用できる点も価値の一つです。

 一方で、リスクもあります。深刻な孤立や孤独、経済的な困窮といった現実の課題そのものを、AIが解決してくれるわけではありません。そういったリアルな部分までAIに期待してしまうと、むしろ孤立を深める原因や、間違った形で社会とつながってしまう可能性もあると思います。最終的な解決は、社会の制度や人間関係の中にある——そうした選択肢を認識しながらAIと付き合うことが、一人ひとりのスタンスとして重要です。

一般社団法人Public Meets Innovation代表
デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事
石山 アンジュ氏

2.AIが生み出してしまう格差は、社会全体で是正する

 AIが人の良きパートナーになったとして、その恩恵を誰もが同じように受けられるとは限りません。むしろAI活用の差は、これから新たな格差を生み出す可能性があります。AIを上手く使いこなす人ほど生産性を高めたり、高収入な仕事に携わったりする機会を得やすくなるでしょう。そうした機会差が積み重なっていくことで、経済的なメリット・デメリットがAIによって左右され、持てる者と持たざる者の分断を加速させてしまう可能性があります。

図1:プライベートでのAI使用率は全体で72.9%と高水準だが、「日常的に使用している」層は10代(80.6%)から60代以上(40.5%)まで約2倍もの差がある。

 こうした格差を是正するには、個人の努力だけに委ねるのではなく、社会全体での制度設計が必要です。例えば、税金による富の再分配のような発想で、AIによって得られる情報や利益を誰もが享受できる「デジタル資産の再分配」というアイデアもあるかと思います。経済的な事情や居住地域、教育環境などによってAIへのアクセスや活用機会に差が生まれないよう、一定の支援や学びの機会を社会として提供していく。そうした公共的な仕組みが、AI時代の分断を防ぐ上で重要になると思います。

 同時に、AI倫理やリスクを伝える基礎教育といった、学びの機会を与えるサポートも欠かせません。AIは個人の主体性を支える伴走者である——この認識を、AIの普及と共に、広く周知する必要があると思います。

3.自分、他者、そして社会を信じることができるか──ウェルビーイングのための「信頼の設計」

 AIは、人と人との関係性を良くする側面も持ちながら、一方で分断を生んでしまう道具にもなりかねません。では、どのようにAIと向き合えば、幸せを感じることができるのでしょうか。

 それを考えるヒントとして、北欧のウェルビーイングについてお話ししたいと思います。北欧諸国はウェルビーイング大国として知られ、世界幸福度ランキングでも常に上位に位置しています。私は2026年3月に現地を視察したのですが、そこで感じたのは、人々の幸福感の根底には「ソーシャルトラスト(社会への信頼)」と「セルフトラスト(自分自身への信頼)」があるということでした。社会が自分を支えてくれるという安心感や、自分自身を肯定して信じられる感覚、そして他者との間に基本的な信頼が存在していることが、人々の幸福感と強く結びついているのです。

北欧視察の様子(写真提供:石山 アンジュ氏)

 言い換えれば、「幸せではない状態」とは、「不安や疑念を抱えている」ということです。そして、その不安を払拭するためには信頼が必要だということです。そう考えると、AIとウェルビーイングの共存とは、「AIを日常的に活用しながらも、自分の感覚や判断、そして社会のあり方を信じられている状態」なのではないかと思います。

 ただ、その信頼は自然に生まれるものではありません。重要なのは、AIに全てを委ねるのではなく、その仕組みを理解した上で主体的に使うことです。自分で考え、自分で選び、その結果を引き受ける。そうした体験の積み重ねが自分への信頼につながっていくのだと思います。ですが、実際には、私たちはそうした主体的な選択をしづらい環境の中で暮らしています。例えば、嗜好や行動履歴に基づいて商品や情報が提示される「レコメンドエコノミー」がその典型です。無意識におすすめされたものを選び続けるうちに、「自分で選んだつもり」が増えていく。本来はデジタルプラットフォームが普及する過程で、社会や企業は十分な消費者教育・消費者倫理と向き合うべきでした。ですが、そのような機会がないまま、AIによってその流れはさらに加速しているのが現状です。

 AIも含めたデジタルの世界が、どんな経済の仕組みで動いているのか。そこにはどんな企業・団体の思惑やリスクが潜んでいるのか。こうした裏側の構造を把握することで、便利な技術に振り回されるのではなく、自らの主体性を持って判断を下すことができるようになるのだと思います。

 そして信頼の構築には、ユーザー側のリテラシー教育だけでなく、AIサービスを提供する事業者側の姿勢も重要です。AIとの対話を通じて自分自身への信頼を育み、他者との信頼関係を深め、結果として社会により良く参画できる──そうしたAIと「信頼」の接続性をどのように設計できるか。その視点を開発段階から持つことが、AI時代の信頼を社会全体で育むことにつながると考えています。

4.AIを信じるかではなく、“AIによって人と社会への信頼が増えたか”を問う

 今後、本当の意味でAIとウェルビーイングの共存を目指すためには、どのようなものさしで社会の変化を見ていくべきでしょうか。私は、いわゆる「AIへの信頼度が上がったかどうか」を指標とするのではなく、AIが普及していく過程で、自分自身や他者、社会とのつながりを前向きにとらえられる度合いがどれぐらい増えたかということを見ていくべきではないかと思います。

 例えば、「友達と喧嘩してしまった時に、AIが状況や感情を整理してくれて、仲直りすることができた」という場合、それはAIが人と人との信頼関係の再構築を助けたということになります。そうした人間関係をより良くするツールとしてAIがあり、その働きによって自分や他者や社会への信頼が高まっていくという体験が重要だと思います。

 こういった体験は、ウェルビーイング研究で重視される「社会関係資本(人同士のつながりや信頼関係を資本として捉える考え方)」の増幅にもつながります。AIが人と人とのつながりを補助し、相互理解や協力を後押しする存在になれた時に、単に便利な社会ではなく、より豊かで幸福な社会へと近づいていけるのではないでしょうか。

企画・制作・編集:
NEC ブランドエクイティマネジメント室(鈴木章太郎、若山拓巳)、コーポレートブランド&エクスペリエンス統括部(浅井恵美、権田麻実)