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のび太とドラえもんに学ぶ、AI時代の「望みを言葉にする力」

 AIが日常へ急速に浸透する中、私たちの幸せ(ウェルビーイング)はどのように変わるのか——。NECでは生活者を対象とした調査・分析を行い、その結果を踏まえて5人の有識者へのインタビューを実施。これからの人とAIの関わり方を探ります。

 今回の調査では、AIを一方的に使うのではなく、確認や対話を重ねながら使う人が多いことが分かりました。しかし、AIによって自由度や自律感が増えても、達成感が減ったと感じる人もいます。AIは便利な「道具」なのか、それとも心や意図を感じる「仲間」になり得るのか。「ともにドラえもんをつくる」ことをビジョンに掲げ、人とAIが互いを理解し合える関係を探究する大澤正彦氏に、AIを「道具」や「仲間」として捉える意味と、人が主体性を保ちながら幸せになるための関わり方を伺いました。

■調査概要
対象地域:日本全国
調査時期:2026年6月
対象・調査方法:15歳~74歳の男女(一般生活者) 2,057名に対し、インターネットによる調査を実施
調査主体:日本電気株式会社

■調査結果:AIとウェルビーイングに関する生活者調査 AI & Well-being Consumer Survey 2026

SPEAKER 話し手

大澤 正彦 氏

日本大学 文理学部 情報科学科准教授
次世代社会研究センター(RINGS)センター長 博士(工学)

1993年生まれ。東京工業大学附属高校、慶應義塾大学理工学部をいずれも首席で卒業。学部時代に設立した「全脳アーキテクチャ若手の会」が2,600人規模に成長し、日本最大級の人工知能コミュニティに発展。IEEE CIS-JP Young Researcher Award (最年少記録)をはじめ受賞歴多数。新聞、webを中心にメディア掲載多数。孫正義氏により選ばれた異能をもつ若手として孫正義育英財団会員に選抜。認知科学会にて認知科学若手の会を設立、2020年3月まで代表。著書に『ドラえもんを本気でつくる(PHP新書)』

1.AIで自由になっても、幸せになるとは限らない

 AIが暮らしに浸透したことで、私たちは本当に幸せになっているのでしょうか。今回の調査結果を見ると、AIによって自由度や自律感は高まっている一方で、達成感はむしろ減ったと感じる人もいるようです。ただし、重要なのは平均値だけを見ないことです。同じようにAIを使っていても、仕事が楽になった人もいれば、むしろ疲れるようになった人もいます。例えばプログラミングでは、手を動かす作業をAIが担うようになった分、人間は仕組みや判断について考え続けることになります。作れる量は増えても、頭を休める時間が減り、以前より疲れる人もいるのです。

図1:AI利用後の実感では、「思考の自由度が広がった」が70.1%、「自分のペースで主体的に進められる」が67.9%だった一方、「自分でやり遂げたという達成感が減った」は58.4%となった。

 また、本人の実感と周囲から見た成果が一致するとも限りません。AIによって負担が軽くなったと感じていても、出力を十分に精査できなければ、成果の質が下がり、周囲からの信頼を損なう場合があります。反対に、本人は以前より大変になったと感じていても、周囲からは生産性が向上したと高く評価されることもあります。このように、AIを使っているかどうかだけでは、その人の体験や成果は説明できません。同様に、AIの利用頻度とAIを適切に使いこなす力も別ものです。AIを頻繁に使っていても、出力を適切に評価できるとは限りません。反対に、利用頻度が低くても、AIの特性やリスクをよく理解している人もいます。利用頻度とAIリテラシーは、分けて捉える必要があります。

 今回の調査だけでは、AIの使い方が幸福を生んだのか、もともと幸福感の高い人がその使い方を選んだのかまでは分かりません。だからこそ、「どうすればAIを使って幸福になれるのか」を考えるには、AIだけでなく、人間の側に求められる力にも目を向ける必要があります。

日本大学 文理学部 情報科学科准教授
次世代社会研究センター(RINGS)センター長
博士(工学)
大澤 正彦氏

2.のび太に学ぶ「AI時代のリテラシー」

 僕は、「ともにドラえもんをつくる」ことを目標に、人と意思疎通できるAIを研究しています。だからこそ、AI時代に人間に必要な能力を考えるうえで注目したいのが、のび太によるひみつ道具の使い方です。

 のび太は、ドラえもんからひみつ道具を出してもらっても、うまく使えず、望んだ結末を得られないことがあります。このように、のび太にはAIリテラシーに課題がありますが、重要な才能も持っています。「何かやりたい」「これに不満がある」「こうしたい」と、自分の望みを言葉にして声を上げられることです。AIを活用していない人からは、「何に使えばよいか分からない」という声も聞かれます。自分の中に問いがなければ、AIに何を聞けばよいかも分かりません。自分のテーマやプロジェクト、痛みや悩みを言葉にし、助けを求められることは、AI時代における最大の才能です。その望みを言語化し、AIへの入力につなげる力が「入り口のリテラシー」です。

 ただし、望みを伝えるだけでは十分ではありません。AIから得た答えを適切に扱えなければ、のび太のように期待した結果を得られないからです。AIに問いを与え、返ってきた答えの意味や妥当性を見極める「出口のリテラシー」も欠かせません。僕自身、新しい分野の研究費申請書をAIで作った際、それらしい文章は出てきましたが、良し悪しを精査できないことに気づきました。そこで、出てきた内容を一つずつ調べ、妥当性を確かめながら、その分野を学んでいきました。AIによって作業の効率は上げられても、内容を理解し、判断する力まで任せることはできません。AIの出力を適切に扱うには、自分自身がその内容を評価できる状態になる必要があります。

 こうしたリテラシーを身につけたうえで、何をAIに任せ、何を自分で行うかも決める必要があります。僕の場合、講演会の資料は絶対にAIで作りません。スライドに現れている以上に自分の中で考えたことがあるからこそ、僕が講演する意味があると思うからです。知り合いのPRプランナーも、プレスリリースだけは自分で書くと決めています。それは、自分で書いた方が文章の品質が高いからではありません。書く過程に、自分の考えを整理する時間が含まれているからです。AIに任せれば効率化できることでも、その過程を自分で行うことに意味がある場合があります。何を自分で担い、何をAIに頼るか。その境界を自分で決めることが重要だと考えています。

3.同じAIでも、人によって見え方は異なる

 生成AIの使われ方を見ていると、業務効率化の道具として使う人がいる一方、悩みを相談し、共感してもらう相手として接する人もいます。こうした人とAIの関わり方を読み解く手がかりとなるのが、「設計スタンス」と「意図スタンス」という考え方です。

 設計スタンスとは、複雑な内部の仕組みではなく、設計された機能や入力と出力の関係から、対象の振る舞いを理解する捉え方です。生成AIであれば、「この指示を与えると、このような答えが返る」と考え、目的に合わせて道具として使います。

 一方、意図スタンスとは、対象にも自分と似た心や意図があると仮定し、人に接するように関わる捉え方です。生成AIに悩みを相談し、「心配してくれた」「共感してもらった」と感じるとき、人は回答の背後にAIの意図を読み取っています。

 設計スタンスと意図スタンスは、AIの種類ではなく、AIを人間側がどう捉えるかの違いです。一方、AIそのものにどのような役割を担わせるかについては、別の視点で考える必要があります。そこで考えたいのが、「道具のAI」と「仲間のAI」です。

4.「道具のAI」と「仲間のAI」を混同しない

 よく、「AIは道具なのか、仲間なのか」と聞かれます。でも、僕はどちらか一方だとは考えていません。一つのAIが道具でもあり仲間でもある、ということでもない。「道具のAI」と「仲間のAI」が、それぞれいるということです。

 「道具のAI」とは、仕事や作業を正確に進めるためのAIです。任せたタスクを正しく遂行し、どのように振る舞うかを予測できることが、よい道具の条件になります。

 一方、「仲間のAI」とは、人が相談したり、関係を築いたりする相手となるAIです。仲間が常に自分の思い通りに動くことはありません。予想と異なる振る舞いをしても、その理由を後から理解でき、そこに善意があると納得できることが重要です。「予測不能でもいいから、解釈可能であれ」ということです。例えば、子どもがお皿を運ぶ途中で中身をこぼしても、手伝おうとした意図が伝われば、失敗したから信頼できないとは考えません。仲間のAIも同様に、結果だけでなく、善意を向けていると信じられることが重要です。重要なのは、仲間のAIを、わざと不完全にすることではありません。意図的に失敗するよう設計すれば、かえって信頼を失います。道具のAIには成果と予測可能性を、仲間のAIには行動の理由を理解できることと、善意への信頼を求める。それぞれを別の基準で設計する必要があります。

 AIが人を幸せにするのか、不幸にするのかは、まだ分かりません。だからこそ作り手には、便利な機能を増やすだけでなく、誰のどのような場面を支えるAIなのかを考え、その目的を利用者に伝える責任があります。「この人たちがつくるAIなら信頼できる」と思ってもらえるよう、人と対話を重ねながら設計していく。その姿勢が、AIを人の幸福につながる方向へ導くのだと思います。

 本記事はNEC「AIとウェルビーイングに関する生活者調査」をもとに作成しています。調査結果はこちらから。

企画・制作・編集:
NEC ブランドエクイティマネジメント室(鈴木章太郎、若山拓巳)、コーポレートブランド&エクスペリエンス統括部(浅井恵美、権田麻実)