本文へ移動

AIを超える、「超体験」を作り出せ
──若者研究から見る、AI時代の消費動向と成長のゆくえ

 AIが日常へ急速に浸透する中、私たちの幸せ(ウェルビーイング)はどのように変わるのか——。NECでは生活者を対象とした調査・分析を行い、その結果を踏まえて5人の有識者へのインタビューを実施。これからの人とAIの関わり方を探ります。

 今回の調査では、特に10代・20代の若年層でAI活用が加速度的に進む一方、「AIの登場で幸福感は変わらない」と答えた人が7割を超えました。生活が便利になったはずなのに、なぜ幸福感は変わらないのか。約30年にわたり若者文化を研究されているマーケティングアナリストの原田曜平氏に、若年層とAIの関係性をお聞きしました。

■調査概要
対象地域:日本全国
調査時期:2026年6月
対象・調査方法:15歳~74歳の男女(一般生活者) 2,057名に対し、インターネットによる調査を実施
調査主体:日本電気株式会社

■調査結果:AIとウェルビーイングに関する生活者調査 AI & Well-being Consumer Survey 2026

SPEAKER 話し手

原田 曜平 氏

マーケティングアナリスト
芝浦工業大学 デザイン工学部UXコース教授

広告業界で各種マーケティング業務を経験した後、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。BSテレビ東京番組審議会委員。マーケティングアナリスト。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされ、さまざまな流行語を作り出している。

原田曜平研究室 https://yoheiharada-lab.com別ウィンドウで開きます

1.今、若者の間で広がるAIの「使いこなし格差」

 私が長く若者研究を続けているのは、若者が最も変化に敏感な世代だからです。社会全体が変わっていく手前の段階で、変化の兆候をいち早く捉えられる。いわば「近未来研究」なのです。今回の調査でも、若い世代ほどAIの利用率が高く出ていました。つまりこの層のAI動向を見ていけば、これからの社会の変化の兆候やAI利用の課題が見えてくるという予測が立てられます。

図1:プライベート用途でのAI利用頻度は、若年層になるにつれて高い水準となっている。

 ただ注意したいのは、2026年現在、10代の大半はZ世代(現在の15歳〜30歳)に含まれます。 彼らはむしろ「SNSネイティブ」であり、幼少期からAIに触れているα世代(15歳以下)こそが、本当の意味での「AIネイティブ」になるのだと私は考えています。

 私は現在α世代の研究も行っており、2026年11月4日には「α世代 超格差社会を生きるAIネイティブ」(祥伝社)という書籍を出版予定です。この研究の過程でも全国のさまざまな小中学生にインタビューを行い、他の世代との差がたくさん見えてきました。相談相手が親や友人ではなくAIになっている小学生や、AIの回答にハルシネーションを一度も感じたことがなく、全面的に信じ切っている子も少なくありません。なので、世代差が本当に大きく表れるのはこれからではないでしょうか。

 既に、今のZ世代の間でもAIとの向き合い方や成果には大きな違いが生まれ始めています。私は大学で教えているのですが、多くの学生が深く考えずにAIを使っている一方で、プロのコピーライターやデザイナー顔負けの成果物を出してくる子もいます。この差は今後、α世代ではさらに大きく開いてしまうのではないかと思っています。

マーケティングアナリスト
芝浦工業大学 デザイン工学部UXコース教授
原田 曜平 氏

2.「自分は何をしたいのか」を持つ人が、AIから”自分だけの答え"を引き出せる

 AIを効果的に活用できている人と、AIに依存して頼り過ぎてしまう人。その差は、単純な学力だけでは説明できないように思います。私の教えている大学のゼミでの話ですが、AIを活用して周囲の学生も驚くほど質の高い資料を作成する学生がいました。よく話を聞いてみると、彼は以前からゲーム攻略のために日常的にAIを使っていて、プロンプトの工夫を重ねてきたといいます。同じ大学に通う学生の中でも、普段からのAIとの向き合い方によって得られる成果に大きな差が生まれていることに驚きました。

 最近私がインタビューした、地方に住むコスメ好きの大学生の例も印象的です。彼女が住む街にはコスメショップが少なく、実際に商品を試せないことに不満を感じていたそうです。そこで、自撮り写真をAIに読み込ませながらプロンプトを試行錯誤し、自分に似合うコスメ選びを楽しんでいるといいます。AIの活用によって地理的な制約を補い、自分らしい選択の幅を広げている姿に、新たな可能性を感じました。

 この二つの事例に共通しているのは、AIを単なる便利なツールとして使っているわけではない点です。AIに答えを委ねるのではなく、「自分は何を実現したいのか」「物事の本質はどこにあるのか」を考えながら活用している。そうした目的意識を持つ人ほど、AIから他の人とは違う、独自の価値や答えを引き出すことができているのではないでしょうか。

3.AIが生成する世界を超える、想定外の「超体験」が人を動かす

 これほどまで日常に浸透しているAIですが、幸福感への影響はまだ限定的のようです。とはいえ、若者がよく使うSNSでは、AI加工やChatGPT構文などのAI関連トレンドが次々に生まれており、余暇の楽しみ方の選択肢を広げている側面は十分あると感じています。

図2:「AI活用で幸福感が向上した」と回答した人が18.2%いる一方、75.7%は「変わらない」と回答。AIを使えば幸せになるとは限らず、「どう使うか」が問われている。

 それはある意味で、さまざまなアプリやSNS、あるいは遊園地のようなリアルな体験を生み出す場所にとっても、AIが競合になるという予兆と言えるでしょう。同時に、AIが十分に満足を与えてしまう時代には、中途半端な「リアルの価値」は通用しなくなる、とも感じています。よく「アナログな体験が重要」だとか「人と人とのふれあいに価値が残る」などと言われますが、雪山にいるような写真も、アフリカで猛獣に襲われそうになっている写真も、AIで簡単に生成できる時代です。AIが作る世界観を大きく飛び越える、いわば「超体験」がなければ満足できない状況になっているのだと思います。

 そんな今、”尖った若者”が急に現れ始めています。「お歯黒」や「スパイキーショート」などの個性的なファッションを取り入れる若者の姿も見られるようになりました。私はこれを、「AIが作り出す世界観への無意識の反応」だと見ています。アプリなどで、少し小顔に加工したり足を長くしたりすることは簡単にできますが、それだけでは他の人と代わり映えしません。むしろ「あの子、この間会ったら歯が黒かったよ!」というくらい衝撃的で強烈な個性があってはじめて、他の人とは違う自分になれる。中途半端なおしゃれさや美しさではAIが生成するものを超えられないため、そこまで踏み込まなければSNSで「いいね」ももらえないし、友達との話題にもならない。だからこそ、AIの想定外の世界観を模索しているのではないかと考えています。

 こうした流れは、リアルな場でも同様です。例えば、「変わった食器でご飯を食べられるカフェ」や、「“イケメン”がたくさんいる遊園地」など、強い話題性と付加価値がなければわざわざ行かなくていい、となっています。そんな、AIを超える「超体験」をいかに作り出せるか。これからのマーケティングや企業の製品・サービス開発のカギになってくると思います。

4.AI時代にこそ、人と“深く向き合う”覚悟が求められる

 ここまで、若者のAIとの向き合い方や使いこなしの差、若者が求める「超体験」の重要性について触れてきました。ですが本当の意味で変化を求められているのは、実は経営者や上司、教育者といった管理・教育側の人間なのではないでしょうか。

 生成AIの普及によって、就活の自己PR、仕事の資料やレポートも、一定の水準までは整えられるようになりました。ですが、その表面的な完成度だけで評価してしまうと、若者が理解不足やスキル不足に気づくきっかけを失ってしまいます。無思考のままAIを使い続けているだけでは、本当の意味での成長にはつながりません。私が長く若者たちを見てきて思うのは、人が成長するためには、「若い頃に、実力よりも少しだけ高いハードルを越えた」という経験が欠かせないということです。自分で自分に適切な負荷をかけることは難しいからこそ、上司や周囲が一人ひとりをよく観察し、挑戦の機会を与える必要があります。「この子はどこまで理解できているのだろう」ということを真剣に見つめて、「成長の余地があるから、次はこんな課題を出してみよう」と考える。そこまでやらなければ、若者自身に、自分が無思考であったことを気づかせることはできません。

 人と真剣に向き合うことは、時間も労力もかかります。また、真に若者を理解するためには、指導する側もAIのリテラシーを高めなければいけません。自分たちが彼らと同じレベルでAIを使いこなせるようになってはじめて、指導や注意、教育ができるのです。社会における人間関係は、どんどん希薄化する方向へ進んできましたが、AI時代だからこそ、逆に関係性を深めていかなければいけない——それが、管理・教育を担う我々のような世代に求められている覚悟だと考えています。

 本記事はNEC「AIとウェルビーイングに関する生活者調査」をもとに作成しています。調査結果はこちらから。

企画・制作・編集:
NEC ブランドエクイティマネジメント室(鈴木章太郎、若山拓巳)、コーポレートブランド&エクスペリエンス統括部(浅井恵美、権田麻実)