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コロナ禍の1年を総括! wisdomの人気記事ランキングから見えてきたトレンドとは?
2021年度、世界はコロナ禍の中で2年目を迎えた。そんな中、wisdomではどんな記事が読まれたのか。記事へのアクセス傾向から、世の中のどのような動きが見えてくるのか。wisdom編集部では、編集部員3人による座談会を実施。コンテンツのアクセスランキングを基に、人気記事の傾向を読み解きながら、2021年度を総括した。
2021年度、多く読まれた人気記事のキーワードとは
櫻井:最初に、2021年度にどんな記事が多く読まれたのかを見ていきたいと思います。まずメールマガジンや広告、SNSなども含めた総合アクセス数では上期に「ウェルビーイング」や「スマートシティ」「空飛ぶクルマ」などの記事、下期には「SDGs」関連の記事がランクインします。次に、自然検索によるアクセスランキングを見ると、2021年度は「ウェルビーイング」が年間を通して不動の人気を誇っており、下期には「フードテック」や「EBPM(Evidence-Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)」「水不足」「SDGs」などの記事がランクインしています。
森藤:2020年度は「コロナワクチン」「Zoom」「ソーシャルディスタンス」など、「コロナ禍にどう対処するか」という内容の記事がランキング上位を占めました。それに比べるとコロナ後の動きを見据えた記事が多く読まれているようですね。
櫻井:これらの結果を基に、今日は、①「SDGs」、②「ウェルビーイング」、③「スマートシティ」、④「DX新サービス」、⑤「グローバル」という5つのキーワードを取り上げ、現在、そして今後のトレンドを考えてみたいと思います。
SDGs ~「個人的関心」から「業務上の問題意識」へ~
櫻井:1つ目の「SDGs」について取り上げたいと思います。2015年9月、国連総会で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。その中で掲げられたのが、17の目標と169の達成基準からなるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)です。
松村:コロナ禍が始まって2年が過ぎましたが、「SDGs」は大きなキーワードになりつつあると感じます。wisdomでは2018年から、SDGsワークショップを定期的に開催しているのですが、初期のころと比べると、参加者の属性も変わってきましたよね。
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櫻井:以前は、「SDGsとは直接関係のない部署にいるが、個人的に興味がある」という方が多かったのですが、最近はCSRやSDGsに関連した部門の方が増えました。今年度は、「SDGsを自分の業務にどう落とし込むか」という問題意識をもって参加される方が多かったという印象です。
森藤:2021年は、TV番組でSDGs特集が組まれたりして、メディアでもSDGsがずいぶん取り上げられましたよね。その影響で、世の中の関心が高まったことも、アクセスランキングに反映しているのではないかと思います。
櫻井:今、人気記事で常に上位にいるのも、SDGsの解説記事ですよね。広告やメールマガジンからの誘導でも、SDGsの記事はよく読まれていて、閲覧ニーズが非常に増えていると実感しています。
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2021年08月30日
松村:SDGsが、企業として取り組むべき重要なテーマになりつつあるんでしょうね。今はESG投資も広がってきて、SDGsにきちんと取り組んでいない企業は、投資家から評価されなくなっています。世界的アパレル企業も、下請け工場の労働条件に細心の注意を払わないと、厳しく責任を問われる時代です。
櫻井:今は若い人たちの方が、SDGsやエシカル消費(環境や人権などに配慮された商品・サービスを選択すること)への関心が高いですよね。ものを買うとき、値段以上に、商品の質や背景、流通経路などを気にする若者が増えているように思います。
大人の場合、SDGsを学ぶ動機としては、多分に業務上の必要や義務感もあると思うのですが、若い世代の人たちは、純粋に「社会のためによいことをしたい」という思いが強い。むしろ若者の方が、SDGsへの関心が深いのかもしれませんね。
森藤:私も同じ意見です。先日、高崎経済大学の講義を取材したのですが、大学でもSDGsの授業が始まっていることを知って、感慨深いものがありました。
企業から講師を招いてワークショップを行い、「持続的な社会をつくっていくために何をすべきか」というテーマで学生たちが議論するのですが、若い世代からこうした場でサステナビリティな未来を学ぶ姿勢にとても刺激を受けました。
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2021年12月24日
ウェルビーイング ~コロナ禍で「幸せ」の定義が変わった~
櫻井:次に「ウェルビーイング」について見ていきたいと思います。2020年度後半からウェルビーイングに関する記事アクセス数が伸びて、2021年度に最も注目を集めた記事となりました。
この記事を掲載したのは2019年秋ですが、コロナ禍になりアクセス数が急増しました。この記事では、「ハピネス」が「感情的で一瞬しか続かない幸せ」であるのに対して、「ウェルビーイング」は「持続する幸せ」と定義されています。
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2019年09月10日
松村:やはり、コロナ禍で「幸せ」という価値観の定義が変わり、お金や地位よりも、心身ともに健康で、人とのつながりがあることが本当の幸せなんだ、という意識が広まったのかもしれませんね。
森藤:「ウェルビーイング」は今年のトレンドワードですよね。コロナ禍で家にいる時間が増え、自分を見つめ直して、「豊かな生活」とは何だろうと自問自答する動きが広がった。そんな世の中の意識の変化を反映して、「ウェルビーイング」という言葉が、バズったのかもしれませんね。
松村:そうですね。リモートワークができるようになって、地方移住という選択肢が出てきて、「自分はどこで、どんな風に生活すると幸せなのか」と考える人が増えた。その一環として、「ウェルビーイング」を意識し始めたのではないかと感じています。
森藤:地方に移住すると、生き方もかなり変わってくると思うんです。都会の生活とはまた違った不自由さもあるとは思いますが、移住先の地域とのつながりができれば、その土地で自分が担える役割もあるかもしれない。都内では経験できないような時間の過ごし方もあるかもしれませんね。
その意味で、まずは「自分が何を求めているのか」を明確にすることが必要なのかもしれません。
櫻井:今、つながりという話がありましたが、在宅ワークになると、人と話す機会は激減しますし、リモートワークだと雑談もしづらいですよね。出社していたころは、「人とコミュニケーションする」ことで息抜きをしていたけれど、今は「スマートフォンを見る」「音楽を聴く」という、自分だけの息抜きに変わった。人によって、それが快適と感じる人もいれば、つらいと感じて思い詰めてしまう人もいる。そこは二極化しているかもしれませんね。
森藤:全員が同じ環境に置かれても、それに対する反応や感じ方は人によって違う。今までとは違うかたちで、生き方の多様化が進んでいるのかもしれませんね。通勤時間がなくなった分、自分の時間が増えて、体を鍛え始める人もいれば、料理を始める人もいる。いろいろな生き方が選択できるようになったという意味では、「ウェルビーイング」を考える機会になったのかと思います。
スマートシティ ~「空飛ぶクルマ」の未来に、高い注目度を集める
櫻井:「スマートシティ」関連でも、2021年度は多くの記事がランクインしました。アクセス数を見ると、とスマートシティの解説記事が上位にランクされています。それから、前橋市の自動運転バスの記事も、SNSでかなり拡散されました。
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2021年01月14日
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2021年07月15日
森藤:2020年に「スーパーシティ法案(正式名称:国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案)」が可決され、国もスマートシティの実現に向けた動きを加速させています。世の中のニュースを見ても、さまざまな自治体が、スマートシティ計画に取り組んだ1年だったと思います。
櫻井:「スマートシティ」の中には、「自動運転」や「EBPM」、「ネット投票」などさまざまなトピックが含まれますが、一貫して人気が高いのは「空飛ぶクルマ」ですね。この分野は、新着記事がリリースされるたびに、上位にランクインしています。
森藤:2025年の大阪・関西万博に向けて「空飛ぶクルマ」の整備が進んでいますし、開発元のSkyDriveさんも、最近はTVによく登場されていますよね。その意味では、「空飛ぶクルマ」に対する世間の認知が広がってきたことも、アクセス増につながっているように思います。
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2021年01月12日
櫻井:そのほかのトピックとしては、「ネット選挙」や「EBPM」の記事もランクインしました。こうした分野でも、デジタル化への期待は高まっているようです。
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2022年01月17日
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2020年03月26日
松村:2021年11月にはデジタル庁でEBPM推進委員会が開催されたり、12月には「デジタル社会実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。その中に、「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」という文言があり、「EBPMを活用してサイレント・マジョリティの声を政策に採り入れていこう」という意識があるのかな、と感じました。
森藤:自治体の政策が、データとエビデンスに基づいて実施されるなら、住民としても安心ですよね。EBPMが普及することで、自治体と市民が互いに信頼し合える関係を築けるのではないか、と期待しています。
櫻井:それから「ネット選挙」の記事も、選挙のたびにアクセス数が上がりますよね。「コロナ禍なのに、なぜ投票所に行かないと選挙ができないのか」と、疑問に感じた人も多かったのだろうと思います。
森藤:こういう記事へのアクセスが増えている理由としては、コロナ禍でデジタル化の底上げが進んだことも大きいですよね。企業や行政が、コロナ禍という外的要因による影響でDX化を迫られ、生活する人々もデジタルに対する抵抗感が少なくなってきた。それが、スマートシティやEBPMに対する関心の高さにつながっているのかもしれません。
松村:ただ、デジタル化によるセキュリティに対する不安は、完全に払しょくされたわけではないんですよね。アクセス数を見ると、生体認証やセキュリティ関連のキーワードもランクインしている。デジタル化は進んでいるけれど、セキュリティは本当に担保されるのか。そんな不安が、ランキングから浮かび上がってくるような気がします。
森藤:「スマートシティ」については、地域でもさまざまな事例が出てきていますね。人口減少で危機感を感じている自治体や地場企業も多く、新しい地域のあり方を模索する動きが広がっています。
その意味で、最近、注目されているのが「サーキュラーエコノミー(循環経済)」です。これは、製品や原材料を「資源」ととらえ、再利用しながら循環させる経済の仕組みのことで、wisdomでは、クリエイターの齋藤 精一さんが、連載記事の中で「スマートシティ」や「サーキュラーエコノミー」について発信しています。
この連載は「アートやデザインの視点で、ビジネスと社会をどうつくっていくか」がテーマですが、まちづくりの未来像についての知見が豊富で、固定ファンも多い。アクセス数が多く、注目度は高いですね。
DX新サービス ~デジタル化の進展に伴い、大きな期待を集める新サービス~
櫻井:それでは次に「DXの新サービス」について取り上げたいと思います。コロナ禍でデジタル化が進み、業務や暮らしを大きく変えるような新サービスの事例紹介も注目され始めています。その1つが、生体認証技術を活用した次世代店舗の事例です。
例えば、NEC本社の地下には「レジレス店舗」があり、社員は棚から商品を取って、そのまま店を出るだけで、自動的に決済を済ませることができます。顔認証とIoTセンサーによるセンシング技術を組み合わせることで、入退から決済までを手ぶらで済ますことができる仕組みです。この事例記事もアクセスはかなり多かったですね。
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2021年05月31日
森藤:2021年8月に東京で開催された世界的スポーツイベントの記事も、注目度は高かったですね。このイベントでは、世界で初めて顔認証による入場管理を導入し、選手やプレスの入退を顔認証で行いました。最先端テクノロジーを活用し、選手や関係者の安全・安心をいかにして守っていくか、日本のレガシーとして今後の期待にもつながったのかと思います。
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2021年10月21日
櫻井:新しい取り組みとしては、ペットの活動データを基にAIで感情を可視化し、LINEでペットとの“トーク体験”ができるソリューションというのもありましたね。
森藤:成田空港の記事もアクセスは多かったですね。これも、顔認証技術を使って、チェックインから搭乗ゲートまで通過できる新たな搭乗手続きシステム「Face Express」の導入事例です。
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2021年04月21日
グローバル ~情報の「鮮度」で他メディアを圧倒する連載に高い評価~
櫻井:最後のキーワードは「グローバル」です。wisdomでは、田中 信彦さんの「深層中国 ~巨大市場の底流を読む」と、織田 浩一さんの「北米トレンド記事」など、世界の最新動向をテーマにした連載も掲載しています。
松村:田中さんの連載は、さまざまな現象を独自の視点で深掘りされています。例えば日本では、企業の経済活動を助けるために、国が政策を実施します。ところが中国では、昨年8月に「学習塾禁止令」を出した。少子化を解消し、大卒者を減らして実務・技能系の人材を増やするためですが、それによって「教育」という1つの市場が消滅してしまうわけですよね。
日本だとありえない政策ですが、その背景を深掘りすることによって、国が世の中を動かしている中国の実態を垣間見ることができます。
櫻井:この記事が出た直後に、ニュースでも「学習禁止令」が取り上げられていて。本当にリアルタイムでしたよね。それから、アメリカの連載をされている織田さんのレポートも、最先端の事例が多いですね。織田さんはリテール系に強いので、その分野の記事はかなり充実していると思います。連載の中で紹介されていたトレンドが、1年後に日本にやってくるという感じで、本当に先取りをしているという印象です。
wisdomらしさを意識しつつ、世の中のトレンドをタイムリーに発信
櫻井:これまで人気記事からさまざまなトレンドを見てきました。それを踏まえて、最後に今後の記事づくりについての抱負をお願いします。
森藤:wisdomとしては、世の中の動向に沿った情報をご提供できているのではないかと感じています。今後も読者の皆さんが関心をお持ちのトピックをいち早く取り上げて、最新の情報をお届けしていきたいと思います。
松村:SDGsやウェルビーイングの記事を読んでいると、最近は生き方が本当に多様化していると感じます。ということは、きっと読者の方の興味も多様化されているはず。そうした興味に刺さる内容を深掘することで、皆さんに読んでいただけるような記事を発信していきたいと思います。
櫻井:そのためにも、読者の声に耳を傾けながら、世の中の動きに対するセンサーの感度を高めていく必要がありますね。ただ単にトレンドワードを解説するだけでなく、キーワードの背景や課題、その解決策に至るまで、一連のストーリーとして記事が成立しているのがwisdomのよさだと思っています。そうした独自性を大事にして、wisdomらしい記事を発信していきたいと思います。
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